「インタラクティブ・マーケティング(顧客との対話に基づく企業活動)」をテーマに、マーケティング領域のトレンドを発信してきた月刊『アイ・エム・プレス』が、3月25日発行の215号をもって、足掛け20年に及ぶ 歴史に幕を閉じた。
創刊以来、インタラクティブ・マーケティングを実践する企業1,000社以上を取材してきた同誌。「企業とお客様とのコミュニケーションのストレスを解消したい」という思いの下、企業と顧客との双方向性に基づくマーケティングの大切さを一貫して伝えてきた。 今回は、㈱アイ・エム・プレスの西村道子代表取締役社長に、創刊動機と約20年間の歩み、業界の変化、そして最終号の特集「インタラクティブ・マーケティングの未来予想図」の読みどころについて話を聞いた。
出版のきっかけは「企業とお客様とのコミュニケーションのストレスの解消」
アメリカで1960年代後半から広がった「ダイレクトマーケティング」が、日本でまだ市民権を得ていなかった1995年。月刊『アイ・エム・プレス』が、顧客との関係づくりを支援するマーケティング情報誌として産声をあげた。 発行人は、マーケティングリサーチ会社に勤務していた西村道子氏。通信販売や顧客の組織化にかかわるプロジェクトを通して、「これからの時代、顧客視点に基づくインタラクティブなマーケティングを展開することで、企業と顧客との間に横たわる『コミュニケーションのストレス』を解消できるのではないか?」という思いから会社を辞め、起業を決意したという。 社名であり、誌名でもある「アイ・エム・プレス(I.M.press)」は、“Interactive(双方向性のある)”と“ Marketing(顧客づくり)”の頭文字を取ったもの。「CRM」や「ダイレクトマーケティング」を含む双方向のマーケティングを意味している。
西村氏は当時をこう振り返る。 「創刊当初、日本で顧客視点のマーケティングの大切さを唱える人は、ごく一部に過ぎませんでした。CRMという言葉さえ、使われていなかったのです。当時は、企業が商品・サービスを不特定多数に宣伝・販売するマスマーケティングの感覚が色濃く残っていました。しかし弊誌では、ダイレクトマーケティングをはじめとするインタラクティブ・マーケティングが、未来のマーケティングの中心になると予測していたのです」。
時代を先読みしたテーマで、明日のトレンドを発信
同誌は、まるで時代の先を読むかのように、Windows95が発売された1995年の創刊号で「Eコマース」の時代が来ることを予測。翌年には、「CRM」(38号 96年7月)を初めて特集のタイトルとして扱い、2002年には携帯電話がマーケティングツールとして大きなポテンシャルを秘めることに注目した「モバイルマーケティング」(69号 2002年2月)を特集した。また、近年では「顧客起点のオムニチャネル戦略」(208号 2013年9月)で、顧客がチャネルを意識せずに購入できる環境作りについて考察するなど、変化の速いマーケティング領域で明日のトレンドを発信してきた。 「振り返ると、言葉が時代とともに変わっただけなんですよね。『CRM』が一般化する以前には、『データベース・マーケティング』という言葉が使われていましたし、『オム二チャネル』が一般化する以前には、実店舗とEコマースを組み合わせる『クリック&モルタル』や『マルチチャネル』という言葉が使われていました。つまり、今、話題になっていることの原点が歴史の中にある。時代の変化にともない、企業と顧客とのコミュニケーションに用いられるインフラやメディア、技術は変化していますが、その本質は何も変わっていません。
こうした背景から弊誌では、ダイレクトマーケティングはもちろん、CRM、オム二チャネルもすべて、顧客とのコミュニケーションをベースとするインタラクティブなマーケティングととらえ、一貫してテーマの主軸に置いてきたのです」。
最終号「インタラクティブ・マーケティングの未来予想図」の見どころ
西村氏は、発行の終了を決意した動機についてこう語っている。 「創刊から20年目を迎えた今、企業と顧客との双方向性に基づくインタラクティブ・マーケティングは一般化しました。そして、その本質ともいえるカスタマー・エクスペリエンスの向上に向け、オムニチャネル化やビッグデータ分析の重要性が叫ばれています。まさに、弊誌が創刊時に夢見ていた時代の到来です。こうした中で、弊誌が担ってきた役割はひとつの区切りを迎えたと考え、発行の終了を決断しました」。 しかし、その一方で「インタラクティブ・マーケティングの一般化にともない、さまざまな問題や課題も出てきている」と指摘。最終号は、その現状と今後を同誌の最大の資源である読者や専門家のネットワークと、20年にわたるナレッジの蓄積に基づき総括した、読みごたえのある内容となっている。 最終号のテーマは、「インタラクティブ・マーケティングの未来予想図」。「CSV(Creating Shared Value)、サプライチェーンの再編、オムニチャネル化の進展、ソーシャル時代の顧客戦略、情報の有効活用、組織マネジメント」の6つの 論点から、識者へのインタビューなどを通し、マーケティングの未来について考察している。 まず、本業を通じて社会的価値を創出する『CSV』では、㈱クレアンの水上武彦氏にインタビューを実施。「CSVを実践するには、短期的視点での効果測定の仕組みを変えることが必要」として、実践にあたっての課題、各社の成功事例、CSVを効果的に進めるためのポイントなどを紹介している。 次に『サプライチェーンの再編』では、「大量の情報を持つ企業が、マーケティングを制する」として、サプライチェーンが今後どのような方向で統合・連携されていくかを解説。近年注目される『オムニチャネル化の進展』では、オムニチャネルを「一人の顧客が自社に接触してくる機会を貴重なビジネス機会ととらえ、それを最大限に生かすために、あらゆるチャネルに網を張り準備しておく努力の総称」と定義し、海外の電話会社が、解約危険性の高い顧客を導き出した分析事例など、興味深いケーススタディを掲載している。 4つ目の『ソーシャル時代の顧客戦略』では、顧客を“買い手”としてだけではなく“創造のパートナー”と位置づける事例を取り上げ、アサヒビール㈱やネスレ日本㈱が展開する「アンバサダープログラム」を紹介。『情報の有効活用』では4月から実験的な取り組みが始まる「情報銀行コンソーシアム」に着目し、パーソナルな情報を総合的に集約し利用を促す「情報銀行」について取材した。 そして、最後の『組織マネジメント』では、「人材こそ要。一人ひとりのタレントを開花させ“長くいたい会社”に」として、インタラクティブ・マーケティングを展開する上でのカギとなる顧客接点を中心とした組織マネジメントにかかわる課題を整理している。 さらに、6つの論点のあとに「読者に聞く! インタラクティブ・マーケティングの現状と未来」と題して、マーケターを中心とする読者や取材先、執筆者へのアンケートから得られた鋭い意見を紹介。また、巻頭のトップインタビューでは、アスクル㈱ 代表取締役社長兼CEOの岩田彰一郎氏に、特集の6つの論点にどう取り組んでいるかを聞き、『お客様のために進化する』を企業理念とする同社の新境地に迫っている。
「いかに売るか」から「いかに社会の全体最適を築いていくか」を追究する段階へ
オムニチャネル化が叫ばれる現代に、西村氏は一つの課題を提示している。 「オムニチャネルは、お客さまの満足を高めることが目的です。そのためには、顧客データベースも、企業の組織も連携していかなければならない。しかし現実は、広告、プロモーション、Web、コールセンターといった顧客接点ごと、あるいは店舗、通販といった販売チャネルごとに組織が分断化されていて、情報が共有されていないケースが多いのです。カスタマー・エクスペリエンスが叫ばれる中で、さまざまな顧客接点の連携がこれまで以上に重要になってくるでしょう」。 また企業と生活者の関係性について「インターネットの普及により、企業の不祥事が表面化しやすくなっていることもあって、企業に対する漫然とした不信感を抱く生活者も増加しているようです。そしてひとたび問題が発生すると、ソーシャルメディアであっという間に広まってしまう。昔は『あの大企業が言っているんだから大丈夫』と思っていたのに、今ではたった1人の生活者の不満を買ったことで、企業規模を問わず、大きなダメージを受けるようになりました。これは、生活者の力が強くなってきた表れです」。確実にいえることは、マーケティングが「『いかに売るか』を追究する段階から、『いかに社会の全体最適を築いていくか』を追究する段階に進んでいる」ことだという。 最後に西村氏は、「今日、企業は生活者との関係性の中で自らの存在理由を問いただすと同時に、社会の変化を見据えてビジネスモデルを再構築していくことが求められるようになりました。企業は同質化した中での価格競争に走るのではなく、自らが社会に提供する価値にもっとプライドを持ってほしい。そして、生活者も自らの価値観に基づき、責任を持って商品・サービスを選択するべき。そうした企業と生活者のある種“戦い”こそがインタラクティブ・マーケティングの神髄であり、未来を切り開くカギはそのプロセスの中に潜んでいるのです」と笑顔で話してくれた。
(取材と文 三国雅子)
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<プロフィール> 西村道子氏 ㈱アイ・エム・プレス 代表取締役社長、月刊『アイ・エム・プレス』発行人 東京生まれ。明治学院大学文学部卒業後、(株)工業市場研究所入社し、1970年代後半からカタログ・通信販売や、顧客組織化のプロジェクトに携わる。 主任研究員、主査を経て1987年に独立。フリーランスで企画・調査・執筆活動に従事する。 1989年、(株)インプレス(2003年11月、(株)アイ・エム・プレスに社名変更)設立。 1995年、月刊『アイ・エム・プレス』を創刊。 2004年3月に月刊『アイ・エム・プレス』の発行を終了して以降は、クライアント企業に向けてのマーケティング・リサーチ、コンテンツ・マーケティング支援などを展開。 専門はダイレクトマーケティング、CRM・コールセンターなど。寄稿や講演活動も精力的に展開している。 月刊『アイ・エム・プレス』の詳細・ご注文はこちらから
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