国内健康食品市場は機能性表示食品が主流になりつつある。商品や広告に機能性を表示できることが魅力だが、参入ハードルの低さも業界の支持を集めている。これから機能性表示食品にチャレンジする通販企業に向けて、押さえておきたい機能性表示食品制度の基礎について解説する。連載(全3回)の1回目は「機能性表示食品制度とは?」――。
消費者庁のホームページより
特定保健用食品(トクホ)と栄養機能食品
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故・安倍首相の成長戦略第3弾スピーチ
機能性表示食品制度が登場する以前、機能性をうたえるのは特定保健用食品(トクホ)と栄養機能食品だけだった。栄養機能食品制度は対象成分が主にビタミン・ミネラルに限定され、国が予め用意した表示内容を記載しなければならない。このため、販売企業が望む表示を実現できるのはトクホしかなかった。
トクホ制度は1991年にスタート。当時、食品の機能性をうたえる世界最先端の制度として世界的に注目された。その一方で、国の許可を得るのに億単位の費用と、2~4年ほどの時間がかかり、事実上、大手企業しか利用できない制度だった。今では、わずか数社の大手のために運営されている状況にある。
7000件超の届出が消費者庁のデータベースで公表
トクホに手を出せなかった販売企業では、一般的な健康食品(いわゆる健康食品)を扱ってきたが、効能効果を標ぼうしたり暗示したりするなど、薬機法違反や景品表示法違反の温床となっていた。そうした状況が続き、業界の不満もピークに達しつつあった。
折しも、超高齢社会への対応が叫ばれる中、2013年6月、故・安倍首相は成長戦略第3弾のスピーチで、健康食品の機能性表示を解禁すると表明。これを受けて、急転直下に新制度の導入へと動き出した。
消費者庁の検討会を経て、2015年4月1日に機能性表示食品制度がスタート。鬱積していた不満をぶつけるかのように、初年度から300件を超える届出が行われた。ここ数年は年間1000件を突破し、これまでに延べ7000件超の届出が消費者庁のデータベースで公表されている。
消費者庁のホームページより
トクホの課題を解消、時間と費用を大幅に低減
機能性表示食品制度は「届出制」を採用している。企業の責任によって安全性や機能性などを確認し、消費者庁へ資料を届け出るという仕組みだ。国が許可するトクホ商品には所定の「マーク」を貼付するが、機能性表示食品にはマークはない。
機能性表示食品は国の許可が不要のため、短い期間で発売に漕ぎ着けることができる。届出資料を消費者庁に届け出ると、消費者庁は不備がないかどうかを確認。資料に不備がなければ、消費者庁のデータベース上で公表され、発売が可能となる。
スタート時は届出資料の提出から「60日」以内の公表を目標としていたが、現在は「50日」以内に短縮。つまり、届出資料に不備がなければ、2カ月足らずで発売できる。
このように、トクホが抱えていた「時間がかかる」という課題を解消できたわけである。
「研究レビュー」による評価で費用を大幅に削減
では、費用の問題はどうか。
機能性表示食品制度は中小企業も利用できるように、届出にかかる費用を低く抑える工夫を盛り込んでいる。その1つが、安全性の評価手法だ。
トクホの場合、安全な摂取量を確認するためのin vitro試験とin vivo試験、過剰摂取と長期摂取のヒト試験が必要となり、多額の費用が発生する。
一方、機能性表示食品では、(1)喫食実績の評価、(2)既存情報による食経験の評価、(3)既存情報による安全性試験結果の評価、(4)安全性試験の実施――の4通りの評価手法を用意。喫食実績や既存情報を用いた評価で安全性を十分に確認できる場合、費用は最小限で済む。
費用を抑えるためのもう1つの工夫は、機能性の評価方法に「研究レビュー」(システマティックレビュー)を導入したこと。研究レビューは、世界中の研究論文を収集し、適切なものを選択して、機能性を総合的に評価するという手法だ。
トクホと同じように、最終製品を用いたヒト試験によって評価することも可能だが、1000万円~3000万円程度の費用が発生する。これに対して研究レビューならば、人件費や論文収集費などだけで済む。
専門家がいなくても届出が可能に、“丸投げ”のケースで危うさも
通販企業が初めて届出を行う場合は、取引先の原料メーカーや受託製造企業が用意した研究レビューを活用することが多く、取引条件にもよるが、手間も費用も抑えることができる。いわゆる“丸投げ”である。
このように、初めて届出にチャレンジする通販企業であっても、また社内に専門家がいなくても、届け出て公表に至ること自体は可能だ。ただし、“丸投げ”を行うケースでは、「こんなはずではなかった…」と後悔する可能性も小さくない(詳細は連載の2回目以降に)。
後悔しないためには、少なくとも通販企業が自ら、届出ガイドライン、質疑応答集、事後チェック指針、関連通知などを十分に理解した上で、委託先企業と詳細な打ち合わせや確認を行うことが重要となる。さらには、“セカンドオピニオン”として、外部の有識者や専門家にチェックしてもらう方法もある。
生鮮食品の届出も200件超に
機能性表示食品制度の対象食品は、「サプリメント」「一般的な加工食品」「生鮮食品」。トクホも生鮮食品を申請できるが、許可実績はない。これに対して機能性表示食品は既に200件超の生鮮食品の届出が公表されている。いかに参入のハードルが低いかがわかる。
届出資料には、生産・製造・品質管理の体制に関するもの、安全性に関するもの、機能性に関するもの、表示に関するものなどがある。届出はオンラインで行い、届出マニュアルなども整備されている。
市場規模はトクホを逆転、拡大傾向が続く
消費者庁のデータベース上で公表された届出件数(撤回含む)は、2015年度が310件、16年度が620件、17年度が452件、18年度が690件、19年度が882件。それ以降は1000件を突破し、20年度が1067件、21年度が1445件、22年度が1429件で推移している。
制度がスタートした当初、様子見の企業が多かったものの、年々、参入企業が増加。これに加えて、最近では地方の中小企業が届け出るケースも増えてきた。
民間調査会社の(株)富士経済が今年3月に発表した調査結果によると、機能性表示食品市場は2022年が前年比24%増の5462億円の見込み。23年には5935億円へ拡大すると予測している。一方、トクホは22年が同6%減の2860億円、23年には2746億円に縮小する見込みだ。
機能性表示食品の人気ジャンルとして、「脂肪」減少といったダイエット関連をはじめ、高齢社会を背景に「認知機能」関連などがある。さらに、コロナ禍をきっかけに、「睡眠の質」向上や「ストレス」軽減、「免疫」機能も幅広い消費者の支持を得ている。
(つづく)
(木村 祐作)
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