“ガラス張り”ゆえに批判も?
機能性表示食品の最大の特徴は、企業責任によって安全性や機能性を確認することと、届出資料が消費者庁のデータベース上で全面的に公表されること。
世界的にもっとも透明性の高い“ガラス張り”の制度と言ってもよい。このため、届出の公表後、全方位の監視を受ける。問題が見つかれば、消費者庁へ申し入れることも可能だ。消費者庁は専門家の意見を踏まえて、違反が認められると届出の撤回を求める。これまでにも多数の届出が撤回されている。
「トクホは問題が少ないが、機能性表示食品は多い」という声が聞かれる。しかし、これは的を射る指摘ではない。
トクホへの批判が少ない背景には、専門家の審査を経ることもあるが、申請資料が非公開のために第三者が吟味できないことが大きい。
一方、機能性表示食品への批判が次々と出てくるのは、“ガラス張り”の制度となっていることが前提としてある。皮肉な見方をすれば、「届出の公表後に第三者の監視によって不適切な届出を排除する」という、制度の設計段階で目指していたメカニズムが働いているわけだ。
とは言え、各方面の批判を真摯に受け止め、改善することが喫緊の課題となっている。改善できなければ、消費者の支持を失うのも時間の問題とみられる。
機能性表示食品にチャレンジする通販会社は、届出の公表後に第三者の監視・指摘を受けることを念頭に置いてほしい。届出が公表されて発売に漕ぎつくことはゴールではなく、始まりに過ぎないからだ。
基本ルールを軽視すると届出撤回に
ここからは、機能性表示食品をめぐる問題について具体的な内容を見ていく。届出が撤回された事例を見ると、その理由はさまざまだ。機能性表示食品制度の基本ルールを逸脱した届出も判明している。
1例を挙げると、研究レビューで「採択論文〇報で有意差が認められた」と報告しているものの、有意差が認められたプラセボ対照ランダム化比較試験(必須)が1つもないというケースだ。「目の疲労感」を訴求した届出では、摂取前と摂取後を比較(群内比較)した試験で有意差が認められたが、介入群とプラセボ群の群間比較では有意差がなかった。このため、届出を撤回している。
試験の被験者に病者が含まれていたため、撤回に至るケースもある。キトサンを配合した商品の届出では、研究レビューにより3報の論文を採択したが、そのうち2報で被験者に病者が入っている可能性が否定できなかった。また、大手食品企業が届け出たキトサンの研究レビューでも、採択論文の1部に病者が被験者として含まれていることが、外部からの指摘によって発覚した。
過去には25件の撤回も、研究レビューで大量届出撤回に巻き込まれるリスクも
日本人への外挿性で疑義が生じることもある。「アフリカマンゴノキ由来エラグ酸」を用いた商品の届出では、研究レビューによりカメルーン共和国で行われた試験の論文(1報)を採択したが、人種や食生活などが異なる日本人にも当てはまるかどうかが問われた。この研究レビューを用いた全ての届出が疑義の対象となり、最終的に20件以上が撤回された。
それ以上に大量の届出撤回を生んだのが、「3-ヒドロキシ-3-メチルブチレート(HMB)」を配合した商品。届出には「…(略)…筋肉量及び筋力の維持・低下抑制に役立つ機能、歩行能力の改善に役立つ…(略)…」と記載していたが、「歩行能力の改善」の表現が問題となった。医薬品で同様の効能効果を標ぼうしていたことから、薬機法に抵触するという疑義が寄せられた。撤回された届出件数は25件を超えた。
原料メーカーや受託製造企業に“丸投げ”した場合、元の研究レビューに問題があれば、その研究レビューを用いた届出も撤回に追い込まれる。どうしても“丸投げ”する場合には、そのリスクも想定しなければならない。
科学的根拠が不十分な場合は景表法違反に
経済専門誌「日経クロステック」が取り上げた「多重検定」も深刻な問題の1つ。試験では通常、1つの主要アウトカム(目標とする試験結果)と、有意水準(P値=偶然でないと判断するための確率)を設定し、試験結果がP値以下の場合は「有意差あり」となる。しかし、複数の主要アウトカムを設定して、どれか1つでも良い結果が出て「有意差あり」とすると、試験の信頼性が損なわれる。言わば“インチキ”の部類だが、食品分野では多重検定が疑われる研究論文が横行している。
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日経クロステックが指摘した「機能性表示食品の課題」を考察(前) 消費者庁が6月30日に公表したさくらフォレスト(株)の景品表示法違反事件では、3成分の研究レビューが問題となった。そのうち、DHA・EPAについては、研究レビューによって30報以上の研究論文を対象に評価したが、届出商品よりも多く量の成分を含む食品を用いた試験が大半を占めていた。販売商品と試験で用いた食品の成分含有量に齟齬がある場合、疑義が生じる恐れがあることに留意する必要がある。
ここまで見てきたように、科学的根拠が不十分な場合、届出の撤回だけでなく、景表法違反に問われることも認識しなければならない。
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機能性関与成分にも“落とし穴”
機能性関与成分名に関する失敗も少なくない。
過去に、機能性関与成分名が不正確という理由で、10件程度の届出が撤回された騒動もあった。届け出た機能性関与成分名は「グルコサミン」だが、正しくは「グルコサミン塩酸塩」だった。
前述の「HMB」についても、正確には「HMBカルシウム」であることから、新たな届出では機能性関与成分名も変更されている。
線引きが困難なジャーナルの質
このほか、研究成果の投稿先となるジャーナルの質も課題に挙げられる。
食品企業が研究成果をアクセプト率の低い(査読が厳しい)ジャーナルに投稿することは稀で、多くの場合、容易に掲載されるジャーナルを選択する。特に問題となるのが、費用さえ払えば掲載してくれる悪徳雑誌だ。
制度の設計段階でもジャーナルについて議論されたが、線引きは困難だった。今のところ、“打つ手なし”の状況が続いている。
(木村 祐作)(つづく)
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