機能性表示食品をめぐる誤解
機能性表示食品をめぐり、多くの企業でさまざまな誤解が生じている。よく耳にするのが、「消費者庁の事前チェックは審査である」という誤解だ。
届出資料については、消費者庁が公表前に事前チェックを行う。資料に不備がないかどうかを確認する。不備や明らかに届出要件と齟齬がある場合には、消費者庁から届出企業へ問い合わせがある。
事前チェックを行うことで、明らかに問題のある商品が販売されないようにしているわけだ。一方、研究レビューで採択した全ての論文を取り寄せて、細部まで検証するようなことは行わない。事前チェックは形式的な色合いが濃く、審査とは根本的に異なる。
消費者庁のデータベースに届出情報が公表されれば、売り続けることができると思い込んでいる企業も意外と多い。
届出の公表は、「商品の発売が可能になった」というサインにすぎない。公表後には機能性表示食品として販売できるが、競合他社や消費者団体などの指摘によって届出資料に疑義が生じることがある。科学的根拠に疑義がある場合、消費者庁は学識経験者の意見を聞いた上で、届出要件に違反していると判断すれば、届出の撤回を求める。同時に、景品表示法違反に問われることもある。
届出の公表はゴールではなく、第三者による監視のスタートであり、公表後からが本当の勝負となる。これが機能性表示食品制度の“真髄”である。
表示できる機能性の範囲は決められている
疑義が生じた場合、政治家や学識経験者などにもみ消しを依頼すれば、何とかなると考える届出企業も散見される。しかし、そうした行為は意味を持たない。機能性表示食品制度はサイエンスをベースとしたものであり、サイエンスを度外視したような注文がまかり通ることはない。
届け出れば、どんな表示でも可能という誤解も一部である。しかし、機能性表示食品で表示可能なのは次の3つとされている。
・容易に測定可能な体調の指標の維持に適する、または改善に役立つ旨
・身体の生理・組織機能の良好な維持に適する、または改善に役立つ旨
・身体の状態を本人が自覚でき、一時的な体調の変化(継続的・慢性的でない)の改善に役立つ旨
例えば、血圧や血糖値が高めの方に役立つ、目や骨の健康維持、一時的なストレス軽減や睡眠の質向上などの表示がある。
一方、疾病の予防・治療効果の暗示、「アンチエイジング」「美白」といった健康の増強、科学的根拠に基づかない機能性などを表示することは禁止されている。
「免疫機能の維持」をうたう商品が話題となっているが、新規の表示については消費者庁が独断で判断するのではなく、薬機法を所管する厚生労働省の見解を重視する。
機能性表示食品で失敗しがちな行動
次に、機能性表示食品で失敗する典型的なパターンを見ていく。その1つに、研究レビューや届出資料の作成を外部に丸投げすることがある。
研究所を持たない通販会社の場合、原料メーカーなどが用意した研究レビューを用いるのが一般的だ。原料購入と引き換えに、無償で研究レビューを提供するケースが多い。双方にとってメリットがあるが、落とし穴も待ち受けている。
というのも、原料メーカーなどが作成した研究レビューは、今回のさくらフォレストの事例で見られるように、杜撰なものも少なくないからだ。
疑義が生じた場合、制度上、届出企業が全責任を負う。このため、原料メーカーなどが用意した研究レビューを鵜呑みにすることや、届出資料の作成を丸投げすることは、届出撤回や行政処分という大きなリスクを伴う。
自社で制度について学習することが必須だが、どうしても不安な場合には、外部の専門家や学識経験者、業界団体などに“セカンドオピニオン”を依頼することも対策の1つとなる。
後を絶たない行き過ぎた広告
失敗しがちなパターンとして、広告で欲張った表現をすることも挙げられる。機能性表示食品は、消費者庁へ届け出た範囲内でしか表示できない。これは大原則だが、守られていないケースが多い。
最も有名な事例は、「葛の花由来イソフラボン」を配合した機能性表示食品の景表法違反事件(2017年)。行き過ぎた広告を行ったとして、販売会社16社が措置命令を受けた。
昨年3月、消費者庁が「認知機能」をうたう機能性表示食品131商品を対象に、一斉に表示の改善を指導したことも記憶に新しい。このほか、適格消費者団体が表示の改善を申し入れるといった動きも見られる。
今後は、いわゆる健康食品と同様に、機能性表示食品についても景表法による行政処分が当たり前のように行われると予想される。欲張った表現は大きな代償を払う結果になることを理解し、適切な広告活動を心がけることが重要だ。
採択論文が1報しかない研究レビューの危うさ
機能性表示食品制度では、採択論文が1報しかない研究レビューであっても、“ダメ”とは言っていない。これを逆手にとって、1報しか論文が存在しないことを予めわかっていながら、研究レビューを行って届け出るケースも多い。しかし、1報しかない研究レビューは、疑義が生じて撤回となるリスクが極めて大きい。
また、公表済みの届出を見ると、更新を行っていない研究レビューが大半を占める。食の機能性に関する研究は日進月歩で、次々と新たな研究成果が報告されている。その中には否定的な内容もあり、既存の研究レビューに大きな影響を与える。このため、研究レビューの更新は、機能性表示食品制度が健全に運営されるために必須となる。
消費者庁は近く届出ガイドラインを改正し、研究レビューの報告の質を向上させる国際指針「PRISMA声明2020」への準拠を求める方針を示している。これにより、全ての届出企業に対し、研究レビューの更新を促す考えだ。
加えて、PRISMA声明2020では、トータリテイー・オブ・エビデンス(肯定的な結果も否定的な結果も総合した評価)の観点から、研究レビューの信頼性がいっそう厳しく問われる。採択論文が1報しかない研究レビューについては、説明がつかない部分が出てくるという指摘もある。今後は、安易に1報しかない研究レビューを使用しないのが賢明だ。
機能性表示食品制度は“緩々”のイメージがあったが、各方面からの批判が増え、今後は厳格な運用が求められている。今回のさくらフォレストの景表法違反事件は、そのターニングポイントとなりそうだ。
届出にチャレンジする通販企業の留意点
3回にわたって報告した内容を踏まえ、これから機能性表示食品にチャレンジする通販企業が留意すべきポイントを改めて示す。
届出資料の作成は外部に委託することも可能だが、その際には自社内で届出ガイドラインや事後チェック指針などを十分に理解しておく。その上で、委託先(原料メーカーなど)に届出資料の細部まで確認を取ることが、自社とユーザー(消費者)の利益を守るために最低限の対策となる。
届出の公表は通過点に過ぎず、公表後に第三者による厳しい監視がスタートすることを理解しなければならない。疑義が生じた場合は、真摯に向き合う姿勢が求められる。販売会社には説明責任を果たす義務があることを忘れてはならない。
公表済みの届出資料については随時、再検証することが重要となる。消費者庁ではデータのアップデートを重視していることから、放置しておくとリスクが膨らむと考えられる。
機能性表示食品は販売戦略上、大きなメリットがある。健康食品を扱う通販企業にとって、この制度を活用しない手はないとさえ言える。届出企業が全責任を負うことを理解した上で、チャレンジしてほしい。
(木村 祐作)(終わり)
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EC表示規制「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」解説資料
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