来年4月からトラックドライバーに対する時間外労働の上限規制が適用されることに伴い、物流の停滞が懸念される「2024年問題」の解決への取り組みが急務となっている。こうした状況を踏まえ、国土交通省は政府一丸となって、抜本的・総合的な対策に取り組んでいる。ここでは、その取り組みについて、国土交通省 物流・自動車局 物流政策課 課長補佐 古川雄大氏が紹介する。
日本の物流を取り巻く状況
日本の物流業界は、全産業の中で売上高は2%(約28兆円)、就業者数は3%(約229万人)を占めており、重要なインフラとなっています。
国内貨物輸送量の推移はほぼ横ばいですが、モード別で見ると自動車の割合が約5割となっており、トラックにおける輸送が非常に重要になっている状態です。
直近の物流の変化でいうと、貨物1件あたりの貨物量が減ってきていることです。とはいえ件数は増えており、いわゆる小口多頻度化が急速に進んでいます。
次に、トラック運送事業の働き方の現状です。全産業と比較しても、労働時間は約2割長いにもかかわらず、年間賃金が5~10%ほど低いという状況です。こういった労働条件の実態による人手不足は、より深刻な問題になっています。
全産業と比べても有効求人倍率は約2倍で、年齢構成についても全産業平均より若年層と高齢層の割合が低く、中年層の割合が高いという状況です。
ご存じの方も多いと思いますが、2024年4月より、年間960時間という時間外労働の上限規制が適用されます。そうなると、一部のトラックドライバーの労働時間が短くなり、何も対策を講じないとトラックで運べるものが少なくなるというのが懸念されています。
さらに、再配達率も増加傾向にあります。新型コロナの感染拡大後には在宅率が増え、一時的に8.5%まで下がりましたが、直近では通勤通学が増えたことで、約12%程度まで高まっています。
このような再配達率も下げていかなければ、ますます人手が不足し、輸送力不足が深刻化します。
国土交通省が行う最新の「総合物流策大綱」
このようなさまざまな物流の課題に対して、国土交通省では「総合物流策大綱(2021~2025年度)」が2021年6月15日に閣議決定されました。
近年の技術革新やSDGsに向けた取り組み、ドライバー不足、災害の激甚化・頻発化といったものに、新型コロナウイルスという未知の脅威というものを踏まえ、物流における3本の柱を定めています。
Ⅰ. 物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流)
① 物流デジタル化の強力な推進
② 労働力不足や非接触・非対面型の物流に資する自動化・機械化の取組の推進
③ 物流標準化の取組の加速
④ 物流・商流データ基盤の構築等
⑤ 高度物流人材の育成・確保
Ⅱ. 労働力不足対策と物流構造改革の推進(担い手にやさしい物流)
① トラックドライバーの時間外労働の上限規制を遵守するために必要な労働環境の整備
② 内航海運の安定的輸送の確保に向けた取組の推進
③ 労働生産性の改善に向けた革新的な取組の推進
④ 農林水産物・食品等の流通合理化
⑤ 過疎地域におけるラストワンマイル配送の持続可能性の確保
⑥ 新たな労働力の確保に向けた対策
⑦ 物流に関する広報の強化
Ⅲ. 強靭で持続可能な物流ネットワークの構築(強くてしなやかな物流)
① 感染症や大規模災害等有事においても機能する、強靱で持続可能な物流ネットワークの構築
② 我が国産業の国際競争力強化や持続可能な成長に資する物流ネットワークの構築
③ 地球環境の持続可能性を確保するための物流ネットワークの構築
持続可能な物流の実現に向けた具体的な取り組み
次は、物流革新に向けた最近の動向について説明します。これまで、物流事業者を中心にさまざまな取り組みを行ってきましたが、やはり2024年の問題を目前にして、より対応を強化していかなければならないというのが、明らかになりました。
そのため、昨年9月から「持続可能な物流の実現に向けた検討会」を開催。物流事業者だけでなく、着荷主や発荷主、一般消費者も含めて、みんなで物流を持続可能なものにしていきましょうという目標のもと、有識者を交えながら検討してきました。
第1回は、昨年9月に開催し、2023年2月に中間とりまとめ、2023年8月に最終とりまとめを出したところです。
その最終取りまとめの概要の概要について具体的に説明します。
まず、労働時間規制等 に伴い、具体的な対応が行われなかった場合、2024年度には約14%(約4億トン相当)の輸送能力が不足し、その後はドライバー数の減少によって、2030年には約34%(9億トン相当)の輸送能力が不足する可能性があるという試算 があります。
そしてそのような状況に対応すべく、下記の3つの柱で検討を進めました。
1.荷主企業や消費者の意識改革
2.物流プロセスの課題の解決
3.物流標準化・効率化推進
まず1つ目の「荷主企業や消費者の意識改革」については、まず荷主企業の経営層に対し、チーフロジスティクスオフィサー(CLO)などの物流管理責任者の配置を促す必要があります。また、消費者に対しては、再配達を減らすなど行動変容を促す方策を実施していかなければなりません。
2つ目の柱である「物流プロセスの課題の解決」は、まずドライバーの方たちの待機時間の削減や、リードタイム延長などの措置が重要になります。また、運送業者の多重下請構造を是正することで、運賃の適正化を目指す必要があります。
3つ目の柱「物流の標準化・効率化」は、先ほど述べたように、例えば、 省力化や自動化などによって、物流DXを推進していきましょうというものです。
こちらの最終とりまとめは、ホームページにも掲載されていますので、詳細が知りたい方はぜひ一度ご覧ください。
物流:持続可能な物流の実現に向けた検討会 - 国土交通省
次は、閣僚会議について説明します。令和5年3月31日に「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」というものを設置して、同日に1回目を開催しました。
その第1回の閣僚会議において、以下のような総理指示がなされました。
荷主・物流事業者間等の商慣行の見直しと、物流の標準化やDX・GX等による効率化の推進により、物流の生産性を向上するとともに、荷主企業や消費者の行動変容を促す仕組みの導入を進めるべく、抜本的・総合的な対応が必要です。
このため、物流政策を担う国交省と、荷主を所管する経産省、農水省等の関係省庁で一層緊密に連携して、我が国の物流の革新に向け、政府一丸となって、スピード感を持って対策していかなければなりません。
そこで、1年以内に具体的成果が得られるよう、対策の効果を定量化しつつ、6月上旬を目途に、緊急に取り組むべき抜本的・総合的な対策を「政策パッケージ」としてとりまとめてください。
このような指示があったことで政府として、6月2日に「物流革新に向けた政策パッケージ」をとりまとめました。
本政策パッケージの具体的な施策は、①商慣行の見直し ②物流の効率化 ③荷主・消費者の行動変容、という3つのものからなっています。
①商慣行の見直し
②物流の効率化
③荷主・消費者の行動変容
このような施策を実施していくことで、2024年度には14.3ポイントの効果を見込んでいます。2030年度についても、今年中に中長期計画を策定します。
当面は、2023年内に上記の施策を進めつつ、2024年には通常国会での法制化をしていき、政策パッケージ全体のフォローアップを図ります。
6月2日には、発荷主・着荷主事業者にそれぞれ行っていただきたいガイドラインを提示していますので、こちらもお時間あるときにご覧ください。
荷主事業者・物流事業者に関するガイドライン【※PDFが開きます】
今年10月に公表された「物流革新緊急パッケージ」
最後に、10月6日にとりまとめた「物流革新緊急パッケージ」について説明します。
9月28日に岸田総理が、中小トラック事業者さんの営業所を訪問し、現場視察と車座対話を行いました。その対話後のぶら下がり会見において、岸田総理より、10月2日週に閣僚会議を開催し、「物流革新緊急パッケージ」をとりまとめる方針が打ち出されました。
この取り組みを進めながら、具体的な成果が得られるように、可及的速やかに各種措置に着手するとともに、2030年度の輸送力不足解消に向けて、前倒しを図っていくというのがポイントになっていますので、あわせてご確認ください。
物流の効率化
荷主・消費者の行動変容 、商慣行の見直し