ZenGroupは11月15日、「越境EC新サービス」事業発表会を開催し、その中で「越境ECの未来を考える」をテーマに越境ECに取り組む上での課題とその解決策について、パネルディスカッションが行われました。ここでは、その一部をレポートします。
参加者:
・株式会社ICHIGO 代表取締役 CEO 近本あゆみ 氏
・Joom Logistics Japan合同会社 顧客管理部 アカウントマネージャー チトワ・アナスタシア 氏
・楽天グループ株式会社 マーケットプレイス事業 店舗開発課 奥村 宏也 氏
・SAVAWAY株式会社 代表取締役 齋藤 直 氏
・ストライプジャパン株式会社 パートナー・ソリューションエンジニア 池田 尚史 氏
・株式会社メルカリ CrossBorder Division / Business Growth Director 石川 佑 氏
・Inagora株式会社 執行役員副社長 津田 茂寿 氏
・ZenGroup株式会社 代表取締役 スロヴェイ・ヴィヤチェスラヴ 氏
越境ECにおける3つの壁
司会:日本における越境ECの壁というと、日本語ならではの「言語の壁」のほか「決済」「物流」の3つが挙げられると思います。
まずは、越境ECに取り組む3社の方々へ、この3つの壁にどのように向き合っているのか、直近のお取り組みについてお話をお聞きします。
Inagora 津田氏(以下、津田):「言語」「決済」「物流」の3つでいうと、われわれが最も力を入れているのが「物流」です。今年は、3日以内に届けるというのを目標にし、配送料も注文金額の約10%以内に抑えることを努力しています。
そのためにも、船便を使ったり、中国の保税倉庫を建てたり、通関システムを改善したりなど様々な努力をして、物流のスピードと単価を下げることに注力してきました。
ICHIGO 近本氏(以下、近本):われわれも津田さんと同じで、直近1年間の一番の課題は「物流」でした。弊社のお客さまは世界185の国と地域におりますので、様々な場所に商品を届けなければなりません。
コロナ禍では、飛行機の便数なども減り、配送単価が高くなりました。今は少し落ち着き、飛行機の便数も増えてきましたが、世界各地で起きている紛争などもあり、コロナ前と比較してもまだまだ配送単価は高い状況が続いています。
もちろん価格だけではなく、国によってレギュレーションも全然違いますので、そこをクリアして、お客様のいる全ての国と地域に同じスピードと品質で物を届けられるかというのは課題に感じているところです。
ZenGroup スロヴェイ氏:われわれも「物流」のコストが大きな課題で、最近はどんどん高くなっているという課題意識があります。このような課題を解決するためにも、われわれがやりたいことが2つあります。
1つ目は、他社との連携です。自社で送れる商品数は限界がありますので、自社だけじゃなくて越境ECを取り組みたい会社さんの商品を取り扱うことによって、全体的なボリュームを大きくしたいです。
2つ目は、自社で物流ルートをさらに構築することです。現在は、国土交通省をはじめ、さまざまなライセンスを取得できるように動いていますので、それが実現できれば、ダイレクトで様々な実験ができるようになると考えています。
メルカリ、楽天の取り組み
司会:続いて、国内ECを展開されている立場として、メルカリさまと楽天さまに、越境ECによる流通経路拡大に取り組まれている上で、注目されている市場について、お話いただきたいと思います。
メルカリ 石川氏(以下、石川):越境ECでどの国に攻めようという話になったときに、デスクリサーチや分析などをすると思うのですが、人口が多いからGDPが高いから売れるみたいな論理だけでいくと、なかなか成功しづらいと思います。なぜならそういった国ほどすでに強いプレイヤーがいるからです。
ですので、市場に参入する場合は、本当に腰を据えて、腹を決め、勝負しにいかなければ成功しないというのは、すごく実感しています。
また、私たちは、物のプラットフォーマーで、1日に大量の商品が出品されているので、自分たちで「これが売れ筋」などと商品の需要を決めてしまうのはよくないと思います。売れる売れないないという判断は、購入者が決めるような話だと思っていますので、そこに対して豊富な商材を提供していくというのが私たちの基本スタンスです。
楽天グループ 奥村氏(以下、奥村):楽天では今、越境ECにおける各国のモールインモールのような取り組みを進めています。具体的には、中国では天猫(Tmall)、京東(JD.com)、などのモールに楽天が入り、日本の楽天で出店している店舗さんをそこに誘致して、商品を販売していただくという形です。
モールインモールは直近でもかなり伸びておりまして、ジャンルでいえば、ファッション、ラグジュアリー、アウトドア、釣り具といったメイドインジャパンの製品がやはり売れています。
一方、フリマアプリ「楽天ラクマ」に関しては、コロナ禍で爆発的に伸びており、特に最近では、円安によってアメリカが好調。モールインモールとは違い、売れているジャンルは、おもちゃ・ホビー、あとは家電も非常に好調です。というような状況です。楽天ラクマは海外の新規ユーザーの獲得が重要なので、そこをいかに開拓していくかに今は注力しています。
決済方法は欠かさない要素に
司会:越境ECの決済関連については、ストライプさまも独自で調査をされています。もし現在の傾向などあれば教えてください。
ストライプ 池田氏(以下、池田):今年6月に独自で調査をしたところ、皆さんもご存じの通り、国内の越境EC市場は非常に伸びていることがわかりました。特に約79%の日本企業さまが、今後2年以内に越境ECを始めようと考えており、さらに75%以上の企業様が今後5年間で海外取引、越境ECの取引がどんどん伸びていくだろうと回答されました。
また、消費者の方の傾向も大きく変わってきています。すでに、グローバルで68%ほどの方が「他国から越境で物を買うことに全くためらいがない」と回答しています。さらに、18歳~34歳に年齢を絞ると、この数字は76%にまで跳ね上がります。
若い世代ほどEコマースサイトがどこの国にあるのかあまり意識しておらず、いいものがあればどこからでも買うというような傾向があります。
司会:越境ECにおける決済方法について、トレンドのようなものがあれば、補足をお願いします。
池田:決済方法については、全体的にクレジットカード決済が多いのは間違いないですが、国によって好まれるものが大きく異なってきます。たとえば、アメリカはクレジットカードが多いんですが、今非常に伸びているのはApple Pay、Google Payのような「ウォレット決済」です。
また、EUは国によって異なっていてドイツだと、PayPalなどのウォレットがトップで、それとほとんど変わらない割合を占めているのが2位のSEPAという口座引き落としのツールです。3位がクレジットカードになります。
しかし、同じEU圏でも、フランスは圧倒的にクレジットカードが多いです。ただし、VISAやMastercardなどの国際ブランドよりもローカルのブランドの方が強いです。なので、このように各国に合わせて対応できるかどうかが、決済面は重要になっており、「payment experience(支払いの体験)」は越境ECでは欠かせない要素になってきています。
われわれの調査でも消費者のほとんどが、クレジットカード決済に1秒も待ちたくないし、カード情報入力もしたくないという結果がわかっていますので、それを最適化できるようなベンダーと一緒に取り組むことがカギになると思っています。
越境ECを始めるための重要なポイント
司会:世界の越境EC市場規模は、2021年から2030年にかけて、約10倍拡大すると言われています。現在の為替に準じて1ドル150円計算とすると、2030年はおそらく1200兆円ぐらいの市場規模になります。
そうした中で、日本の企業においても、大手企業だけではなく、中小企業の参入が目立ってくると思います。ただし、ブランド認知がないところからのスタートになるので、簡単には売れません。
では、そういった場合にはどうすればよいのでしょうか。日本の中小企業が越境ECを始める上で大事なポイントなどあれば、お聞かせください。
SAVAWAY 齋藤氏:需要のある商品でいうとまずは、現地で買えないような日本の文化に関連する商品たちです。実際に越境ECのマーケティング支援をしていた際に、インパクトのある2つの成功事例がありました。
ひとつは、カラーコンタクトを日本から北米に向けて販売していた事業者さんです。元々はリサーチなどに強みを持つ会社さんで、徹底して情報を取得し、カラーコンタクトをどのようなシーンで、どのような方々が使う可能性があるのかというのを調べていました。
その結果、ターゲットとしたのが、白人の方ではなく、目の瞳の色が青くない方々でした。特に若い女性で、そういった綺麗な瞳に憧れがあるような層にカラーコンタクトを販売したところ、大きく成功されました。
もう1つは大阪の畳屋さんです。とにかく越境ECで畳を世界に売っていきたいとおっしゃっていたのですが、これが爆発的に売れました。
なぜかというと、北米では当時、本物の畳職人がつくった畳が売られていなかったからです。つまりホワイトスペースがあったんですね。なので、そういったそのニーズの穴みたいなところを埋めにいくということができれば、成功につながると思います。
司会:市場の参入の仕方については、皆さまそれぞれ見解があるかと思いますが、石川さんや近本さん、津田さんはどのように考えておられますか?
石川:私は、凄く難しく考えすぎないことが重要な気がしています。今の越境ECの状態というのは、最初にECが日本で立ち上がって、それが徐々に浸透していた状態と似ていると思います。
社内で越境ECをやらない理由を挙げ始めると、それこそ大量に出てくるものだと思います。今はメルカリをはじめ楽天さんなど越境ECを簡単に体験できる環境が整っていますので、まずは難しく考えすぎず、越境ECをやってみることが大事だと考えています。そうすれば、自分たちの商品が海外からどう見えているのかなどもわかってくるのではないでしょうか。
近本:私個人としては、攻めたい国に競合がいるかどうかが大事だと思っています。競合がいないっていうことは、マーケットニーズがほぼないということです。その国で、自分が第一人者になれるほど、市場は甘くないと思います。
なので、何か売りたい商品があるのであれば、売り先である国に、すでに同じような商品が売られているかどうかというのは大きなポイントになると思います。そのうえで、その競合と差別化できる点があったり、優位性があればその国にチャレンジしてみてもよいと思います。
あとは、商品のローカライズもかなり重要だと思います。国や地域によって、趣味嗜好や文化的習慣は異なるので、どの国にも同じ商品を販売するというのは難しいと思います。
世界中に進出されている飲食業さんとかはそこらへんを徹底されていて、国や知識によってメニューを変えていたりします。日本人にとっていい商品だから、それが海外でも売れるというのは間違った考え方です。
津田:越境ECに取り組む上で、何よりも大事なのは、1人で悩まないこと、一社で悩まないことだと思います。
今日のパネルディスカッションだけでも物流・決済、言語など様々な課題があります。さらにそこに、法律の問題や商標、版権の問題なども出てきます。
ものづくりをされている方々は原点に振り返ってみてください。いい商品を海外の方が欲しているのであれば、誰かがやっているインフラを使って届ければいいんです。
先陣を切ってやっている多くの会社さんがいますので、その方々と連携してやっていくと非常にスムーズに進むと思います。
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