2024年の物流業界は、4月にトラックドライバーに対する時間外労働の上限規制が適用されることで、ひとつの転換を迎える。しかし、すでに「物流業界のパラダイムシフトがすでに起きている」と船井総研ロジ株式会社 取締役 常務執行役員 赤峰誠司氏は述べる。では、この2024年に物流関連会社は何をすべきなのか。物流業界の時流予測とともに、淘汰される企業と生き残る企業の違いを赤峰氏が解説する。
(※本稿は、1月23日に開催された「第16回 物流革新セミナー 2024」<主催:船井総研ロジ株式会社>の一部を抜粋したセミナーレポートです。)
国内の労働環境の変化
はじめに、物流業界だけではなく、2024年の国内全体の労働環境おける5つの変化について説明します。
①人材争奪戦(女性・高齢者・外国人)
2024年は人手不足社会が加速することで、女性・高齢者・外国人といった人材の採用が必須となります。しかし、全員が同じ時間に出社し、帰社するといった従来の働き方を提示しても、このような人材の採用できません。
企業側は限られた時間で働いてもらう、副業を可能にするなど多様な働き方を可能にし、こういった雇用シーンを創出できる企業に人が集まるようになるでしょう。
②賃金上昇による生産性至上主義社会の懸念
物価上昇と合わせ、賃金上昇が始まると、生産性の高さばかりを求める企業が増える可能性があります。しかし、単に生産性だけを見て人材を評価してはいけません。
生産性以外の部分でも「丁寧に仕事をする」「会社に長く勤めてくれる」といった評価軸もしっかりと持たなければいけません。
③生成AIと人の分業体制(事務職の激減)
生成AIやChatGPTなどの活用によって、事務職の業務は激減すると予想されます。事務の合理化、省人化を進めながら、AIがやる仕事と人がやる仕事の職務分掌を明確に分けていく必要があります。
④サステナブル経営(自社だけにある辞めたくない理由)
人手不足社会となる中で、流動的な人材をどう留めておくかは重要です。そのためにも、サステナブル経営を軸に“辞めたくない理由”を生み出さなければなりません。
理由は、賃金、福利厚生、労働時間など様々なものがあると思いますが、辞めたくない理由がない企業は、従業員が去っていき衰退の一途をたどるでしょう。
⑤労働需給の構造変化(専業から副業、副業から複業へ)
各業界で副業の解禁が解禁され始めると、副業が先に進み、「複業」の時代が来ると考えています。より多くの収入を得たいという人たちはマルチで仕事するのが当たり前となるのではないでしょうか。
物流業界の変化
これらを踏まえた上で、次は物流業界の変化について説明します。
①2024年 法改正(保守 or 革新)
法改正によって、経営戦略をコンプライアンス(労務管理)重視主義 に革新する企業と、これまで通りの現状維持・歩合制主義を保守する企業に分かれていきます。
②需給バランスの逆転
人手不足といっても、商品を購入する消費者も減っているため、ドライバー>物量の状態です。そのため、ムダな輸送や低賃金など、物流業界は劣悪な競争環境になっています。
しかし、景気が回復した2~3年後には、おそらく逆転現象が起き、ドライバー<物量となっていると考えます。需要が供給を上回れば、企業にとっては大きなビジネスチャンスになるでしょう。
現在はまだ供給が上回っているので、大きな問題は発生していませんが、2024年下期には緩やかに日本経済が上向きになることで、ドライバー不足のまま荷量が増大します。
個人的には、2026年末に需給バランスが逆転するX点が訪れ、物が運べないといった状況になるのではないかと考えています。この時点までに労務管理と財務体制の強化ができていれば、間違いなく、成功企業になります。
③メニュープライシングの対応
経済産業省・農林水産省・国土交通省から示されたように基本料金+オプションが今後のスタンダードとなるでしょう。標準的な運賃が基本料金の設定値となり、「時間価値」「付帯作業価値」「難易度・教育価値」 がオプションになるため、企業は対応できるようにしなければなりません。
④ラストワンマイルの変化
調達輸送+幹線輸送+ラストワンマイル(宅配)の 一気通貫輸送が元請けの主流となると予測されます。実は中国をはじめとした、アジアは日本と違い、職場で荷物を受け取れるようになっており、一気通貫輸送は伸びています。日本でも、宅配BOX・企業受取・宅配受取センターといった代替機能の運営取り込みが重要になってくるでしょう。
⑤強弱二極化が進む
労務管理とDXを推進する企業が勝ち組となり、保守経営で変化、進化できない企業はジリ貧となり取り残されてしまうリスクが高いです。そういった二極化が進むのが2024年ではないでしょうか。
2024年問題の対策を怠った会社の末路
2024年4月1日から時間外労働の条件規制が適用され、ドライバーの労働時間が年間960 時間 月平均 80 時間に。これに違反した場合は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられます。
では、この問題に対して対策をしていない物流会社はどのようになるのでしょうか。予測できる6つの事柄について説明します。
①大手荷主との取引縮小・停止
大手荷主はコンプライアンスが第一なので、労務管理をしっかり行っていない会社とは取引を行いません。作成が義務付けられている「運送体制台帳」が重要になるでしょう。
②上場元受けも取引縮小・停止(デジタル化)
上場元受けも同じように、労務管理を厳格化しているので労働時間の可視化やデータ管理が重要になってきます。デジタルの連携によって、勤怠管理や待機時間などのデータが共有できない企業は弾かれてしまいます。
③ドライバー離職続出
2024年問題は、全ドライバーが認知しています。法令を遵守できない企業はドライバーが離れていくのは当然です。
毎年入社するドライバーと転職や退職で引退するドライバーの差を試算するとマイナス2万3000人ほどになります。それほど、プロのトラックドライバーは減少していると考えなければなりません。
また、全日本トラック協会が公表しているトラックドライバー就業者割合を見ると、50代の割合が47.8%で、10~20代は9%ほどです。今後、生産性を高めるためにも、若いトラックドライバーの人材確保は経営者にとっては必須になるでしょう。
④SNSによる風評被害
いまやSNSによって、個人の発信力は強化されています。会社側の落ち度があれば、名指しでSNSに晒され、実態を告発されます。
⑤下請け運送会社離脱
当然、下請け会社も労務管理が徹底されていない元請け会社とは協力できません。
⑥行政処分リスクが高まる
国交省・厚労省・公正取引委員会・農水省などの行政連携が強化されることで、法令非遵守企業は行政処分リスクが高まります。市場撤退を迫られることもあるでしょう。
企業に求められる“労務管理”と“財務体制”の強化
このように、2024年問題に対応できず、低賃金、低運賃、長時間労働といった負のスパイラルから抜け出せなくなった企業は今後、どんどんと淘汰されていくでしょう。
逆に淘汰されずに生き残る企業になるためには、労務管理と財務体制の強化が必須です。この2点が最重視される時代に来ているのです。
先ほども述べたように、需給バランスの逆転するX点が数年後には訪れます。その際に、この2点が問題なくできていれば、それだけで大きなビジネスチャンスを生みます。この数年間が正念場なので、経営体制を見直してみてください。
<セミナー概要>
140年企業から学ぶ持続的成長の要諦
~100年後の"あるべき姿"を考える~
第16回 物流革新セミナー 2024
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