国内EC流通総額10兆円を目指す楽天グループ。目標達成に向けて「楽天市場」の改革が進行中だ。マーケティング強化や売り場改革をはじめ、物流改善、AI活用、システム投資などを予定している。楽天市場の5つの戦略について、楽天グループ常務執行役員コマース&マーケティングカンパニーシニアヴァイスプレジデント の松村亮氏が解説する。
①マーケティング改革とロイヤルユーザーの拡大
楽天経済圏の活用
楽天グループ 常務執行役員 松村亮氏:昨年、楽天の国内EC流通総額は6兆円を突破しました。日本一のリテール企業になるため、次のステージとして10兆円を目指していきます。楽天市場の成長をどう進めていくかについて、5つの領域に分類して説明します。
まず、マーケティングの領域における改革です。楽天市場はヘビーユーザーやロイヤルユーザーに支えられています。同時に、ライトユーザーや新規ユーザーもたくさんいますので、ヘビーユーザーやロイヤルユーザーになってもらうことも重要です。
楽天市場のヘビーユーザー、ロイヤルユーザーになることは、言い換えれば楽天経済圏のヘビーユーザー、ロイヤルユーザーになるということ。その中心には、今年1月時点で累計4兆ポイント以上を還元した楽天ポイントがあります。
楽天グループにはさまざまなサービスがありますが、端的に言うと、楽天市場と楽天カードが両輪になって成長してきた面があります。今後は楽天モバイルを入れて、3つの大きなサービスで協業し、 成長させていくことが重要となります。
成長のカギ握る「楽天モバイル」ユーザー
昨年12月の「楽天スーパーSALE」の数字を見ても、楽天市場のお客様のうち、楽天カードと楽天モバイルの両方を持っているユーザーが一番のロイヤルで、そうでないユーザーの2倍弱もセール中に買っていただきました。
楽天モバイルのユーザー数は昨年末で600万人を超えました。今後はさらに800万、1000万へと増やしていきます。それぐらいの数になると、楽天市場の成長という面でも非常に大きな意味を持ってきます。
楽天市場については、「楽天スーパーSALE」「お買い物マラソン」などで、より大きな買い物をしてくれるという育成ドライバーの浸透が見られます。非常にうまくいっているビッグセールであり、今年はさらに進化させます。ライトユーザーもヘビーユーザーも同じように還元してきましたが、ロイヤルユーザーを育てる観点からの工夫も必要となります。
ライトユーザーをいかにフォローしていくかという点では、楽天市場の良さを改めて理解してもらえるようにしなければなりません。そこで、今年は楽天市場の強みを紹介する動画を作って、様々な媒体で訴求していきます。
②売り場改革
SKUへの移行
2つ目は売り場の改革です。昨年はSKUへの移行が最も大きなプロジェクトとなり、95.5%以上の店舗さんが移行を完了しています。セットしてもらった商品はそうでない商品と比べて、検索結果でクリックされる確率が2倍以上という結果も出てきています。
定期購入機能の改善が目玉プロジェクト
今年はSKUに続く目玉プロジェクトとして、定期購入の全面リニューアルを計画しています。定期購入はリピート買いするようなカテゴリーでは非常に重要な売り方の1つなので、楽天市場の中でも一定のシェアを取れる機能にしていく考えです。
クーポンもさらに機能を進化させます。ターゲティング周りの機能を改善し、ユーザーの特性に応じてクーポン対象をターゲティングできる形に進化させます。
広告についても、これまで入札単価を全ユーザー一律としてきましたが、店舗さんがターゲットとするユーザーにあわせて単価を上げたり下げたりできれば、店舗さんから見て広告の効率が良くなると考えています。
また、店舗さんから「楽天市場の外にいるお客様も効率的に集客したい」という話がありました。そこで、MetaやGoogleと連携・協業して、FacebookやGoogleの広告にも自動的に出るような機能を作っているところです。
「R-Messe」については、昨年もいろいろと機能を改善しましたが、引き続き、店舗さんの手間を減らせるように、自動化を進めていきます。
③継続的な物流強化物
送料込みラインと配送日の明確化
3つ目は物流です。過去数年で主に2つの取り組みを実施しました。1つは、共通の送料込みラインです。かつては店舗さんによって、送料の設定の仕方や金額が異なっていたため、ユーザーから「わかりにくい」という声をいただいていました。
そこで、3980円を1つの目安に置き、それ以上の場合は送料込みラインとしてスタートしました。今では、95%以上の店舗さんが導入しています。
もう1つは、配送日のわかりやすさ。これまでは1~3営業日以内のように、大体これぐらいという表示の仕方でした。しかし、今では最短で〇月〇日〇時までに届けますという表示が可能です。
今後は、お届けまでのリードタイムをもう少し短くできるようにします。このほか、環境問題や物流の2024年問題も踏まえて、置き配などにも対応していく予定です。
そうした課題に対応する上で、「配送品質向上制度」に準じてオペレーションを行う店舗さんの商品にラベルをつけて、ユーザーがより選びやすい形を作る取り組みも行います。今年7月からスタートする予定です。
楽天スーパーロジスティクス(RSL)についても、使っていただく店舗さんがどんどん増えています。店舗さんのニーズをサービスメニューに取り入れて、サービスを充実させています。
④AIおよびシステムインフラへのさらなる積極投資
AIによる効率化と顧客体験の向上
システムの投資については、楽天グループとしてAIの活用に注力しており、楽天市場においてもさらに導入していく予定です。
大きく分けて2つの領域があり、その1つが店舗さんのオペレーションの効率化。店舗さんには手間をかけずに店舗運営してもらい、より大事な業務に時間を割いてもらえるよう、さまざまなツールを用意しています。
もう1つは顧客体験の向上です。先行してスタートしている「セマンティック検索」は、検索で文章を入れると機械が自然言語処理を行い、この文章はどういう意味かを解釈し、その意味に沿った商品を検索結果に表示するというものです。
従来の検索と比べて、お客様が本当にほしいものが出てきます。ファッションのプラットフォームに先行導入し、結果も非常に良好です。
ショッププランの拡充
AI以外にも投資していく方針です。その1つに、ショッププランのアップグレードがあります。
「スタンダードプラン」と「がんばれ!プラン」について、画像の容量と登録可能商品数を大幅に増やすことで、いろいろなページを店舗さんが気兼ねなく作れるようになります。
出店プランの月額固定費を変更
楽天市場のシステム投資は、過去4年で約1.6倍に増えています。昨今の物価高騰などの外部環境の変化に対応し、今後も中長期的な店舗運営支援とユーザー利便性の向上・改善を図ることを目的に、店舗さんの出店プランの月額固定費を一部変更させていただきます。
引き続きシステムにも積極的に投資を行い、より楽天市場を魅力的にしていきたいと考えています。店舗さんと一緒に継続的に成長していくために、丁寧に説明を行いながら、継続的に進めていきます。
⑤店舗コミュニケーションの強化
店舗さんとのコミュニケーションについては、「NATIONS」やビジネスマッチングイベントをアップデートしています。また、新企画として「楽天大学ラボ」をスタートしました。業界の皆様にアドバイザーになってもらい、各領域の専門家や一線級の人たちを招き、いろいろなオリジナルコンテンツを店舗さんが自由に見られる形で進めています。
技術が進化・普及する一方で、世の中はより一層複雑になってきています。そうした中で、店舗さんに対して、複雑なものをよりわかりやすいものに変換していくというのが、楽天の役割の1つでもあると考えています。店舗さんとのコミュニケーションは引き続き強化していきます。
国内EC流通総額10兆円に向けて
最後に、国内EC流通総額10兆円という目標は、何かを1つ2つ行って達成できるようなものではありません。各領域で真面目にしっかりと実績を積み上げて、一歩ずつ進んでいきたいです。
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