「食経験による安全性評価」のあいまいな基準を逆手に取る
機能性表示食品制度は、企業の責任によって機能性・安全性を確認し、消費者庁へ届け出るという仕組み。特定保健用食品制度(トクホ)と比べると、最大の違いはトクホが国の許可が必要であるのに対し、機能性表示食品は企業の責任で届出を行うという点だ。
政府関係者や消費者団体関係者の間では「トクホの方が上」という声があるが、有効性については大きな違いはない。むしろ商品によっては、多数の研究成果を総合判断する機能性表示食品の方がトクホよりも信頼できる。トクホの審査に携わった学識経験者からは、「トクホの場合、1つの論文であっても、統計的な有意差があれば認めざるを得なかった」という不満も聞かれた。
しかし、安全性確保の面では、機能性表示食品制度には課題も多い。届出企業には、次のいずれかの手法による安全性確認が求められる。
(1)喫食実績による食経験の評価、(2)既存情報による食経験の評価、(3)既存情報による安全性試験結果の評価、(4)安全性試験の実施による安全性の評価。
届出の多くは、(1)(2)の食経験で安全性を確認している。その理由に、費用も時間もかからないことがある。問題は、何年以上の食経験が必要なのかが線引きされていないことだ。
同制度を創設する際に、米国FDAの「目安として広範囲に最低25年摂取されていること」や、オーストラリア・ニュージーランド食品基準局の「2~3世代あれば使用歴として十分だが、5年以下では短いと考えられる」といった情報をイメージしながら議論されたが、線引きは困難という結論に至った。
食経験の目安が示されなかったことから、わずか数年の食経験を根拠に、安全性を確認したという届出が後を絶たない。1年未満の食経験を根拠とした届出もあるが、制度上、それを理由に拒否できない。線引きがないことを逆手に取った機能性表示食品が氾濫しているというのが現状だ。
野放し状態にある「新規原料」
食経験による安全性評価は、多くの消費者によって長年にわたり摂取されてきた食品にとっては適切な手法となる。だが、機能性表示食品制度では新規原料にも用いられていることが、深刻な問題と言える。
新規原料については、トクホの場合、食品安全委員会で専門家が時間をかけて検討する。トクホの許可を得るには、原則、食品安全委員会の審議をクリアする必要がある。これに対して機能性表示食品の場合、新規原料であっても、わずか数年の食経験による安全性評価で届け出ることが可能となっている。
新規原料は食経験が乏しいことに加え、供給している会社が一部(1社だけのケースも)に限られ、安全性に関する研究の蓄積も薄くなりがち。このことは、いわゆる健康食品も同じ状況にある。
そうした事情を背景に、一部の新規原料については、トクホでは安全と言えないと判断されて許可されなかったものの、機能性表示食品やいわゆる健康食品として、それを配合した商品が販売されるという一貫性のない状況にある。
海外に目を向けると、EUではノーベルフーズ(新規食品)、米国は全食品を対象としたGRASとサプリメントを対象としたNDIという制度を整備するなど、新規の原料や食品に対して厳しいチェック体制を敷いている。
健康食品分野に精通しているグローバルニュートリショングループの武田猛代表は、「主要国で、実績のない原料にチェックが入らないのは日本くらい。EUや米国、アセアン諸国、中国なども仕組みを持っている」と話す。新規原料を使用したサプリメントなどの安全性を担保するために、「日本もノーベルフーズ制度を導入し、国が関与する必要がある」と提唱している。
新規原料で競い合う一方で安全性を軽視の風潮も
小林製薬の件に話を戻すと、伝統的な手法で製造される一般的な紅麹と、サプリメント用途として開発・製造される紅麹原料を分けて考える必要がある。
このサプリメント用途の紅麹原料も同社独自のものだが、機能性表示食品を見ると、次から次へと各社オリジナルの新規原料を配合した商品が登場している。この背景には、届出件数が8000件を超え、差別化が難しくなっていることがある。
新たな機能性を打ち出すことは容易でないため、新規の関与成分によって差別化するという発想だ。
その一方で、原料供給会社には、ビジネス優先で安全性に対する意識が低い企業も少なくない。現在、業界では機能性表示食品の安全性確認などで活用される「ナチュラルメディシン・データベース」の使用料をめぐる騒動が持ち上がっているが、大手を含むいくつかの原料供給会社の担当者からは「(安全性確認で)コストを払うことに社の承認が得られにくい」という声が聞かれる。
機能性表示食品制度は今や新規原料のお披露目の場となっている。小林製薬の問題は、そうした状況に警鐘を鳴らしたという見方もできそうだ。紅麹についても、サプリメント用途に開発・製造されたものは、新規原料として慎重に扱う姿勢が求められる。
健康食品の安全性に詳しい健康栄養評価センターの柿野賢一代表は、「新規性のある原料については、事業者任せではなく、国がきちんとチェックすべき」と機能性表示食品制度の問題点を指摘する。
26日の記者会見で自見消費者担当大臣は、「機能性表示食品制度全体の検証を行う必要があると考えている」と述べた。消費者庁によると、今のところ、制度の見直しについて具体的な計画は決まっていないという。
消費者庁は同制度への規格基準型の導入を課題に挙げているが、今後の制度の見直しでは、小林製薬の問題を受けて安全性確保のあり方も問われそうだ。
(木村 祐作)
この続きは、通販通信ECMO会員の方のみお読みいただけます。(登録無料)
※「資料掲載企業アカウント」の会員情報では「通販通信ECMO会員」としてログイン出来ません。