有効性だけでなく、安全性確保の課題も山積
小林製薬の機能性表示食品を摂取した人で健康被害が発生したことから、同制度の在り方に関心が寄せられている。メディアをはじめ、学識経験者や消費者団体からは、同制度に対する批判の声が聞かれる。その内容も、抜本的な見直しから制度廃止までと多様だ。
もともと同制度に対しては、有効性の根拠が不十分という指摘が多かった。これに加え、今回の問題で安全性にも疑問符がついた。しかし、機能性表示食品を含む健康食品による健康被害を防止するためには、同制度の改善(または廃止)だけでは不十分だ。
小林製薬のサプリメントによる健康被害は、機能性表示食品であるがゆえに発生したのか、それとも健康食品全般に関わる問題によって発生したのか――それによって対策の方向性も違ってくる。
詳細については原因究明を待たなければならない。その一方で、機能性表示食品制度が多くの課題を抱えていることは確かだ。今回の問題を機に、同制度の安全性対策に関する課題について考察してみる。
性善説に立った運用、食経験で“裏切り”
機能性表示食品の届出を行う場合、事業者は以下のいずれかで安全性を確認する。
(1)喫食実績による食経験の評価
(2)既存情報による食経験の評価
(3)既存情報による安全性試験結果の評価
(4)安全性試験の実施による安全性の評価
(1)が困難な場合は(2)を実施、(2)が困難な場合には(3)を実施。(1)~(3)が困難な場合は(4)を実施して安全性を確認する。
多くの企業では、(1)(2)の食経験の評価で届け出ている。コストも手間も最小限で済むからだ。
同制度には、何年以上の食経験が必要というルールが設けられていない。一方、海外に目を向けると、食経験の考え方について、米国食品医薬品局(FDA)では「目安として広範囲に最低25年摂取されていること」としている。
機能性表示食品制度には食経験の長さに関する線引きはないものの、制度が発足した当時、わずか数年の販売実績で食経験が十分にあると主張する企業は“ないはず”と思われていた。
ところが、制度がスタートすると、わずか数年の喫食実績で届け出る企業が後を絶たなかった。線引きがない以上、消費者庁も“ダメ出し”することができない。これは、多数の商品で安全性確認が疎かになっていることを意味する。企業の性善説に立った制度運用だが、見事に裏切られた形となり、現在もそうした状況が続いている。
安全性確認よりもコスト削減?
次に、(2)の既存情報による食経験の評価、(3)の既存情報による安全性試験結果の評価についてはどうか。これらの場合、機能性関与成分または最終商品の情報を収集して行う。
その際、使用原材料が発酵物やエキスの場合、機能性関与成分にフォーカスして安全性を評価するだけで十分か、という疑問もある。というのも、発酵物やエキスは機能性関与成分のほか、多種類の成分を含有していたり、夾雑物を含んでいたりするケースもあるからだ。
また、これらの手法による場合、優先的に公的機関のデータベースや民間機関が作成した2次情報から情報を収集し、安全性を確認しなければならない。ここで言う2次情報とは、当該成分の安全性情報を幅広く収集して評価したもの。安全性の確保では、情報の漏れがないようにする必要があることから、2次情報が優先される。
しかし、新たに登場した成分・原料については、2次情報が見当たらないことがある。その場合には、1次情報(文献)をデータベースで検索して情報を収集する。
今回問題となった紅麹原料を使用した機能性表示食品のうち1商品については、(3)の既存情報による安全性試験結果の評価(1次情報が対象)によって届け出ている。1次情報の収集で使用したデータベースは、「J DreamⅢ」「PubMed」の2種類のみ。これは国内と海外のデータベースを1つずつ使用したことを意味するが、可能な限り網羅的に調査したと言えるかという疑問も湧いてくる。
健康食品業界の体質にも問題がありそうだ。安全性の2次情報については、民間の「ナチュラルメディシン・データベース」が最も充実していると言われている。だが、使用料がかかるため、活用することが妥当と思われるケースであっても、コスト削減の観点から利用をためらう企業も少なくない。
既存情報による安全性確認では、2次情報、1次情報の検索で、届出企業が最善を尽くしたかどうかが問われる。しかし、手を抜いたとしても“ダメ”と言えない状況にあり、この点も課題の1つだ。
含有量の上限は?過剰摂取の恐れも
消費者庁は3月1日、機能性表示食品や特定保健用食品(トクホ)などを買い上げて分析した結果を公表。機能性表示食品の2商品で、機能性関与成分の含有量が届出資料の値を下回っていたことが判明した。
健康食品メーカーでは一般的に、時間の経過につれて商品中の機能性関与成分の量が減少することを見越して、2~3割ほど多めに成分を配合して製造する。下限値を下回ると有効性が担保できないため、消費者庁も表示値の量が含まれているかどうかを監視している。
一方、安全性の観点からは、含有量の上限値が重要となる。届出ガイドラインでは「安全性を担保する上で必要な場合は上限値も設定」と記載しているものの、これまで販売後の監視で注視してこなかった。このため、「表示値を大きく超える量の成分が含まれている商品もある」(健康食品に詳しい学識経験者)という。
これは、知らず知らずのうちに機能性関与成分を過剰に摂取していることを意味する。過剰摂取を避けることは安全性確保の基本であり、この点も課題の1つだ。
健康被害が出やすい「指定成分」も制度の対象に
厚生労働省は、健康食品に用いる成分・原料のうち、危害発生を防止する観点から、特に注意が必要なものを「指定成分」と位置づけている。指定成分にはコレウス・フォルスコリー、プエラリア・ミリフィカ、ブラックコホシュなど4成分がある。
指定成分を配合した健康食品については、多数の健康被害情報が寄せられている。2023年だけで、コレウス・フォルスコリーが69件、プエラリア・ミリフィカが6件、プエラリア・ミリフィカ+ブラックコホシュが7件に上る。
このように多数の健康被害が報告されているにもかかわらず、指定成分を配合した商品も機能性表示食品として届け出ることができる。
健康に役立つ効果をうたう機能性表示食品の成分として、健康被害が懸念される指定成分が適切かどうか。同制度の安全性対策を強化する上で、今後検討が求められそうだ。
健康食品GMPのレベルアップも課題
機能性表示食品制度は2015年4月、規制改革の流れの中で登場した。その後も同制度をめぐり、さらなる規制緩和を求める健康食品業界の活動が活発化。消費者庁では、「エキス等」と「ビタミン・ミネラル」も機能性関与成分の対象とするかどうかを検討した。その結果、「エキス等」を対象に追加した一方で、「ビタミン・ミネラル」については加えなかった。
「ビタミン・ミネラル」を除外したのは、健康被害の発生が懸念されたためだ。特に不溶性ビタミン(ビタミンD・Eなど)や微量ミネラルについては、過剰摂取による健康被害の恐れがある。前述のとおり、機能性関与成分の含有量の上限値について野放しの状況にあることを考えると、「ビタミン・ミネラル」の追加を見送ったのは適切な判断だったと言えそうだ。
一方、「エキス等」は機能性関与成分が明確でなく、また多種類の成分が含有され、品質面のコントロールも容易でない。そうしたものを機能性関与成分として扱うと決めたわけである。
安全性と有効性の両面で「エキス等」の追加は妥当な判断だったのかどうかについて、再検証することも必要と考えられる。
このほか、機能性表示食品の製造・品質管理をめぐっては、「健康食品GMP(適正製造規範)」の問題もある。医薬品と違って、機能性表示食品の製造にはGMPが義務づけられていない。届出ガイドラインでは、サプリメントについてGMP認証取得の推奨にとどめている。
安全性対策を強化する上で、健康食品GMPによる管理をさらに強く求めるといった取り組みも課題となる。
また、米国FDAのGMP(cGMP)と違って、日本の健康食品GMPは基準が緩いという指摘も聞かれる。米国のGMPで見られる製造ロットごとの成分の同等性確認や国による査察なども含め、健康食品GMPのレベルアップも課題となっている。
(つづく)
(木村 祐作)
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