機能不全に陥った健康被害情報の収集・報告体制
小林製薬の紅麹原料をめぐり、食品衛生全般に関わる課題として、主に2つの点が浮かび上がる。1点目は、健康被害情報の収集・報告体制が機能していたかどうか。
同社が健康被害の発生を把握したのは1月中旬。その後、消費者庁へ報告したのは、記者会見を開く前日の3月21日だった。約2カ月もの間、社内で検討していたことになる。その間に被害が広がった可能性も否定できない。
健康食品による健康被害情報の収集・報告の在り方は、厚労省が2002年に出した通知「健康食品・無承認無許可医薬品健康被害防止対応要領について」で規定。しかし、現在に至るまで、同省へ寄せられる情報は一向に増えず、機能不全に陥っている。
また、機能性表示食品の届出ガイドラインでは、届出企業に対し、健康被害情報を受け付ける窓口を設置するよう求めている。重篤度や因果関係を評価し、被害発生・拡大の恐れがある場合には消費者庁へ「速やかに報告する」としているが、報告は強制ではなく、届出企業の判断による。重篤かどうか、因果関係があるかどうかも、企業によって判断が異なってくる。小林製薬の機能性表示食品で国への報告が遅れたのも、あいまいなルールが影響した可能性がある。
健康被害情報の収集・報告の在り方は、機能性表示食品に限らず、いわゆる健康食品や一般的な加工食品にも及ぶ問題だ。このため、健康被害情報の収集・報告を企業に義務づける場合には、食品全般を対象とする必要がある。
その上で、機能性表示食品制度についても、義務化またはそれに近い仕組みの導入が考えられる。
日本は新規原料を扱う企業にとって“天国”
食品衛生全般に関わるもう1つの課題は、新規に開発された成分・原料の監視をどうするか。米国、EU、アセアン諸国をはじめとする主要国では、新たに登場した成分・原料に対する規制を敷き、消費者の健康を守っている。
米国では「NDI」と「GRAS」の2つの制度によって、新規の成分を規制している。NDIは、1994年10月15日以前に米国内で販売されていなかったサプリメントに用いる成分が対象。GRASは、食品に使用される物質で、科学的見地から「一般的に安全である」と判断されるもの。また、EUなどでは「ノベルフード(新規食品)制度」を導入し、新たに登場した原料を規制している。
ところが、日本では食品衛生法に抵触しない限り、比較的自由に使用できる。最近の健康食品による健康被害事例を見ても、コレウス・フォルスコリーやプエラリア・ミリフィカといった日本人に馴染みのなかった成分によるものが多い。
機能性表示食品に限らず、国内の健康食品市場を見渡すと、各社から新たな成分・原料が次々と登場している。これまで日本人が口にしなった植物から抽出された成分などがある。また、各社独自の培地を使用したり、抽出方法を用いたりして、特殊な方法で製造された原料も少なくない。
これらは新たに開発された成分・原料に該当し、食べ続けた場合、20年後、30年後に、どのような健康への影響が生じるのかが不明だ。本来ならば、流通させる前に国による審査が必要と考えられるが、指定添加物や遺伝子組み換え食品などを除けば、そうした仕組みはない。新規の成分・原料を扱う企業にとって、日本は“天国”と言えるだろう。
新たに登場した成分・原料への対応として参考になるのが、特定保健用食品(トクホ)制度である。トクホの場合、新規の成分については食品安全委員会による安全性評価を受けることが基本となる。これによって、トクホ製品の安全性を確保している。
一方、機能性表示食品、いわゆる健康食品、一般の加工食品では、そうしたルールは設けられていない。このため、トクホの審査で安全性に問題があると判断されてトクホ製品に使用できない成分・原料であっても、機能性表示食品やいわゆる健康食品などでは使用できるという二重構造となっている。
小林製薬のサプリメント用の紅麹原料についても、製造方法などが一般的な紅麹とは異なる。従来の紅麹と区別し、新規に開発された原料と位置づけて、より厳格な管理体制が必要だったという指摘もある。
一般的に、新たに登場した原料は、健康被害を引き起こすリスクが不透明と言える。このため、トクホや機能性表示食品に限らず、食品全般で監視体制の在り方を議論する必要がある。
(了)
(木村 祐作)
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