「2024年問題」がこの4月から現実のものとなり、EC業界ではドライバー不足が深刻化している。大手各社の配送料金も値上がり、EC事業者にとってはかなり厳しい状況だ。配送効率化を目指し配送業者もEC事業者も「置き配」などに本腰を入れるが、再配達有料化もささやかれる中、政府が目標に掲げる今年度内の「再配達率半減」は実現できるのか。
4月から大手配送各社が値上げ
ヤマト運輸と佐川急便は今年4月、2年連続で配送料金値上げに踏み切った。ヤマト運輸は通常の宅配便に加えてクール便やゴルフバッグの料金を平均で約2%、佐川急便は宅配便を平均で約7%アップ。燃料価格の上昇や従業員の待遇改善などが背景にあり、今後もさらなる値上げの可能性を示唆している。
日本郵便も10月から、手紙やはがき、さらにレターパックや速達料金も値上げする。ただ、前年に基本運賃を平均で約10%値上げした「ゆうパック」は値上げせず、配達日数の延長や配達希望時間帯の一部廃止で対応する。
危機感から政府が「再配達の削減」を推進
すでに10年ほど前から、EC業界では「物流クライシス」という現象が懸念されていた。EC利用者の急増などで物流・配送の処理能力が限界となる状況のことで、今やまさにそれが目前に迫る。
政府は2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を策定し、「商慣行の見直し」「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」を3本柱として提言。中でも物流業界やEC業界と共に注力しているのが「再配達の削減」だ。24年度内に、再配達率を23年度時点の12%から6%へと半減にすることを目標に掲げる。
「物流革新に向けた政策パッケージ」では再配達削減を進める重要事項として、以下の4項目を掲げる。
○ 時間帯指定の活用(ゆとりある日時指定)
○ 各事業者の提供しているコミュニケーション・ツール等(メール・アプリ等)の活用
○ コンビニ受取や駅の宅配ロッカー、置き配など、多様な受取方法の活用
○ 発送時に送付先の在宅時間を確認
これら施策のうち、官民一体で力を入れているのが「置き配」といえよう。
「置き配」のポイント原資を国が補助
「置き配」の推奨策として目立つのが、利用客へのインセンティブとなるポイント付与だ。
国土交通省は再配達率が高止まりしている状況を受け、システム改修費や置き配でのポイント付与の原資を補助する「再配達率削減緊急対策事業」を24年5月から開始。EC事業者に対し、1配送あたり最大1/2(最大5円)のポイント原資を補助する。
「Yahoo!ショッピング」はひと足先の24年1月、置き配指定するだけでPayPayポイントを付与するキャンペーンに着手した。1,000円以上の買い物をして玄関ドア前や物置などの場所に置き配指定すると、1回の注文ごとに10円相当のPayPayポイントを提供。同年3月まで3回に分けて行った。
こういった動きに先駆け20年以上前から置き配を手がけているのが、化粧品を扱うファンケル。24年も1月下旬から2月末までの期間限定で、「置き配」を選択すると1回10ポイントの自社ポイントを提供するキャンペーンを実施した。これを機に、24年度中には置き配率を38%まで拡大させたいという。
アスクルが運営する「LOHACO」も、23年9月にPayPayポイントを30ポイント、24年2月には10ポイント提供する置き配の期間限定キャンペーンを展開した。
これらは期間限定だったが、ポイント原資補助により今後はさらに「置き配ポイント」を提供するEC事業者が現れそうだ。
「再配達率削減緊急対策事業」のスキーム(出典:国土交通省)
ヤマトは置き配拡大で荷物の約8割に対応
「置き配」への取り組みは配送会社も広がりつつあり、ヤマト運輸は24年6月から約5,600万人の個人向け会員サービス「クロネコメンバーズ」の会員を対象に、「宅急便」「宅急便コンパクト」の受け取り方法に「置き配」を追加した。
これまでも置き配指定が可能なEC事業者向け配送サービス「EAZY(イージー)」で対応していたが、導入ショップはある程度限られていた。今回の追加により、同社が運ぶ荷物の約8割で置き配を選べる。
日本郵便はゆうパックやレターパックプラス、郵便受箱または差入口に入らないゆうメール、ゆうパケット、レターパックライト、書留などの郵便物、国際郵便物などを置き配の対象としている。利用するには事前にWEB経由での申請か配達郵便局への依頼書提出が必要とやや面倒だが、日本郵便が推奨するカギ付き置き配バッグ「OKIPPA」を設置していれば、申請や依頼書提出は省略できる(書留等は除く)。
一方で、佐川急便は基本的に置き配には対応していない。「指定場所配送サービス」という置き配サービスはあるものの、EC事業者などの荷主が佐川急便と個別契約を結んでいる場合に限られる。
荷物の約8割が置き配に対応できるようになった(出典:ヤマト運輸)
「ゆっくり配送」や「まとめ配送」も増加
置き配以外にも、配送効率化への対応策が進む。急がない荷物の受け取りを数日遅らせたり、複数回の注文をまとめて配送したりすることで、繁閑による作業の分散化効果を狙う。
「ZOZOTOWN」を運営するZOZOは24年4月、顧客が余裕のある配送日を選択した場合に10ポイントのZOZOポイントを提供する「ゆっくり配送」を試験導入した。注文日の5日後から10日後までに発送するもので、通常に比べリードタイムが最大6日間伸びる。
また、複数回の商品注文を受けた場合、自動的に1つの注文としてまとめて配送する「注文のおまとめ」サービスの機能を23年4月から拡大。発送拠点が異なる注文でも可能となった。ポイント付与はないが、顧客にとっては送料が1回分で済むメリットがある。
配送業務の分散化については、「Yahoo!ショッピング」も23年4月から全ストアを対象に「おトク指定便」を導入している。顧客が余裕のある配送日(最大14日後)を指定した場合、「PayPayポイント」を提供。「LOHACO」サイトでの実証実験を経て踏み切ったもので、出店ストアは任意で同サービスの提供有無や付与ポイントの設定が可能となる。
楽天も日本郵便の配送荷物を対象に、「楽天市場」の複数店舗の商品や受取り日が異なる複数商品をまとめて配送指定できる 「おまとめアプリ」を21年11月から展開。荷物の受け取り日時や場所を指定できる日本郵便の「e受取アシスト」と同アプリを連携することで実現した。1回の配送で荷物が1個増えるごとに30ポイントの楽天ポイントを付与する。
選択するとポイントを付与(出典:ZOZO)
「送料無料」表示の見直しに着手
これら施策のほか、消費者庁は慣習だった「送料無料」表示の見直しについての議論に着手。「送料無料」という表現は再配達の助長につながりかねないと、「送料当社負担」「送料込み」など「無料」の背景や仕組みがわかるような表示に変更すべきとした。
法的な規制の導入は見送られたが、EC事業者は自主的に表示の見直しを実施している。24年6月にはアマゾンジャパンやLINEヤフー、楽天グループといった大手ショッピングモールをはじめ、業界団体の日本通信販売協会(JADMA)、ファンケルなどが自社の取り組み事例を公表した。
まとめ
EC事業者が配送事業者との運賃交渉を行う材料は一般的にボリュームディスカウントだったが、今やそれも通じにくくなった。かつては配送業者も値引き営業で取引につなげていたものの、そういった時代は過ぎ、昨今における決定権はむしろクライアントではなく配送側が握っているといえよう。
政府と配送・EC業界が一丸となって進める「2024年問題」への対応策だが、再配達削減でどの程度の効果が見込めるかはまだ試算段階だ。ただ、再配達は配送コストのアップにもかかわってくるため、EC業界には自社顧客の意識改革などさらに知恵を絞った地道な取り組みが求められる。
執筆者/渡辺友絵
<記者プロフィール>
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、
通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物
流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在
、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員
、ECネットワーク客員研究員。
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