今年2月下旬から3月上旬にかけて、全国各地でナンバーワン表示に対する景品表示法に基づく行政処分が行われた。太陽光発電システム機器、海外Wi-Fiレンタル、注文住宅、家庭用蓄電池といった幅広い分野の事業者が対象となり、2023年度にナンバーワン表示で行政処分を受けた事例は9件を数えた。国による撲滅キャンペーンを通して浮かび上がったナンバーワン表示の問題点について報告する。
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違反事例から浮かび上がる共通点
相次ぐ違反事件を受けて、消費者庁は3月21日、ナンバーワン表示に関する実態把握調査を実施すると発表した。調査内容は(1)広告主や事業者団体へのヒアリング、(2)一般消費者を対象とした意識調査、(3)ナンバーワン表示のサンプル調査。「満足度」「使い勝手」など客観的な手法による調査が難しく、印象を問うような手法によるナンバーワン表示に着目するという。今秋に調査結果を公表する予定だ。
2月下旬から3月上旬にかけて集中的に行われた行政処分の中から、1事例を紹介する。消費者庁は3月1日、海外Wi-Fiレンタルサービスの提供会社に対し、景表法に基づく措置命令を出した。
「お客様満足度 No.1 海外Wi‐Fiレンタル」「海外旅行者が選ぶ No.1 海外Wi‐Fiレンタル」などと表示していた。しかし、調査では回答者に対し、同社のサービスや比較対象のサービスを実際に利用したことがあるかどうかを確認していなかった。これに加えて、特定の9事業者のサービスを任意に選んで比較し、各事業者のウエブサイトの印象を問うという調査手法だった。
近年のナンバーワン表示の取り締まりを見ると、2019年に埼玉県が接骨院経営者に対して措置命令を打った事案を皮切りに、一気に動き出した感がある。
その後の動きで特筆すべきものとして、消費者庁が2022年6月に公表した景表法違反事案がある。エステサロン運営会社による「豊胸施術」「痩身施術」のナンバーワン表示が対象となった。同社は自社ウエブサイトで、「あの楽天リサーチで2冠達成★バスト豊胸&痩身部門で第1位!」「バストアップ第1位 施術満足度」「ボディ痩身第1位 施術満足度」などと表示していた。
消費者庁の調べによると、同社が提供するサービスや比較対象のサービスと、同種・類似のサービスの利用者を対象とした調査ではなかった。さらに、調査結果は、施術満足度の順位が1位ではなかったという。
経緯を見ると、広告主は代理店にナンバーワン表示の利用を申し込んだ。代理店と提携先のマーケティングコンサル会社は、広告主の要望に沿うアンケートを組み立て、リサーチ会社へ調査を依頼。リサーチ会社は調査結果について2位だったと報告した。ところが、代理店とマーケティングコンサル会社は1位となるように細工し、代理店は広告主に1位の結果を納品した。この事案は、悪質な部類に入ると考えられる。
一連の行政処分を通して、いくつかの共通点が浮かび上がる。まず、調査対象者に対し、商品・サービスの利用経験を確認していないことがある。次に、比較対象に用いた他社の商品・サービスを任意に選択していた点が挙げられる。さらに、各社のウエブサイトを見るだけといったイメージ調査だったことも共通していた。
不当表示とならないための原則
顧客満足度や効果・性能などに関するナンバーワン表示は、商品やサービスの優良性を示すもので、一般消費者の選択に与える影響は大きい。合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、実際の物や競合品よりも著しく優良・有利と誤認され、景表法上問題となる。
ナンバーワン表示のガイドラインは存在しないが、公正取引委員会の「No.1表示に関する実態調査報告書」が参考になる。
報告書では、ナンバーワン表示が不当表示とならないために、(1)表示内容が客観的な調査に基づいていること、(2)調査結果を正確かつ適正に引用していること――の両方を満たす必要があるとしている。
1つ目の「客観的な調査」については、次のような場合には問題となる。顧客満足度調査の調査対象者が、自社の社員や関係者の場合、または無作為に抽出されていない場合。調査対象者数が統計的に十分確保されるほど多くない場合。自社に有利になるような調査項目を設定するなど、調査方法の公平性を欠く場合など。
2つ目の「調査結果の正確かつ適正な引用」については、客観的な調査を行ったとしても、ナンバーワン表示の内容と調査結果に乖離がある場合には問題となる。特に商品の範囲、地理的な範囲、調査期間・時点などについて事実と異なる表示をすることや、明瞭に表示しないことによって、一般消費者に誤認を与えると、景表法に抵触する恐れがある。
商品の範囲、地理的な範囲、調査期間・時点
適正な表示を行うために、商品の範囲を明瞭に表示することが必要となる。明瞭でない事例として、「お客様満足度○○部門No.1」と表示しながら、化粧品全体の○○部門の調査結果ではなく、通信販売による○○部門の調査結果だったというケースがある。「○○健康食品シェアNo.1」も、一般消費者にとって○○健康食品の範囲を理解することは困難となる。
地理的な範囲については、調査対象とした地域を都道府県や市町村などの行政区画に基づいて明瞭に表示する。明瞭でない例として、「施術件数実績 地域No.1」「地域No.1の合格実績」などがある。
調査期間・時点については、直近の調査結果に基づいて表示し、調査対象の期間・時点を明瞭に表示する。明瞭でない例として、「○○販売数国内1位 『△△雑誌』□年□月号より」「施工棟数 5年連続No.1」などがある。
比較広告ガイドラインも参考に
消費者庁の「比較広告に関する景品表示法上の考え方(比較広告ガイドライン)」も参考になる。比較広告全般について説明しているため、ナンバーワン表示に特化した内容となっていないが、適正な表示を行う上で重要なポイントが説明されている。
比較広告が不当表示とならないためには、(1)比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること、(2)実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること、(3)比較の方法が公正であること――の3要件をすべて満たす必要があるとしている。
1点目の「比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること」の留意点は次のとおり。実証が必要な事項の範囲は、比較広告で主張する事項の範囲とする。実証は、確立された方法で行い、確立された方法がない場合には社会通念上妥当と考えられる方法によって、主張する事実を認識できる程度まで行う。
2点目の「実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること」については、実証された範囲内で引用することが重要となる。調査が限定された条件の下で実施された場合は、その条件下の比較として引用する。限定された条件下の調査結果であるにもかかわらず、どのような条件下でも適用されるかのように引用すると、不当表示の恐れが生じる。
3点目の「比較の方法が公正であること」については、次のように説明している。商品全体の機能にほとんど影響しない事項を比較し、あたかも商品全体の機能が優良であるかのように強調すると問題が生じる。また、社会通念上、同等と認識されていない物と比較し、あたかも同等の物との比較であるかのように表示する場合も同様である。
今後の課題に「瞬間風速」や「タイムラグ」
今回、消費者庁は主にイメージ調査に基づくナンバーワン表示を問題視したが、ナンバーワン表示をめぐっては多くの課題が残っている。
調査会社で組織する業界団体の日本マーケティング・リサーチ協会はホームページ上で、今後の課題として「事実かもしれないが、市場の真実と言えるか?」という表示類型を挙げている。
「瞬間風速問題」もその1つ。「2024年〇月〇日調べ」という1日だけでのナンバーワン表示が散見されるが、せめて1カ月とか1年間であるべきではと指摘する。
「タイムラグ問題」も課題に挙げる。「2020年〇月調べ」などのコロナ期の調査と今とでは、市場環境が大きく異なることもあり、1年以内などにすべきと提言。また、「エリア限定問題」として「〇〇商店街でシェアNo.1」「〇〇ECサイトでNo.1」という表示があるが、少なくとも行政区域(都道府県・市区町村)単位が必要としている。
(木村 祐作)
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