確約手続の導入…行政処分以外の新たな選択肢
景表法に確約手続が導入される。確約手続とは、違反の疑いのある表示を行った事業者が自主的に是正するために「是正措置計画」を国へ申請し、認められると行政処分を受けないという仕組み。
これまでは措置命令や課徴金納付命令、または行政指導しかなかった。最初から一般消費者をだますつもりで違法広告を行う悪質業者であっても、不注意によって不適切な表示を行った事業者であっても同じような扱いだった。
法違反の疑いのある表示に対し、消費者庁は調査に入るが、その過程で事業者に対し、確約手続通知を行うことになる。通知の要件は次の2つ。(1)一般消費者の自主的・合理的な商品選択を確保するために必要と認められる、(2)「弁明の機会の付与」の通知が行われていない。
ただし、迅速な是正を期待できず、行政処分によって厳しく対処する必要がある事案は確約手続の対象外となる。具体的には、「過去10年間に行政処分(措置命令・課徴金納付命令)を受けた場合」「根拠がないと知りながら表示するなど悪質・重大な違反被疑行為の場合」としている。
確約手続を選択する事業者は、消費者庁へ確約計画を提出し、認定される必要がある。認定要件は次の2つを同時に満たすこと。(1)是正するために十分(措置内容の十分性)、(2)確実に実施されると見込まれる(措置実施の確実性)。
措置内容の十分性については、違反被疑行為と一般消費者への影響を是正するために、十分な措置が取られているかどうかや、過去の類似事案を参考に判断する。少なくとも類似事案の措置命令で命じた内容と同等の措置を取る必要がある。措置実施の確実性については、期限内に確実に実施される見込みがあるかどうかを判断する。
確約手続の運用基準…確約措置の典型例
確約手続の運用基準では、確約措置の典型例を説明している。そのうち「有益な措置(重要な事情として考慮)」として、一般消費者への被害回復を挙げた。購入者に購入代金の全額または一部を返金することは、「措置内容の十分性」を満たすために有益で、重要な事情として考慮される。
また、典型例のうち「有益な措置」として、契約変更や取引条件の変更を挙げている。契約変更の例として、不適切な表示の要因が取引先にもある場合、取引先を変更したり、取引先との契約内容を見直したりすることがある。取引条件の変更の例としては、有利誤認表示の疑いのある場合に、表示内容に合わせて条件を変更することがある。
課徴金制度…返金措置の弾力化
今回の法改正により、課徴金制度の自主返金措置について、購入者へ返金する際の支払方法として、従来の金銭以外に電子マネーなどを追加した。
自主返金措置は、消費者庁へ返金措置計画を提出して認められた場合、事業者が購入者へ返金するという仕組み。返金額が課徴金額を上回れば課徴金納付命令は出ない。下回った場合は課徴金額を減額する。
自主返金措置は2014年11月の法改正で導入されたが、利用実績はわずか数件にとどまっている。事業者が返金措置を活用しやすくするために、金銭以外の支払いも認めた。
電子マネーやクオカードなどの金額表示の前払式支払手段が対象となり、ビール券などの数量表示の前払式支払手段は対象外となる。また、特定の地域でしか使用できないもの、使用可能な期間・期限が設けられていて著しく短いものなどは利用できない。
課徴金の調査…売上額の推計規定を導入
消費者庁が行う課徴金の調査で、事業者から課徴金額を算定する基礎となる売上データが報告されない場合には、事実関係を把握できない期間の売上高を推計して、課徴金納付命令を出せるようにした。
この背景として、帳簿の一部が欠落しているなど正確な売上額を報告できない事業者も存在し、調査の長期化を招いていることがある。
具体的な推計方法を見ると、課徴金の対象期間のうち、売上データを把握できた期間の売上額の1日あたり平均額に、売上データが不明な期間の日数を乗じて算出することになる。
課徴金額の割り増し…繰り返し違反への対応
違反行為から遡って過去10年以内に課徴金納付命令を受けた事業者を対象に、課徴金額を1.5倍に加算する仕組みを導入した。通常の算定率は3%だが、4.5%を適用する。
加算の要件は、次の2つを同時に満たした場合。(1)基準日から遡って10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある、(2)課徴金納付命令を受けた日以降に、課徴金対象行為を行っていた。
直罰規定の新設…100万円以下の罰金
故意に違法な表示を行った場合に、罰則(100万円以下の罰金)を科す直罰規定を新設した。直罰規定は、景表法で禁止している「優良誤認表示」と「有利誤認表示」が対象となる。
これまで景表法には、違反行為に対して直接的に処罰する規定はなく、措置命令に従わない場合に処罰するというルールとなっていた。一方、表示を裏付ける根拠がまったくないのにもかかわらず、違法な表示を行う事業者も存在するなど、悪質な行為に対する抑止力が弱いと指摘されていた。
直罰規定の対象となり得る事例として、科学的根拠がまったくないのにもかかわらず、健康食品で大げさな効果をうたうケースなどが想定される。
適格消費者団体による開示要請規定…事業者に努力義務
優良誤認表示に該当すると疑う相当な理由がある場合、適格消費者団体が事業者に対し、表示を裏づける根拠資料の開示を要請できる規定を設けた。事業者は要請に応じる努力義務があると規定している。ただし、資料に営業秘密が含まれる場合などでは、努力義務を負わない。
国が取り締まりを行う場合、事業者に対し、表示を裏づける合理的根拠を示す資料の提出を求めることが可能。提出されない場合、または提出された資料が合理的根拠と認められない場合には不当表示とみなされる。
これに対し、適格消費者団体が優良誤認表示に該当するとして差止請求を行う場合、効果・性能について表示どおりでないことを立証するために、専門機関による分析・調査が必要となるなど、大きな負担がかかる。また、事業者と比べて保有する情報量が少なく、立証が困難な状況にあった。
送達制度の拡充…措置命令についても整備
今回の法改正により、措置命令の送達制度の整備と、外国執行当局への情報提供制度の創設を行った。
課徴金納付命令については公示送達などの送達規定があり、外国へ送達できない場合に公示送達を行うことができる。一方、措置命令については送達規定がなく、措置命令の対象となる外国事業者が国内に支店を持たず、日本での代理人選任も行わない場合には、措置命令を行うことが困難だった。
越境ECの普及に伴って、外国事業者による不当表示が増加すると予想されることから、措置命令についても公示送達の規定を設けた。また、外国事業者による表示が日本の一般消費者に与える誤認を排除するため、海外当局へ情報提供するといった協力体制を強化する。
(木村 祐作)
この続きは、通販通信ECMO会員の方のみお読みいただけます。(登録無料)
※「資料掲載企業アカウント」の会員情報では「通販通信ECMO会員」としてログイン出来ません。