「働き方改革関連法」が4月1日に施行された。今後は残業時間の制限、有休休暇取得の義務化、非正規社員の不合理な待遇差の禁止などが段階的に実施される。雇用環境の改善に向け、国が力を入れてきた取り組みだが、通販業界には国が法律を整備するまでもなく、すでに働き方改革を高いレベルで実行している先進的な会社がある。化粧品や健康食品の通販会社(株)ファンケルだ。同社は「社員が夢を持って働ける会社にする」という人事理念掲げ、残業時間の削減、在宅勤務制度の導入、休み方改革など、積極的に「働き方改革」を実践している。各種の外部評価機関から認定を受けるなど、働き方改革が成果を上げ、同社の好調な業績を下支えしている。そこで今回、ファンケルのグループサポートセンター人事部人事企画グループ 和田聡美担当課長に、同社の人事戦略について聞いた。
ファンケル グループサポートセンター人事部人事企画グループ 和田聡美担当課長
4種の休暇制度でワークライフバランスを充実へ
――御社の休暇制度についてお聞かせください。
和田:弊社ではワークライフバランスを充実させることが生産性・企業価値向上につながると考えています。その取り組みの1つが休み方改革です。有給休暇を取得しやすくするために様々な工夫をしています。
付与された有給休暇のほかに、ボランティア活動などのために年間5日間まで取得できる「社会貢献休暇制度」や、男性社員が配偶者をサポートするために年間5日間まで取得できる「配偶者出産支援休暇」などがあります。
また、特長的なのは、「ライフイベント休暇」です。家族やペットの誕生日や、子どもの行事、記念日といったライフイベント時に積極的に有給休暇を取得することを推奨しています。また、2~5日間連続での有給休暇取得を推奨する施策として「リフレッシュ休暇」というのも導入しています。社員からは、周囲に言い出しにくい理由でも気軽に休むことができるようになったといった声が寄せられています。
2017年度の有給休暇取得日数の平均は11.4日です。「働き方改革関連法」で義務付けられた5日以上を大きく上回っています。
残業時間削減目標は25%減…在宅勤務などが貢献
――御社では働く場所・時間を柔軟にして、多様な働き方を推進されています。この働き方改革は、残業時間の削減につながっているのでしょうか。
和田:弊社では働き方改革が今ほど叫ばれる前から、残業削減に努めています。18年度は前年度の残業時間の25%削減が目標。限られた時間で効率よく仕事するための取り組みの1つとして、在宅勤務制度やサテライトオフィスを導入しています。
また、各部署でそもそも今行っている業務が本当に必要あるのか見直す「やめてしまえ活動」も残業時間の削減の効果が高い取り組みです。本当に必要なものなのか、過去から同じやり方をしていないかなど社員自らが業務を分析し、その業務が今必要で未来につながるものなのかを考え、廃止や改善につなげています。この活動によって、年間約1万4000時間の業務時間が削減できました。これは、7~8人分の業務時間に相当します。さらに、残業を禁止する「ノー残業デー」も週3回実施しています。
簡単にできることとしては、「会議の時間は絶対に時間内に終わらせる」「会社の情報をオープン化する」などです。会社の必要な情報をきちんと整理し、誰がアクセスしても必要書類がどこにあるかがわかる状態にしておけば、必要な資料や情報を探す時間が削減できます。こうした取り組みの結果、残業時間は毎年減少傾向にあります。
働き方改革、健康経営、女性の活躍推進などでファンケルが認定を受けた外部評価
女性の活躍を推進、女性管理職比率が45%に
――御社は女性管理職比率が45%に上るなど、人事戦略として女性の活躍を推進し、管理職を含め、多くの女性社員が活躍しています。このように女性が活躍できる理由についてお聞かせください。
和田:弊社の女性社員の比率は68.5%です。創業時から多くの女性が活躍する会社だったので、男女差を意識することがない風土が自然と出来上がっています。
そして当社は化粧品、健康食品などの商品を取り扱っておりますので、商品開発やマーケティングに女性の視点は欠かせません。
なぜファンケルは「育休復帰率100%」が達成できるのか?
――「育休からの復職率が100%」ということですが、保育園に入れない、育児が大変で復職できないなど、復職を断念する女性が多いなか、なぜ御社は育休復帰率100%を実現できるのでしょうか?
和田:制度としては、育児休暇は最長で2年まで取得することができるほか、職場復帰後は小学校卒業まで育児短時間勤務をすることができ、現在、短時間勤務の社員は100人ほど在籍しています。また、子供ひとりあたり1万円を18歳まで毎月支給する「よいこ手当」といった制度も導入しています。しかしながら、復帰率100%を支えているのは、制度だけではなく、育休を取得する者とその部署のメンバーが互いを理解しあう企業文化があることだと思います。
社内には育児休暇を取得した経験をもつ社員も多く、育児休暇取得希望者は、育児と仕事のワークライフバランスを充実させている先輩社員の姿から、自分も子育てと仕事を両立するイメージがつきやすいのだと思います。また、育児休暇を取得した経験を持つ社員も過去、自分の復帰を期待されていたり、自分のポジションや役割を空けて待っていてくれていたという経験から、「育児休暇を取得する社員の復帰を待とう」と思う意識が芽生えるのだと思います。
そういった互いを思いやる関係が古くから続いており、今では当社の貴重な企業文化となっています。
ママ社員は見習うべき存在
――子どもがいる社員といない社員で仕事量に差ができることは、問題にならないのでしょうか?
和田:むしろよい影響を与えていると考えます。ママ社員は決められた時間のなかで仕事をしており、決断が早く、時間の使い方が非常に効率的です。こうした仕事の効率の良さは学ぶべきところが多く、ママ社員は尊敬を集めています。また、平日は早く帰るママ社員ですが、土日の勤務が必要な時は率先して出社してくれることもあります。ここにも互いを思いやる文化を感じます。
店舗契約社員の正社員登用でモチベーションが劇的に改善
――18年4月から、店舗の契約社員全員の雇用形態を、エリア正社員に変更されました。契約社員をエリア正社員にしたメリット、効果などについてお聞かせください。
和田:近年は労働人口の減少や、インバウンド需要の高まりなどから店舗スタッフが人手不足気味で、採用も難しい状況でした。そこで18年4月から、店舗での契約社員の雇用区分を廃止し、新たにエリア正社員という雇用区分を設け、地元で安心して長く務められる環境を整備しました。
この結果、離職率は低下し、採用力も強化され、新規採用数も多くなっています。エリア正社員に雇用区分が切り替わったことで、休暇や賞与が増え、モチベーションに劇的な変化が見て取れました。こうした傾向はさらに高まっていくと思います。
「アクティブシニア社員」の活用で将来の労働力確保とスキル継承へ
――何歳までも働くことができる「アクティブシニア社員」という雇用区分を17年4月に新たに設けましたが、「アクティブシニア社員」とはどういう雇用区分で、御社の人事戦略のなかで、どのような位置づけなのでしょうか?
和田:当社の平均年齢は38.7歳で、今すぐ労働力が不足するというわけではありません。将来を見据えた取り組みです。身体が元気なうちは、いつまでも働きたいと考える人にも安心して働いてもらいたい、という想いを込めた雇用区分です。
現在はコールセンター、管理部門などで9人がアクティブシニア社員として勤務しています。長い社員生活で培ったスキルやノウハウを後輩に継承するための指導・育成が主なミッションで、皆さんがそれぞれの部門で活躍しています。
アクティブシニア社員は高い労働意欲を持っている人たちで、モチベーションを下げることなく、いきいきとセカンドキャリアを歩んでいます。健康寿命も延伸していることから、今後この雇用区分で活躍する人が増えてくることが予想されます。
――これから残業時間の削減や有給休暇の取得率向上などに取り組もうとしている企業にとって、非常に参考になる取り組みでした。本日はありがとうございました。
(山本 剛資)
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