(一社)日本能率協会主催の「第5回国際ドローン展」が18日、千葉県千葉市の幕張メッセで開催され、物流・建設・農林水産などの産業分野で活用されるドローン(無人航空機)の本体や最新技術、応用事例などが紹介された。
特別講演では、日本郵便オペレーション改革部専門役の上田貴之氏が登壇し、昨年11月に国内で初めて実施した、ドローンを活用した郵便局間輸送(補助なし目視外飛行)実験について説明。実験の概要や実施時に直面した課題などについて話した。
ドローン・配送ロボットなどの実用化を目指す日本郵便
日本郵便(株)では現在、郵便局約2万4000局、郵便ポスト約18万本を有し、1日平均で約3000万箇所、約6100万通の配達を行っている。今後40年間で生産年齢人口が約3000万人(38%)減少すると言われる中、現在の拠点数やサービス内容を維持するには、業務の省人化・効率化が不可避となっており、ドローンや配送ロボット、自動運転などの新技術の導入・実用化を検討している。
日本郵便の上田氏がドローンでの郵便局間輸送について講演
同社がドローン事業に着手したのは、2015年に日本の無人航空機の産業発展を目的とする「日本UAS産業振興協議会(JUIDA)」の研究会への参加がきっかけ。その頃から日本国内での産官学連携によるドローンの推進が急速に発展している。
しかし、当初検討・実施されていたドローン配送は、安全面への考慮から、補助者を配置してドローンの監視や第三者の立ち入りがないことなどを監視する「補助者有」が前提だった。そのような中、同社は首尾一貫して「補助者有の飛行では人件費を要し、生産性向上には結びつかない」と主張し続けたという。
ドローンを活用した物流構想が一気に加速
補助者無しの目視外飛行の実施については、国土交通省主体で行われた「物流分科会」で、有人機団体側との議論が繰り広げられたのを機に、大きく前進することになる。同分科会では最終的に「無人航空機による荷物配送を行う際の自主ガイドライン」をとりまとめ、「レベル1:操縦」「レベル2:自律飛行」の目視内飛行から、「レベル3:無人地帯での目視外飛行(補助者なし)」「レベル4:有人地帯での目視外飛行」へと段階的に実現する、「空の産業革命に向けたロードマップ2018」の作成にこぎ着けた。
また同社では、物流分科会への参加、国交省航空局・総務省との調整を行う傍ら、ドローン飛行や無線連絡等に関する資格の取得、実験候補地の選定など、実験に向けた準備を着々と整えた。
ドローンが飛行する際の立入管理区間の設定や、住民の安全へ配慮は最も大きな課題となったが、住民への周知に同社の配達地域指定郵便物サービス「タウンメール」を活用するなどして、地元住民(福島県南相馬市および双葉郡浪江町)の協力と理解を得ている。そして、18年10月に航空局の承認を経て、日本初の補助者無し目視外飛行に臨んだ。
日本郵便が飛行実験に使った『ACSL-PF1』
(自律制御システム研究所)
レベル3の飛行実験に無事成功
飛行経路は、福島県南相馬市小高郵便局~双葉郡浪江町浪江郵便局までの約9km。使用機材は(株)自律制御システム研究所製の『ACSL-PF1』。離着陸用に、郵便局屋上にドローン用のヘリポートを設置した。また、「補助者なし」を実現するために、随時飛行状況を画像で送信(周波数:5.7GH)しなければならなかったことから、バルーンを山間の飛行上空に飛ばし、それを中継アンテナとして使用している。
実験時の飛行ルート
住民の理解を得るポイントは機体のデザイン?
上田氏はセミナーの最後に、ドローンを活用した補助なし目視外飛行の普及に向けての課題として、次の項目を挙げている。
- 社会的受容性の向上(住民をはじめとした国民の理解)
- 周辺との問題(プライバシー・騒音問題・安全管理などの課題の解決)
- 機体性能等の向上(長距離飛行・最大積載量の向上/ピンポイントの着陸)
- 電波環境の改善・対策(LTEなどの商業通信網の活用)
- 運航・電波調整(エリア包括飛行申請の実現
中でも地域住民の理解を得ることは最も重要で、安全性の向上はもちろんのこと、ドローンや無人配送ロボットなどの使用機材にデザイン性を持たせるなどして、“住民に愛される存在になる”工夫も必要だとしている。実際に南相馬市で行った配送ロボットを使った物流実証実験では、ZMPの「CarriRo Delivery(キャリロデリバリー)」を採用したところ、住民から好評を得たという。
ZMPの配送ロボット「CarriRo Delivery」
その後、同社では19年3月11日に、NTTドコモのLTEネットワークを活用した飛行実験(携帯電話を搭載した長距離目視外自律飛行)にも成功。実用化に向けた実証実験を継続している。
農業用ドローンの物流転用に期待
国際ドローン展は、建設/農業/物流/点検/災害などの分野で実用化が進むドローン(無人航空機)にスポットを当て、ドローンの開発・製造・操作技術などの最新テクノロジーを紹介する専門展示会。今回はドローンの実用化が進む農業・建設分野の機体・ソリューションの展示が大半を占め、特に農業(農薬散布)用途の大型ドローンの展示が目立った。農業用ドローンは、航続距離・最大積載量(ペイロード)といった性能が充実していることから、物流分野への転用が期待されている。
主な展示物
追従運搬ロボットの「THOUZER」の展示も
また、併催の「交通インフラWEEK2019」では、物流・ロジスティクス分野の出展として、装置架台や作業台を販売するSUS(株)が、(株)Doogの追従運搬ロボットの「THOUZER(サウザー)」のデモンストレーションを行った。
人を追尾する走行やラインに沿った無人走行が可能な「THOUZER」
(富永みくに)
■「無人航空機の目視外及び第三者上空等での飛行に関する検討会」国交省・物流分科会
■「日本郵便株式会社による目視外補助者無し飛行について」(国交省)
■自律制御システム研究所
■CarriRo Delivery(ZMP)
■THOUZER(Doog)
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