毎年3月は年度内での業務消化のためか、行政による景品表示法の措置命令や特定商取引法の業務停止命令が乱発される傾向にある。今年は新型コロナウイルス影響下にも関わらず、例年にもれず消費者庁や都道府県・公正取引委員会などからの措置命令・行政処分が相次いだ。そんな中、埼玉県がEC・通販企業に景表法と特商法による”W命令”を出した。景品表示法と特定商取引法が改正されて以降、2つの法律に基づく命令がEC・通販企業に同時に出されるのは初とみられる。
表示と定期購入規制でW命令
埼玉県は3月31日・4月1日にかけ、健康食品の通販会社に対し景表法に基づく措置命令と特商法に基づく3カ月間の業務停止命令、同社社長に対して3カ月間の業務禁止命令を行った。
景表法での措置命令では、ECサイト上に記載された「1日あたり17円」という表示について「初回購入価格の場合のみ適用となる金額である」とし「有利誤認」の違反を認定。アフィリエイトサイトにおいて「商品の摂取だけで痩身効果が得られるかのような表示」をしていたとし「食事制限や運動も必要となるにもかかわらず、商品の摂取だけで痩身効果が得られる可能ような表示」と判断。「優良誤認」の違反を認定した。
特商法では「誇大広告」「顧客の意に反して売買契約の申し込みをさせようとする行為」の2つを違反行為として認定した。誇大広告については景表法と同様「あたかも、本件商品を摂取するだけで、容易に痩身効果が得られるかのような表示」を根拠なく表示しているとして、違反を認定。いわゆる定期購入規制である後者については、申し込み完了ボタンを「お申し込み内容を確認する」という文字列で表示していたことを問題視。加えて定期購入における総額と支払い時期の表示をしていなかったという。
W命令の背景…埼玉は所管部署1つ
今回のケースでEC・通販事業者にとって気がかりなのは「W命令」が起こりうるということ、そして特商法の行政処分を都道府県が執行した際の効力の範囲だろう。
これまで消費者庁から「W命令」が起きにくかったのは、景表法と特商法を所管する課が分かれていることが理由の1つとして考えられる。消費者庁では景表法は表示対策課が所管、特商法を取引対策課が所管している。同一の庁内とはいえ部署も担当官も別れるため、一体的な運用は難しいとみられる。
一方で、今回の埼玉県のケースでは、景表法と特商法を所管する部署が同一なのだ。県民生活部の消費生活課が景表法も特商法もみている。さらに今回の件については担当者も同一だったようだ。同課の事業指導担当によると「景表法と特商法でそれぞれ命令を出したのは、そもそも法律の目的が異なっており、命令内容の目的も異なっているから。表示に対する是正を景表法をもって措置命令し、定期購入に関する違反についてを特商法で行政処分した」ということだ。
景表法や特商法の命令権限を都道府県はそれぞれ与えられているが、消費者庁とは状況が違い同一の部署が所管するケースが多い。今回のように1つの事業者に対して認定した違反への執行を、目的に応じて法律を使い分けてくるケースは増えるかもしれない。となると今後、都道府県による「W命令」が乱発される恐れもありそうだ。大阪府では3月18日に、訪問販売事業者に対する景表法・特商法の「W命令」を行っている。
とはいえW命令は厳しすぎるのではないかと感じるが、前述の埼玉県の担当者は「特商法の業務停止命令と業務禁止命令は最大24カ月間を命じることができる。それを踏まえると今回は一番期間の短い3カ月間の命令としている。厳しいと言うことはないのではないか」との見方を示した。
業務停止範囲は「埼玉県域/県民」のみ
特商法については消費者庁ではなく都道府県からの行政処分は意味合いが違うことも留意すべきポイントだ。都道府県による行政処分は都道府県知事の名義によって発動される。つまり、処分の効力は「その都道府県の地域内」や「その都道府県民」に限定される。特商法の範囲内で別の例を考えてみると、訪問販売の場合は埼玉県に業務停止命令を受けた場合、埼玉県内での勧誘活動のみが停止命令の範囲となるのだ。
EC・通販は広域で今回の処分を担当した埼玉県の県民生活部消費生活課・事業者指導担当によると「通販も訪販と同様、都道府県による命令の効力は県内または県民まで」という。今回のケースで言うと停止命令となっているのは「通信販売に係る広告、申込みを受けること及び契約の締結」。例えば、北海道で「通信販売に係る広告」をすることや、東京都民から申し込みを受けることは違反行為にはならない。
では北海道の地元紙に掲載された通販広告を埼玉県民が見た場合は違反にあたるのか。前述の埼玉県の担当者によると、「その場合は、そもそも埼玉県で発行されておらず埼玉県民への広告が目的ではないので停止命令違反とはならない」との見解を示した。
要注意!商品ページも「広告」
ただ都道府県による業務停止命令は法律上の「広告」の扱いが非常に厄介となる。ここでいう「広告」はEC・通販業界関係者が一般的に想像する「ウェブ媒体や紙媒体に広告費を支払い掲載するもの」だけではなく「広く告げるもの」はすべて「広告」とみなされる。つまりECサイト上の商品ページも「広告」となるのだ。都道府県からEC・通販事業者が業務停止命令を受けた場合、停止命令期間中はその都道府県で商品ページが表示できては違反となってしまうのだ。
通販法務に詳しいある弁護士は「都道府県による停止命令範囲は限定的とはいえ、ECがこれだけ一般化している中で広告のエリア制限をしての事業継続は現実的には難しいのではないか。事実上、全国で効力が範囲がおよぶ消費者庁からの停止命令と同等のインパクトだろう」と指摘する。
なお停止命令違反が認定された場合は刑事罰が科されることになる。特定商取引法第70条及び第74条の規定により、当該事業者が3億円以下の罰金に、違反行為者が3年以下の懲役又は300万円以下の罰金の刑に処せられ、又はこれを併科されることがある。
調査の端緒に「高校生向けの出前講座」
また今回の件は調査の端緒が極めて特徴的だといえそうだ。
埼玉県の担当者によると「県では高校生向けに景表法や特商法に関する出前講座を実施している。出前講座では座学の内容を踏まえて、気になる広告を見つけたら報告するというレポートの提出をしてもらっているのだが、今回の命令対象となった事業会社さんの広告の報告が多かった。県の消費生活相談も寄せられていたことから調査に踏み切った」のだと言う。
自治体ではアルバイトなどを雇い、違反広告の監視を行うといったことは珍しくない。ただ、高校生向けの出前講座の一貫で高校生に目を光らせ報告させ、執行に結びついたと言うのは極めて特異なケースだろう。こうした出前講座を開催している自治体は少なくないはずであり、こうした端緒による調査も増えるかもしれない。
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