「2024年問題」に向き合い始めた配送業界は、配送能力低下や人手不足、CO2対応など深刻な課題に直面している。解決に向け、企業の枠を超えた施策として業界内で進められているのが「共同配送」だ。ヤマト運輸や佐川急便、日本郵便など大手配送会社が主導し、少しずつではあるが仕組みを整えつつある。
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ヤマト運輸が新たにプラットフォーム構築
ヤマトホールディングス(以下ヤマト運輸)は2024年5月21日、共同配送のシステム基盤を提供する新会社Sustainable Shared Transport(以下「SST」)の設立を発表した。荷主企業と物流事業者のニーズをつなぐ「共同輸配送」のプラットフォームを提供することで、物流効率化を目指す。システムは富士通と共同で構築し、24年冬頃の事業開始を予定している。
自社の配送網を他社に提供する事例はこれまでもあったが、業種・業界ごとにシステムや規格、商慣習などが異なるため、一部企業による取り組みでは難しかった。今回のように多様な関連企業が参画できる「共同輸配送」の基盤システムを構築することで、企業間の垣根を超えたマッチングが可能になるという。
SSTはグループが宅急便で培った約160万社の法人顧客をはじめ、4,000社以上の物流事業者とのパートナーシップ、輸配送ネットワーク・オペレーション構築のノウハウを活用。具体的には、地域の複数の物流網を集約する共同輸配送や、高積載トラックによる高積載運行、ドライバー負担軽減につながる中継拠点を介した輸送などを行う。
24年度は東京・名古屋・大阪間で1日40線便の運行を計画しており、25年度末には1日80線便へと拡大。ドライバーなどの労働環境や処遇の改善を進め、25年度末に省人化率65.1%を目指す。
新会社が目指すスキーム(出典:ヤマト運輸)
配送網安定化を目指し山間部や人口減少地域で
生活インフラ維持や持続可能な配送網構築、CO2削減を目指し、山間地域などで共同配送に着手する動きもある。
ヤマト運輸は地図情報などを提供するゼンリンと組み、24年6月から埼玉県秩父市で共同配送「おむす便」の実運用を開始した。複数の物流事業者の荷物を地域の配送事業者がまとめて配送するもので、両社が協力し合い「共同配送システム」を開発。ヤマト運輸、西濃運輸、福山通運の3社の荷物を集約し、地域の事業者が個人宅まで届ける。
ヤマト運輸とゼンリンは22年9月から山間地域における「共同配送」のプレサービスを実施。物流事業者によって配送管理システムが異なることや、地元事業者の業務負担が増すことなどの課題を洗い出し、各社の荷物の配送状況を一括管理できる新たな「共同配送システム」を構築した。
「共同配送システム」を構築して運用(出典:ゼンリン)
また、これに先駆け23年3月には、宮城県と山形県の一部人口減少地域で、佐川急便が全国で集荷した荷物を日本郵便が配達する共同配送の期間限定トライアルを実施している。佐川急便はトライアル地域あての荷物を、宮城県と山形県の自社営業所から日本郵便の各地域郵便局まで輸送。差し出しされた荷物を郵便局がゆうパックとして引き受けて配送先に届ける。
トライアルを通じて検討課題を洗い出し、両社の限られた人的資源や配達資源を最大限活用することで、人口減少地域における安定した配送網の確保につなげる考えだ。
生活インフラの維持に加え、環境配慮の観点から共同配送に踏み切った事例もある。ヤマト運輸と佐川急便はすでに20年4月から、環境配慮の先進地域として知られる長野県上高地で共同配送に着手。上高地はマイカー規制があるものの、トラック配送によるCO2の排出が大きな課題だったという。同事業は地域の課題解決に向けた長野県初の「物流総合効率化法認定事業」となる。
スキームでは、佐川急便の松本営業所が対象地域への荷物をヤマト運輸松本今井センターへ引き渡し、ヤマト運輸が両社の荷物を集約して個別配送。集荷についてもヤマト運輸が集約して行い、その後佐川急便が松本今井センターに赴いて回収する。走行距離、積載重量から試算したCO2排出削減量は年間で32.8t、削減率は34%となる。
「幹線輸送」でトラック稼働を効率化
配送を手がけるセイノーグループと日本郵便グループは24年5月、「幹線(長距離)輸送」の共同運行に乗り出すと発表した。同年2月から一部区間でトライアルに取り組んでいたが、業務提携を結び本格稼働する。
1台のトラックが同じ地域にある2社の拠点に立ち寄って荷物を積み、混載した形の幹線輸送によってそれぞれの到着拠点まで配送。そこから先の近距離輸送については、従来通り各社が担う。時間がかかる長距離路線だけを共同配送することで、人手不足の解消や配送の効率化を図る。
日本郵便と佐川急便も2021年9月に締結した協業に関する取り組みで、22年3月から「幹線輸送」の共同運行を始めている。「東京~郡山」と「東京~九州」の拠点間における共同配送を手がけており、低積載率のトラックを1台にまとめて運用し効率化を図る。
基本的な荷物の積み込みフローが違うなど当初は課題もあったものの、低積載の便を確実に減らすことができたという。
鉄道を利用した共同配送や「貨客混載」も
鉄道車両と郵便配送車を組み合わせた共同配送を計画しているのが、日本郵政と日本郵便、 東日本旅客鉄道(JR東日本)だ。3社は24年2月に「社会課題の解決」に向けた連携協定を結び、「持続可能な物流の実現」を連携施策における柱の1つとして位置付けた。
今後は鉄道車両と郵便配送車を使った共同配送の実証実験など、輸送の省力化や環境負荷の低減を目指した検討を行う。車に比べてCO2排出量が格段に少ない鉄道車両と小回りが利く郵便車両を使い分けて配送することで、環境と物流という両課題の解決につなげる。
さらに将来的には、JR東日本の路線における「貨客混載」といった新しい物流スキームを構築する計画。近年は鉄道車両の空きスペースを利用して生産地から生鮮食品などを運ぶ貨客混載が注目されているが、郵便車両の活用によりラストワンマイル配送もクリアできれば、ECでの利便性も高まる。
鉄道車両と郵便配送車を組み合わせた共同配送イメージ(出典:JR東日本)
鉄道と配送車両の貨客混載による共同配送については、すでに21年から佐川急便が西日本旅客鉄道(JR西日本)や九州旅客鉄道(JR九州)との協業で事業化。鉄道特有の定時性や速達性の高さを生かし、新しい価値の創出を目指すとしている。
福山通運も近畿日本鉄道と共に、21年から貨客混載事業に着手。名古屋~大阪間の名阪特急「アーバンライナー」に荷物を積み運ぶことで、同区間での当日配送が可能となった。
ファミリーマートとローソンも冷凍食品で参入
物流の「2024年問題」を受け共同配送に乗り出したのは、配送業界だけではない。ファミリーマートとローソンも24年4月、両社の冷凍商品を1台のトラックに混載して運ぶ共同配送を開始した。これまでも北海道などで共同配送の実証実験に参加してきたが、両社が本格的に実施するのは初めてとなる。
対象は東北地方の一部地域で、物量が比較的安定する4月~6月と9月~11月の期間中、輸送車両にスペースが発生した場合に行う。共同配送1回当たりでおよそ56㎏のCO2排出量を削減でき、走行距離では2社合わせて約120㎞の削減効果があるという。今後は他エリアへの拡大も視野に入れている。
まとめ
これら各社の共同配送への取り組みから見えてきたのは、競合する企業同士が垣根を超えて「共創」を目指すという共通認識だ。山積みの物流課題を解決するためには、もはや自社だけの利益を追求している場合ではないというスタンスが明確化しつつある。
ただ、共同配送を効率的に回していくには、できるだけ多くの関連企業がその仕組みに参加しないと意味がない。通販・EC業界においてはずっと以前から共同配送の重要性が指摘されてきたが、実現には程遠かった。「2024年問題」に直面している今こそ、関連業界を挙げて向き合い、改革していく必要がある。
執筆者/渡辺友絵
<記者プロフィール>
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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