「ZOZOTOWN」を展開するZOZOは、2024年3月期も増収増益で成長を続けている。AIを使ったコーディネトアプリやAR(拡張現実)によるお試しメイク、リアル店舗でのスタイリング接客などを通じ、パーソナルコーディネート提案を進化させている。販売の上流に当たるこれらインフラの強化により顧客接点を拡大し、シェア拡大や新規カテゴリーへの参入を狙う。
2024年3月期は過去最高実績を更新
ZOZOの2024年3月期は、商品取扱高・営業利益ともに過去最高実績を更新した。商品取扱高が前期比5.5%増の5,743億円、営業利益が同6.5%増の600億円となった。
厳しい気候条件が続いた影響で「ZOZOTOWN」事業は計画が未達だったが、「Yahoo!ショッピング」が計画を大きく上回ったことが増収に貢献。増益については、出荷単価の上昇に伴う配送費用のコスト低減が寄与した。当期のアクティブ会員数は約1,079万人、ゲスト購入者を加えた年間購入者数は1,168万人となる。
こういった成長の背景にはさまざまな要因があるが、カギとなるのはかねてより同社が重視している顧客一人ひとりに向けたパーソナルな提案だ。体型を測る「ゾゾスーツ」や足を計測する「ゾゾフィット」など、ここ数年間パーソナルにこだわってきたが、中でも前期から今期にかけてはファッションやコスメのパーソナルコーディネート提案を強化している。
スタイリング体験店舗「似合うラボ」でデータ収集
パーソナルコーディネートを進めるための拠点となったのが、同社初のリアル店舗として22年12月に都内の表参道にオープンしたパーソナルスタイリング体験施設「似合うラボ」だ。「ワクワクできる『似合う』を届ける」というZOZOの経営戦略に基づき、ユーザーが自分に似合う服を見つけられる完全予約制の無料体験サービス店舗としてオープンした。
「似合うラボ」では自社で独自開発したAIとプロのスタイリストの知見をかけ合わせ、抽選で選ばれたユーザーに対し、2時間以上貸切で「『似合う』を見つける」パーソナルコーディネートサービスを提供する。24年5月時点での累計応募者は約11万人、平均応募倍率は100倍以上と、開始後1年以上経っても希望者は途切れない。その4分の1が「ZOZOTOWN」新規会員やしばらく利用していなかった休眠会員であり、会員の獲得・掘り起こしやサイトへの誘導にもつながっている。
累計で約1,000人となった体験者へのアンケートによれば、「体験の満足度」が10点満点で平均9.2点となり、96.6%が「似合うが見つかった」と回答。体験後1か月間における利用者の「ZOZOTOWN」への訪問頻度は約1.5倍となり、購入金額は約2倍に増加した。
これらの結果から、ファッションの好みや悩みを踏まえた「似合う」を可視化することへの顧客ニーズは非常に高いと判断。さらに、「似合う」を追求するパーソナルコーディネートが自社ビジネスのさらなる成長のカギになると確信したという。
完全予約制の「似合うラボ」(出典:ZOZO)
AI活用で「WEAR」の機能が進化
「似合う」を追求する同社がパーソナルコーディネートの強力な武器として進化させたのが、リリース10周年を迎え、ダウンロード数が1,700万超となるファッションコーディネートアプリ「WEAR」だ。同社のショップスタッフや一般ユーザーによる1,400万件以上のコーディネート画像が投稿されており、最新トレンドファッションを学べる最強アプリとして人気を誇る。
2024年5月には、その「WEAR」に新たな機能やコンテンツを導入してリニューアル。AIを活用し、ユーザーの「好みのファッションジャンル傾向」がわかる診断機能を新たに搭載した。
新機能は「似合うラボ」で集めた分析データや知見をもとに構築しており、ユーザーの好みに近いコーディネート検索や、ジャンルを組み合わせた絞り込み検索が可能になった。全144パターンで診断される「好みのジャンル傾向」は、積み上げた「似合うラボ」の知見データから導き出したファッションジャンルで構成されている。
さらに、ホーム画面についても診断結果や閲覧履歴に沿ってパーソナライズされ、ファッションに特化したAIがユーザーの求めに応じて希望に近いコーディネートを提案。それぞれのユーザーに合ったパーソナライズ化が可能になった。
知見をもとにAIがコーディネート提案(出典:ZOZO)
ARを導入した新サービス「お試しメイク」
リニューアルした「WEAR」ではさらにメイクもファッションの一部として、ARを使った提案を始めた。ユーザーはまず自身のフルメイク写真を、データとして「WEAR」に投稿・登録。その後、新たに導入された「WEARお試しメイク」機能を使い、インフルエンサーなどが登録したフルメイクデータをARで自分の顔に乗せて試せる。
現在はインフルエンサー80人を含む約500種類のフルメイクをARで試すことが可能で、順次データを追加する。投稿者は使用したコスメ商品をタグ付けできるため、「ZOZOTOWN」やコスメ専門モール「ZOZOCOSME」で扱っている商品をメイク投稿画面からスムーズに購入することができる。
「ZOZOCOSME」は21年3月、「ZOZOTOWN」上にオープン。現在、700以上のブランドによるコスメ商品を取り揃えている。オープンと同時に、肌の計測ツール「ゾゾグラス」を希望者に無料で提供。どのファンデーションが自分の肌にマッチしているのかパーソナルなデータを計測できるため、下地の色選びに関する不安や悩みを解消できるとしている。
サイトの大きな特徴は商品の探しやすさにこだわった仕組みで、肌の悩みやテクスチャによる商品絞り込みなどコスメに特化したパーソナルな検索機能を搭載。商品ごとのカラー展開がひと目でわかる表示など、細かい「こだわり検索」機能に注力しながら順次アップデートしてきた。
「ZOZOCOSME」については「ZOZOTOWN」からの流入が目立ち、「ZOZOTOWN」のアクティブ会員がコスメ購買者である割合は23.6%と約四分の一を占める。「ZOZOCOSME」の前期取扱高は113億円で、今期は130億円を目指す。
販売員向けツール「FAANS」も貢献
「似合うラボ」のサービスや「WEAR」リニューアルは、それら単体で収益を生むことよりも、「ファッションの上流を押さえるために重要な役割を果たす」との狙いに基づく。中長期視点において、ファッションの上流でいかに顧客接点を増やすかという目的のための取り組みといえる。
「似合うラボ」や「WEAR」という上流を押さえるインフラが整いつつある中で、裏方として存在感を発揮しているのがショップスタッフの販売サポートツール「FAANS」だ。スタッフがコーディネート画像を投稿する機能をはじめ、出店ブランドの店舗在庫確認や商品取り置き機能を搭載する。
スタッフは「WEAR」や「ZOZOTOWN」など複数チャネルへの同時投稿が可能で、ユーザーは商品の着こなしやコーディネート、ブランドの世界観を閲覧できる。投稿を通じてスタッフとユーザーの間につながりが生まれ、充実した購買体験提供やエンゲージメント向上につながるという。「FAANS」を導入したブランドの中には、「ZOZOTOWN」での月間売上のうち約5割が投稿コーディネート経由の売上だった実績もある。
まとめ
今後の中長期目標では、10代後半など幅広い層の取り込みや顧客単価アップにより流通金額を8,000億円まで伸ばし、アクティブ会員数を1,500万人まで広げる。引き続きファッションやコスメのテクノロジー機能を進化させ、上流を押さえるインフラ整備に注力する。
中長期では8,000億円の流通金額を目指す(出典:ZOZO)
さらに、現時点でファッションとコスメに続く「次なるカテゴリー」をすでに選定済みで、準備も進行中という。ローンチ時期は未定で今期は準備期間となるが、「似合う」「パーソナル」「コーディネート」を軸とした次なる挑戦分野は何か、期待が膨らむ。
執筆者/渡辺友絵
<記者プロフィール>
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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