ヤマト運輸(以下ヤマト)が中小ECサイトやフリマサイトに向け、商品の円滑な配送や購入者の利便性向上につながる取り組みを強化している。小サイズ商品の配送手段や受け取り場所の選択肢を増やすなど、新たなサービスを導入。一方で物流量の拡大を踏まえ、日本郵便との協業により業務効率化と採算性アップにも本腰を入れる。
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中小EC事業者やフリマサイトの要望で開発
小サイズ荷物の発送について、新たな選択肢に加えたのが「こねこ便420」だ。2024年8月からの新サービスで、事前に購入した送料込みの専用資材を使い、A4サイズ相当・厚さ3㎝以内の荷物を全国一律420円で送ることができる。書籍・雑誌、CD・DVD、化粧品、衣類など小サイズの荷物が対象で、最短翌日には郵便受けに届く。
法人・個人とも利用でき、配送状況を確認できるうえ上限3,000円の補償も付帯。発送はヤマト運輸営業所への持ち込みかドライバーによる集荷となる。東京都を皮切りに専用資材の販売を開始し、順次全国で販売を開始する予定だ。
これまでも中小EC事業者やフリマサイト出品者からのニーズに応え、「宅急便コンパクト」や「クロネコゆうパケット」など小サイズ商品の配送サービスを提供。ただ、「サイズや宛先が決まるまで料金が不明」「荷物発送時の支払いが面倒」との声も多かったことから、全国一律料金のうえ資材の事前購入で完結するサービスを新たに導入したという。
全国一律420円で送れる「こねこ便420」の専用資材(出典:ヤマト運輸)
「置き配」での受け取りも可能に
24年6月には、「宅急便」と「宅急便コンパクト」の受け取り場所の選択肢に「置き配」を追加した。5,600万人以上が登録する個人向け会員サービス「クロネコメンバーズ」の会員に向けたもので、荷物を受け取る人の選択肢を広げ利便性を高める。
フリマサイトなどで荷物を発送する場合、「クロネコメンバーズ」会員であれば送り状情報を手書きせずスマホで入力するだけで荷物を送れ、集荷依頼や支払い、受け取り確認までスマホのみで発送業務が完結。フリマサイト専用の配送サービス以外であれば、メンバーズ割引も適用できる。そのためフリマサイト出品者の多くが「クロネコメンバーズ」会員になっているが、「置き配」の導入で出品者のメリットもさらに高まる。
これまでも多様な受け取りニーズに対応するため、ヤマト営業所やコンビニ、オープン型宅配便ロッカー「PUDOステーション」など、「クロネコメンバーズ」会員が自宅外で受け取れる場所を拡大。さらに自宅における「置き配」への対応策として、ヤマトと契約したEC事業者向けの配送サービス「EAZY」も手がけてきた。昨今の「置き配」の広がりも踏まえ、「EASY」にとどまらず、「宅急便」と「宅急便コンパクト」の受け取り方法にも「置き配」を追加したという。
「クロネコメンバーズ」会員向けに「置き配」を導入(出典:ヤマト運輸)
「Shopify」と連携し新サービス
多くの中小EC事業者が利用するECプラットフォーム「Shopify」とも24年3月に連携し、新サービスの提供を始めた。「Shopify」を使っているEC事業者向けに、「購入時における最短届け予定日の自動表示」や「指定の場所・タイミングでの荷物受け取り」といったサービスを提供する。
購入者がECサイト上で届け先の郵便番号を入力すると、ヤマトが開発したアプリが立ち上がり配達可能な最短届け日を自動表示する。さらに、商品の受け取りに自宅以外の場所が選べるヤマト運輸のAPIと「Shopify」の配送アプリを連携。ヤマト営業所やコンビニ、オープン型宅配便ロッカーなどで都合のよい時間に商品を受け取れるようになった。
EC事業者が顧客の利便性向上に向けた機能やサービスを導入するには、自社でシステム開発を行う必要があり、特に中小規模のEC事業者にとっては導入のハードルが高い。ヤマトは今後も「Shopify」などを利用する中小EC事業者に向け、業務効率化や購入者の利便性向上に寄与するサービス提供していく。
ノンコア領域事業を日本郵便に委託
ヤマトは中小EC事業者やフリマサイト出品者へのサービスを手厚くする一方で、日本郵便との協業を通じて業務効率化や採算性向上に着手している。25年3月期~27年3月期の中期経営計画では、ネットワーク・オペレーション構造改革としてノンコア領域の「投函サービス」を日本郵便に委託し、「リソースの再配置」を強化するとしている。
ヤマトにとってメール便などの単価は低いうえ、仕分けや配送委託先が宅配便と統一しづらく、採算性も見込めにくい「ノンコア事業」だった。手間がかかるポスト投函のダイレクトメールやフリマ商品の配送を切り離して日本郵便に委託し、EC市場で拡大が続く宅配便に軸足を置くことで、経営効率化と採算性アップを目指す考えだ。
23年6月には、日本郵便と「メール便領域」および「小型薄物荷物領域」で協業すると発表。「クロネコDM便」のサービスを終了させ、日本郵便が扱う「ゆうメール」を活用した新サービス「クロネコゆうメール」を24年2月から全国で始めた。
既存の「ネコポス」も23年10月から順次終了し、日本郵便を通じた「クロネコゆうパケット」としてサービスを開始している。24年8月時点での未着手県は東京、神奈川、埼玉、沖縄のみとなった。掛売りの法人契約が必要だが、ヤマトと契約するフリマサイトやオークションサイトについては今後利用可能となる予定としている。
「クロネコゆうメール」「クロネコゆうパケット」ともヤマトが集荷した荷物を日本郵便の引受地域区分局に差し出し、日本郵便が既存配送網にて届け先の郵便受けなどに投函する。日本郵便は小回りが利く配送網が整っていて転居対応に強く、到達率も高いため、集荷業務に強みを持つヤマトとそれぞれ得意分野を担うことになる。トラックドライバー不足やCO2削減など、物流の「2024年問題」解決につながる効率的な取り組みといえよう。
「投函サービス」事業で日本郵便との協業を開始した(出典:ヤマト運輸)
「投函サービス」は大幅減少を予想
25年3月期の連結業績予想では増収増益を予想し、中でも「宅急便」「宅急便コンパクト」「EAZY」という主力の「宅配便3商品」の収入増を目指している。
「宅配便3商品」の取扱個数を前期に比べ約1億1,982万個増やす一方で、「クロネコゆうパケット」は約4,675万個減、「クロネコゆうメール」は約4億9,985万冊減と、「投函サービス」の大幅な減少を見込む。増益見込要因については「業務量に連動したコストコントロール強化」を挙げており、「投函サービス」というコストと労力がかかるノンコア領域の規模縮小とリソースの再配置が見てとれる。
まとめ
「2024年問題」への対応や物流量の拡大により、ヤマトは長年競合関係にあった日本郵便と手を組むことを選択した。それぞれ自社が強みを発揮できる配送分野に労力やリソースを集中させ、効率化につなげていくことが、深刻な物流課題を乗り越えるカギといえそうだ。
その一方で、増え続ける中小EC事業者やフリマサイト出品者、さらにそれらの商品を受け取るユーザーに向けてのサービスにも手を抜くことはできない。自社の負担を最小限にとどめながら、いかに顧客への提供価値拡大と労力・コストのプライシング戦略を両立させていくか、物流業界の雄による取り組みを興味深く見守りたい。
執筆者/渡辺友絵
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<記者プロフィール>
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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