会員向け定期購読誌「ハルメク」の出版や通販事業、店舗など、シニア女性向け事業を展開するハルメクホールディングス(以下ハルメク)は、2023年3月の上場後も伸びが続く。新規顧客やアクティブ顧客が順調に増加し、インナーや靴など自社開発商品が大きく成長している。今期は50歳代の「プレシニア」をターゲットとしたデジタル事業や、中国進出に向けて先行投資を行う。
有料月刊会員誌「ハルメク」は47万部超を発行
ハルメクは50代以上の女性を対象に出版、通販、店舗、WEBコンテンツ、講座、イベントなどの各種事業を展開。主力事業の有料月刊会員誌「ハルメク」の販売部数は47万2,000部と、女性誌分野で2019年上期から9半期連続No.1を誇る。「ハルメク」に同梱している通販カタログ「ハルメク 健康と暮らし」と「ハルメク おしゃれ」を発行するほか、ECサイトも運営し、現在14店舗を全国の百貨店などに出店している。
暮らしに役立つコンテンツを揃えた会員制有料ウェブサービス「ハルメク365」も手がけ、専門家によるオンライン講座やテーマ設定した動画、テキスト記事といったコンテンツを提供。健康・観光・グルメイベントや旅行も手がけるなど、シニア女性に向けさまざまな企画をそろえて訴求する。
シニア女性向けにさまざまな情報を掲載(出典:ハルメク)
前期通期と今期1Qの売上収益は過去最高を更新
こういったコンテンツの拡充や、新聞、テレビを軸とした積極的な広告展開が功を奏し、新規顧客やアクティブ顧客の獲得は順調に増加。売り上げ拡大につながった。
東証グロース市場への上場後2期目となった24年3月期決算では、売上収益が前期比9.3%増の314億1,500万円と過去最高を達成。一方、広告効率低下や一時的なシステム除却損で営業利益は同57.7%減の8億5,700万円と大幅減だったが、次年度は前年同期比増を見込む。
このほど発表した25年3月期第1四半期決算によれば、売上収益は前年同期比13.2%増の93億2,000万円と第1四半期における過去最高を更新。広告効率が改善途上のため営業利益は同8.9%減の6億400万円だったが、カタログ配布手法等の見直しにより媒体費率は24年3月期に比べ改善した。
今第一四半期で 12ヶ月以内にサービスを利用したアクティブ顧客数は138万人(既存88万人、新規50万人)と、前年同期比10%増となった。課題は利益に直結するCPO(新規顧客獲得広告単価)だが、 TV広告などを活用したクロスマーケティングによる新たな新規顧客獲得手法に取り組み中という。
アクティブ顧客数は138万人と拡大(出典:ハルメク)
雑誌もウェブサービスも有料のサブスク
同社の強みは、なんといっても定期購読の有料会員誌という点だ。
「ハルメク」12冊分の年間購読料は7,800円(送料・税込)と、購読料だけでもかなり安定した事業収入となる。さらに購読料が1万8,900円(同)となる3年間・36冊分のコースもあり、1冊あたりの金額がお得になるためコアな会員はこちらを選んでいるようだ。
2022年に導入した、さまざまな特典を提供するウェブ版の「ハルメク365」も有料サービス。年額プランは「ハルメク365」単体が7,800円、「雑誌ハルメク」と「ハルメク365」のセットプランが9,780円となる。
定期購読というサブスクサービスで形成される盤石な会員基盤が他の事業にも大きく貢献し、業績底上げにつながっているといえよう。
約7割の商品が「D2C」モデルのPB
同社は会員誌やWEB、イベント、アンケートなどを通じて顧客とのつながりを深めており、リアルな声をもとに「D2C」モデルと銘打つ自社商品の開発に力を入れる。通販事業では、おせちや人参ジュース、インナー、靴などが売れ筋となっている。
05年~22年の間に累計約4,380万杯売り上げた人参ジュースをはじめ、23年12月末に約4万セット出荷したおせちは代表的なヒット商品。中でも2007年から顧客と一緒に開発しているおせちには注力しており、試食会を通じて参加者の声を反映し改善・進化につなげている。
顧客モニターに何度も履き試しをしてもらい開発した「ハルメクの靴」は、シリーズで累計5万足を突破。今第一四半期での売り上げは前年同期比17%増と増加した。シリーズで累計50万枚以上売れたノンワイヤーブラなどの「ハルメクインナー」も強化しており、売り上げは同25%増と成長している。
「ハルメクコスメ」も、ロングセラーのオールインワン「薬用美肌液」をはじめ、50歳以上の肌に向けた洗顔料や化粧水、クリームなどさまざまな商品を展開。新商品として、高濃度ビタミンⅭを配合した美容液を化粧品メーカーと共同開発している。
これらプライベートブランド商品は売り上げの約7割を占めており、今期は競争力が高い靴やインナー、コスメの展開を強化していく。
「ハルメクの靴」はシリーズ累計5万足を突破(出典:ハルメク)
デジタルをフックに50代のプレシニア層を開拓
定期購読誌という紙媒体を基盤に事業展開してきたものの、今期からはデジタルに軸足を置いた成長戦略を描く。現在のハルメクは65歳以上の「アナログ×アクティブシニア」がメインターゲットだが、より若い 50歳代の「プレシニア」を主たるターゲットに据える。「プレシニア」向けにデジタルのビジネスモデルを開発するとともに、これら事業に先行投資していく。
会員制情報サイト「ハルメク365」を基軸として、新たな成長エンジンを構築。「ハルメク365」から通販サイトに送客する仕組みを積極的に拡大する。従来の雑誌からカタログという紙媒体経由の入り口部分をDX化し、デジタルに切り替えていく計画だ。
具体的には、「プレシニア」向けの物販事業やコミュニティ事業に着手。「ハルメク365」を通じて50代向けのコンテンツ開発やユーザーエクスペリエンスの改善、SNSを活用した取り組みなどを進める。
すでに24年4月から「ハルメク365」のアップデートに着手しており、著名人を起用した新たな各種動画コンテンツを投入。これまで年額プランだけだった会員システムも見直し、月額プランを加えることで入会のハードルを下げた。初回30日間は無料で使えるお試し期間も設けるなど、新規会員獲得に向けて動き出している。
ただ、未だ大きな市場を形成する国内の「アナログ×アクティブシニア」層に占める同社のシェアは 、7%にとどまる。伸びしろが大きいこともあり、今後も安定収益ビジネスであるとの考えを継続。これらアナログ顧客層に対しても、イベントや講座、旅行といった繋がりの場を設けてファン化を目指す。物販事業については、70代顧客の支持は強いものの60代に響かなくなってきたため、年代別マーケティングに注力する。
大きな挑戦として見据えているのが、海外への進出だ。今期は、中国でデジタルマーケティング中心に物販ビジネスの準備を開始する。すでに数年前からアクティブシニアのニーズを探るためのマーケティング調査に着手するなど、先行投資を行っている。
まとめ
通販・EC企業にとって、年を追うごとに自社の商品やサービスと既存顧客の年齢が乖離し、顧客離れが起きることは避けられない。中でもターゲット層を明確に設定しているカタログが中心の企業にとっては重要課題であり、媒体にマッチしそうな見込み客の開拓には早期に手を打つ必要がある。成長が鈍化してからでは間に合わず、機を逸して沈んでしまった企業は多い。
現在成長段階にあるにもかかわらず、ハルメクがデジタルをフックにプレシニアの開拓に軸足を向けたことは、将来を十分に見越した戦略といえよう。
同社は20年に経営陣にてMBO(マネジメント・バイアウト)を実施し、親会社であるノーリツ鋼機グループから独立。急速に高齢化社会へと進む中で、成長をより加速するための機動的かつ柔軟な体制を整えたという経緯がある。
24年3月期資料では8年後の32年までの成長イメージを描いており、自らが掲げる「日本のNo.1シニアカンパニーブランド」への道を着々と歩んでいる。
執筆者/渡辺友絵
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