「優良誤認」「有利誤認」の違い
――EC事業者にとって重要な「景表法」の規制には「優良誤認」と「有利誤認」がありますが、2つの規制の違いの大枠について簡単に説明をお願いします。
高橋:はい、基本的な内容は下記のようになります。
「優良誤認」は事業者が供給する商品・サービスの「品質や規格」などにおいて、実際のものよりも著しく優良であると広告表示することで不当に一般消費者を誘引し、誤認を与えるものと定義。具体的には、カシミヤ混用率が 80%程度のセーターを「カシミヤ 100%」と偽った表示などが該当します。
また、優良誤認表示を効果的に規制するため、商品・サービスの「効能効果」に関する表示については期間を定め、事業者に表示の裏付けとなる合理的根拠を示す資料の提出を求めることもあります。資料が合理的根拠を示すものと認められない場合には、不当表示とみなされます。
「有利誤認」は事業者が供給する商品・サービスの「価格や取引条件」などにおいて、実際のものよりも著しく有利であると広告表示することで不当に一般消費者を誘引し、誤認を与えるものと定義。具体的には、あたかも競合他社より価格が安いように偽った表示などが該当します。セールなどで現在の安さを強調するために、過去に自社で販売していた高い価格を併せて記載する「二重価格」表示も、一定のルールを守っていない場合は「有利誤認」に該当します。
なお、「優良誤認」「有利誤認」とも、故意に偽って表示する場合だけでなく、誤って表示してしまった場合でも不当表示に該当する場合は景表法で規制されるので注意が必要です。
■「優良誤認とは」詳しくはこちら
■「有利誤認とは」詳しくはこちら
――後でお聞きする「薬機法」にも関係してきますが、不当表示に該当するNGワードをどう判断するかは難しくないでしょうか?
高橋:その表現はどこまでが「優良誤認」や「有利誤認」に抵触するのか、どういう言葉を使ってはいけないのか、とても微妙な部分があると思います。
「優良誤認」で例えば「アンチエイジング」という言葉であれば、消費者の9割が誇大広告にあたりそうだと感じても、1割は当たらないかもしれないと感じていると、調査などからわかっています。「優良誤認」は受け取る側の主観的な部分があって、どういったワードがNGなのか判断がしにくいケースも。さらに、NGワードを一つひとつ蓄積していっても法律も変わるため、都度アップデートをしていくのはかなり大変です。
「有利誤認」についてはもっと厄介で、違反が目立つ「二重価格表示」などはNGワードに入れにくい。弊社は蓄積したビッグデータをAIがチェックをしていますが、「有利誤認」はAIでは判断しにくく難しいのが課題です。よくあるのが、キャンペーン期間を過ぎてしまったにもかかわらず、ECサイトではキャンペーン価格で表示し続けているケースなど。こういったミスを防ぐには、広告表現を担う現場担当者が知識を蓄えるか、コンサルタントなどによる監修で対応するしかないと思います。
「ナンバーワン表示」「打消し表示」「アフィリエイト規制」が厳格化
――最近厳格化されている「ナンバーワン表示」「打消し表示」「アフィリエイト規制」について教えてください。
高橋:「ナンバーワン表示」は「業界No.1」「シェアNo.1」といった記載が有名ですが、問題となるのはNo.1表記を目的として恣意的にデータを作っていた場合。もちろん、客観的データがあれば「業界No.1」「シェアNo.1」の記載はできますが、No.1と記載したいがためにデータを作成したのであれば根拠とならないので注意が必要です。
あるEC事業者さんと打ち合せした際に、「『満足度何%』のナンバーワン表示だったらできるのですが」と言われました。ただ、今後は満足度というのも気をつけたほうがよいのではないかと思います。ナンバーワンを取るために母数を減らすなど、どうしても恣意的なデータを作ってしまいがちです。出所がきちんとわかるある程度多くのN(母体)があり、そのうえでデータをとった表示だったら問題ないですが、そうでなければ止めるべきです。
「打消し表示」は、例えば「私はこのサプリメントを飲んで5キロ痩せました!」のようなユーザーボイスの下に、「※あくまでも個人の感想です」などと書かれてあるものです。興味深いのは、行政から出されている資料の「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点」では、スマートフォン対応や動画広告についても触れているのです。
一昔前までネット広告は「ウェブ」というひとくくりで語られることが多かったのですが、昨今では動画広告が注目されるようになり、スマートフォンでの商品購入が急増しました。そのため具体的に留意事項が出されたわけで、スマートフォンや動画広告によるECの場合は、従来から留意事項に定められていた「強調表示と打消し表示の距離」「強調表示の文字と打消し表示の文字の大きさのバランス」などに加え、次のような項目が加わりました。
スマートフォンによるウェブ 広告であれば、「アコーディオンパネルに打消し表示が表示されているか」「コンバージョンボタンの配置箇所」などを追加。動画広告であれば、「打消し表示が含まれる画面の表示時間」「音声等による表示の方法」などとなります。特に動画の際にはテロップの監修だけでなく、セリフの監修も行うようにしてください。
新聞広告とかテレビ広告が中心だった時代はメディアの広告管理部などがチェックしていましたが、今はYouTubeやtiktok 、instagramといった媒体でインフルエンサーなどが自由に消費者を誘引しています。インフルエンサーといえどもほとんどの人は広告表現には素人なので、放っておくと無法地帯になりかねません。
言葉というものはテキスト化した上でチェックをしないとAIも判別できないので、字幕がなく音声だけならば音声を文字化しないといけない。そのため動画の音声を聞きながらのチェックが必要になりますが、時間がかかるうえ監修者が少ないので大変です。今は一般広告よりも動画の方がよく見られており、これから主戦場になるので、一層対応が重要になります。
■打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点
景表法ではアフィリエイト広告への規制も強まっています。消費者庁は、2021年にアフィリエイトにおける育毛剤商品の表示について優良誤認として措置命令を実施。2022年には「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」を改正し、アフィリエイト広告に関する記載を多数盛り込みました。
アフィリエイト広告を作ったのがアフィリエイターであっても、不当表示の責任は基本的に広告主です。今まではASP事業者(アプリケーションサービスプロバイダ)の自主的努力により、薬機法や景表法に抵触しそうなアフィリエイト広告については監修が行われてきました。ただ、ASPが社内で監修体制を作り事前チェックはしているものの、チェックするボリュームが多すぎて担当者の負荷がとても重い状況だそうです。解決していくためには、広告チェックツールの導入や監修体制強化など、デジタルと人との共同作業が求められます。
アフィリエイターに依頼する際に「効能効果は書かないで」と伝えてあるものの、実際には思うようにいかない。本当に一部なのですが、コンバージョンや成果報酬を増やしたい人がグレーなサイトを作って集客につなげるというケースも確かに存在しています。ただ、健全なアフィリエイトであれば、もっと広がってもよいのではないでしょうか。特にコスメやサプリメントを扱う企業にとってアフィリエイトは重要な施策なので、なくなってはいけないと思います。そのためには広告主だけではなく、ASPもアフィリエイターも法律を順守するという共通認識を確立することが大事です。
■事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針
新たに導入された「ステマ規制」
――昨年10月に「景表法」に導入された「ステルスマーケティング(ステマ)規制」について教えてください。
高橋:広告であるにもかかわらず広告であることを隠して商品やサービスを紹介する「ステルスマーケティング」について、消費者庁は厳正・迅速に対処するとしています。違反で罰則を受けるのは広告主ですが、ステマ規制を知らないインフルエンサーやアフィリエイターが広告表記をしなかったという事例も多く見られます。
事前防止するには広告主が配信前にインフルエンサーなどとしっかり打ち合わせをしたうえで、必ずPR表記を確約させることが大前提。どういうセリフを言うのかを確認し、誇大広告に当たるような効能効果は言わないように彼らを啓蒙していくことがとても重要です。
このステマ規制、不当表示に該当するかどうかは個別事案ごとに判断するとしてますが、すでに医療法人社団「祐真会」と大手ジム「RIZAP」の2社に措置命令が出されています。ウェブサイト上の口コミ投稿欄での表示や、インフルエンサーの投稿を自社サイトに転載した際の表示に「広告」「PR」の記載がなかったことが指摘されました。
■ステルスマーケティング規制
「薬機法」規制では効能効果に細心の注意を
――「薬機法」の規制について、「効能効果」と「体験談」に抵触しないための重要ポイントを教えてください。
高橋:体験談はなるべく書かないことをおすすめします。訴求力が落ちるようでしたら、効能効果をうたわないように「私は毎日使ってます」「持ち運びしやすい」など、使用感の体験談を利用者からもらうようにしてください。「肌がスベスベになった」というような「肌」に関する表現は、きちんと確認しないと難しいです。
「〇〇に効果がありました!」はもちろんのこと、使用感についても消費者からクレームを受けたという事例があります。最近は過敏な消費者が増えてきましたので、「あれ?この表現大丈夫?」と思ったら危険信号だと思いましょう。明示的・暗示的を問わず、「効能効果」になりそうでしたら必ずリライトや再検討をしてください。
そのほか、未だになくならないのが医師や理学療法士といった「白衣の人」による広告。見逃されている広告もありますが、これは本来完全にアウトです。このような権威の乱用やいいかげんなナンバーワン表示は、指摘を受けた際に売り上げが落ちてしまうのでかえってリスクだと思います。
では代替手段はないのかと言う方もいますが、答えは「商品力」を高めて勝負することです。ヒアルロン酸をたくさん入れて質が良い商品を作りそこを訴求すれば、信用力も高まりドクター推薦など不要になります。
訴求力を高めるという部分を、勘違いしてる方が多いと思うのですよ。その商品を開発した方は何かこだわりがあって世に出したわけで、そのこだわりを強く出せばよいかと。権威性やナンバーワンとか書かなくても企画力や商品力が優れていれば売れるので、商品力の強みや月間売り上げ何個とか事実を記載すればよいし、それが訴求軸になると思うのです。
薬機法の罰則が怖いのはいわゆる「何人規制」であるということ。広告主のみに課せられるのではなく、広告代理店担当者、メディア関係者、アフィリエイター、インフルエンサーなど広告に携わるすべての人たち、すなわち「何人」にも課せられるということです。自分は関係ないと思っていても、そうはいきません。
――「景表法」「薬機法」とも、EC事業者は広告表現の「グレーゾーン」で悩んでおり、結果的に「グレーゾーン」での摘発が目立ちます。どのように対応すべきかを教えてください。
高橋:確かに「グレーゾーン」についての問い合わせは極めて多いです。「どこまでうたえますか?ギリギリ表現はなんですか?」って。結論を言えば、グレーゾーンは攻めない方が賢明です。例えば「ほうれい線に効果的」を「ほうれい線にアプローチ」にすれば逃げられる、というよう監修をしていた時代もありましたが、今は危険です。化粧品の場合は広告で効能効果を表現できる「56項目」が決まっているので、下手にリライトせずにしっかりとそのまま書いてください。
最近は「幹細胞系」とか「再生医療」などの商品開発が注目されています。ただ、まだまだエビデンスが揃ってない分野なので、十分な注意が必要だと思います。
「課徴金」は大きなダメージ
――「景表法」「薬機法」には課徴金が導入されています。売り上げに対するそれぞれの料率など、ダメージの大きさを説明してください。
高橋:お答えしてきたようなことをきちんとやれば特に恐れることはなく、まっとうな商売をやってる企業は捕まっていません。
課徴金額の算定方法は、
ア 「課徴金対象期間」に取引をした
イ 「課徴金対象行為に係る商品又は役務」の
ウ 「政令で定める方法により算定した売上額」
に、3%を乗じて得た額です。
また、薬機法においての課徴金算定方法は原則、「違反を行っていた期間中における対象商品の売上額 ×4.5 %」となります。
いずれの場合も、算出ミスをなくすために弁護士に相談してください。課徴金命令を受けると、消費者庁のホームページに掲載されたりニュースになってしまったりすることで、会社のブランド力が大きく傷つきます。株価が下がるだけでなく、採用にまで影響を受けたと聞いています。
■景表法課徴金制度
■薬機法課徴金制度
――今年10月の「景表法改正」では、課徴金制度の増額や直罰規定が盛り込まれるなど厳格化されます。EC事業者が留意すべき改正ポイントを教えてください。
高橋:違反行為に対する抑止力の強化として、課徴金を計算するための情報がそろわず正確な数字が把握できない事業者に対し、売り上げを推計できる規定が整備されます。また、10年以内に違反行為を受けた事業者に対し、課徴金の額を1.5倍にする規定が新設されます。
さらに、今までは薬機法に限定されていた「直罰規定」が盛り込まれ、優良誤認表示・有利誤認表示に対し100万円以下の罰金が新設されます。
こういった厳格化への対応がポイントとなりますが、法律を順守していれば特に心配は要りません。
■景品表示法改正2024年
――NG広告を作成しないために日ごろから社内で心がけておくべき姿勢や対応策、ポイントを教えてください。
高橋:さまざまな法規制がありますが、正しくECサイトを運営している事業者なら怖がる必要はありません。昨年から相次いでいる改正についても、あくどい事業者が一定数存在し、ウェブ広告で消費者被害を発生させているからです。
まず、担当者は常に「あれ、この表現大丈夫かな?」という意識でクリエイティブチェックをすることです。常に知識や経験をもとにバージョンアップし、社内で共有しながらスキルアップにつなげていくことが大切。経営者にはコンプライアンスの重要性を再認識していただき、予防活動費をコストとして算出せず、積極的に広告を配信し売り上げを伸ばすための投資だと捉えることが重要です。
――最後になりましたが、貴社のAIによる広告表現チェックツール「トラスクエタ」について簡単にご紹介ください。
高橋:弊社は2015年より不当表示になる恐れのある表現を一つひとつ手作業で蓄積し、8000語にのぼるNGワードとOKワードをビッグデータ化して特許も取得した「トラスクエタ」を開発。簡単に広告チェックができるウェブサービスとして提供しております。現在はアメリカ政府の取締機関FDA(食品医薬品局)による事例を参考に、英語によるNGワードも追加しつつあります。この英語版は、越境ECを手がける事業者様に役立つのではないかと考えています。
「トラスクエタ」にはAIを活用していますが、まずはこれで第一次チェックを行っておけば、現場担当者はかなり作業が削減できます。そのあと微妙なところや細かい最終チェックには人手をかけても、広告出稿のスピードは格段にアップします。AIに完全に頼るのではなく、人間自身もブラッシュアップしながら、企業様が安心して胸を張れる広告を出せるようにサポートしていきたいと思っています。
■株式会社トラスクエタ公式サイト
https://trusquetta.net/
取材・執筆/渡辺友絵