ドライバー不足などが危ぶまれる「2024年問題」に対応するべく、ECを手がける事業者やモールは顧客が余裕のある届け日を選ぶ「ゆっくり配送」に乗り出している。配達日を分散させ物流や環境の負荷軽減につなげる施策で、ポイント提供などを通じて顧客に訴求し実効性を高める。政府が進める「物流革新に向けた政策パッケージ」では今年10月からポイント還元実証事業を実施し、ヤマト運輸などの配送業者も参加する。
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楽天ブックスとZOZOが「ゆっくり配送」に着手
「2024年問題」に関した取り組みでは「再配達の削減」が有効とされており、「置き配」の導入が加速した。ただ、「置き配」だけでは2024年度の再配達率を6%まで削減するという目標達成は難しく、ゆとりある配送日時を選べる「ゆっくり配送」や、複数商品をまとめて届ける「おまとめ配送」への対応が注目されている。
楽天グループが運営するオンライン書店「楽天ブックス」は24年8月から、急いで荷物を受け取る必要のないユーザー向けに新配送サービス「待っトク便」を始めた。主にポスト投函が可能なサイズの商品で、日本郵便が提供する「ゆうメール」を使い配送する。
従来に比べて商品到着まで数日多くがかかることに加え、配送日の指定、土日祝日の配送・郵便追跡といったサービスはないが、1出荷あたり「楽天ポイント」10ポイントを提供する。1カ月あたりの上限は200ポイントとなる。
1出荷あたり10ポイントを提供(出典:楽天)
ファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOも24年8月、通常配送よりも余裕のある届け日を選べる「ゆっくり配送」を本格導入した。商品注文日の7日後から10日後までに発送するシステムで、注文から発送までのリードタイムが通常配送に比べ最大6日伸びる。
「2024年問題」への対応策として同年4月に試験導入を実施したところ、発送作業の分散による配送の効率化などが確認できたため本格導入に至った。ただ、試験導入時に行ったZOZOポイントの付与は、本格導入開始時には実施していない。今後はセール等配送件数が増加する繁忙期に合わせ、「ゆっくり配送」を選択した顧客にZOZOポイントを提供するなど、効果を最大化させるための検証を行っていく。
LINEヤフーは「ECOくじ」も導入
早くから「ゆっくり配送」に対応しているのはLINEヤフーだ。
22年8月にグループ企業アスクルの個人向けECモール「ロハコ」で、注文が集中する毎週日曜日を対象に、通常より数日遅い配達を選べる実証実験を始めた。「おトク指定便」の名称で「PayPayポイント」を特典として提供し、配達日を遅らせるほど還元率が上がる仕組みを導入。期間中には約半数のユーザーが利用するなど好評だったため、同年10月には対象日を毎月「5のつく日」に変更し現在も継続している。
実証実験では、全体の注文者のうち約半数の51%のユーザーが「おトク指定便」を利用し、需要の高さは想定を上回った。そのため23年4月からは本格展開に踏み切り、「LOHACO」だけでなく「Yahoo!ショッピング」に出店する全店舗へのサービス提供を決めた。
「Yahoo!ショッピング」の出店者は任意で「おトク指定便」の提供有無を設定。対象商品は店舗や商品によって異なるが、余裕をもった届け日指定(最大14日後)に対し、店舗側が任意で1~100円相当のポイントを付与する。
さらに24年7月には「おトク指定便」と類似する施策として、「PayPayポイント」がくじで当たる「ECOくじ」を導入した。「ECOくじ」アイコンが表示された「最短お届け日+3日以降」の届け日を選択すると、10円相当の「PayPayポイント」が当たる。
届け日指定が可能な全店舗で実施しており、検証の結果ユーザーの3人に1人が「ECOくじ」を利用。届け日指定以降の余裕がある日程の選択率は、従来の約6倍となった。これまで最短届け日が選ばれる傾向が目立っていたが、余裕がある届け日を指定するきっかけになったという。現在、9月と10月の継続展開が決まっている。
「ECOくじ」は3人に1人が利用(出典:LINEヤフー)
フリマやオークションでもまとめて発送
「ゆっくり配送」に加え、各社が手がけているのが「おまとめ配送」だ。こちらも「ゆっくり配送」と同様に配送の効率化やCO2削減につながる。
ZOZOは以前から、複数回の注文商品を1回にまとめて届ける「注文のおまとめ」機能を導入。発送前の注文が複数ある場合、可能な注文は自動的にまとめられて顧客に届く。
23年4月からは、発送拠点が異なる商品についてもまとめ機能を使って発送できるようになった。結果的に商品配送が効率化され、まとめ機能拡大前に比べて年間約230トン相当のCO2が削減可能となる。
個人間取引においても、注文をまとめて送ることができる機能の導入が進む。
メルカリは23年8月、「メルカリ」で買い物する際に同じ出品者の複数商品をまとめて購入依頼できる「まとめ買い」機能の提供を始めた。購入者は商品を買うたびにコメント欄でコミュニケーションを取る必要がなくなり、まとめて届くことで受取時の負担が軽減する。出品者にとっては、梱包資材や配送コストを減らせるメリットがある。
メルカリの調査によれば、複数商品を購入する場合は平均約3.4品がまとめて発送されることが分かっているという。
LINEヤフーが手がける「Yahoo!オークション」も以前から、落札した複数の商品をまとめて発送できる「まとめて取引」という機能を搭載。まとめた商品のうちの1つを使って取引を進め、商品代金や送料を合算して支払い手続きができる。
「まとめて取引」の対象となるのは同じ出品者から72時間以内に落札した取引開始前の商品で、まとめられる商品の上限は20件となる。
10月から政府がポイント還元原資を支援
政府は23年6月、物流業界が直面する「2024年問題」などさまざまな課題に対応するため、「物流革新に向けた政策パッケージ」を策定した。再配達率の半減に向け、24年10 月からポイント還元実証事業に着手。事業者が「コンビニなど柔軟な受取方法」や「ゆとりある配送日時の指定等」を導入した場合、1配送当たり最大5円を支援する。
この施策に対応し、10月からアマゾンジャパン、楽天グループ、LINEヤフー、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便は、置き配やコンビニ受け取り、ゆっくり配送などに本腰を入れる。こういった物流負荷の低い受取方法を選んだユーザーに対し、ポイントを還元する取り組み積極的に進める。
各社の取り組みは以下のようになる。
アマゾンジャパンは、非対面など多様な受け取り方法を活用し、注文商品を1回で受け取った場合にポイント還元を行う「1回受け取り」を推進。楽天グループは、日付指定による1回の受け取りでポイントを付与する「日付指定1回受け取りキャンペーン」などを手がける。LINEヤフーは、届け日まで余裕のある日付を選択した場合にポイントを還元する「おトク指定便キャンペーン」などを実施する。
ヤマト運輸や佐川急便、日本郵便も、再配達削減につながる受け取り方法を選択したユーザーに対し、ポイントなどのインセンティブを提供していくとみられる。
政府が1配送当たり最大5円を支援(出典:内閣官房)
まとめ
「ゆっくり配送」や「おまとめ配送」を導入したこれら企業によれば、配送件数の削減や、発送作業の分散による配送効率化といった効果を確認できたという。負担にならない労働量や勤務時間でドライバーが働くことができ、環境への負荷軽減にもつながるのであれば、実行しない手はないだろう。
ただ、ユーザー側はドライバー不足解消やCO2削減を目指すというよりも、自らの利便性やポイント獲得という理由から利用する可能性が高そうだ。「ゆっくり配送」や「おまとめ配送」を浸透させていくためには、行政と事業者が一体となって地道に長く続けられる多様な施策が求められる。
執筆者/渡辺友絵
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