楽天とヤフーという2大ECプラットフォームが、アマゾン並の配送スピード強化に乗り出している。「最短翌日」など配送の迅速化を魅力に挙げるユーザーが多いことから、配送スピードが速い商品を自社基準に従って認定し、優良表示ラベルを提供する。認定された商品は検索結果の上位に表示されやすいなどのメリットがあるが、認定条件はかなり厳しいため、困惑するショップも多いようだ。
楽天は「あす楽」から「最強配送」へと変更
楽天はこれまで「楽天市場」において、購入合計金額が税込3,980円以上の場合に送料無料となる「共通の送料込みライン」や、最短お届け可能日を表示する「最短お届け可能日表示」などの機能を導入。ユーザーが買い物しやすいような取り組みを進めてきた。
2024年7月からは、23年に発表した自社が定める「配送品質向上制度」に基づき、その基準を満たした商品は「最強配送」と表示できるようにした。一方、「今日買って、明日届く」を掲げていた既存の翌日配達サービス「あす楽」は、6月で廃止となった。
「あす楽」は配送スピードに特化していたともいえるが、「最強配送」表示は配送全般の品質をクリアしているショップに付与される。配送品質が高いショップがひと目で分かるようにすることで、モールへの信頼度や顧客満足度の向上を狙う。
「あす楽」と「最強配送」の違いは、「あす楽」は無条件で翌日の届け日になっていたが、「最強配送」は必ずユーザー自身が日時指定することが必要。また、「あす楽」は時間指定ができなかったが、「最強配送」は翌日でも時間指定が可能だ。
「あす楽」ではすぐに必要でない商品も翌日に届いていたが、「最強配送」ならば日時指定できるため配送の効率化につながる。ただ、ユーザーが余裕のある配送日を選んだとしても、ポイント付与などの特典は設定されていない。
さらに24年10月には、11月から「最強配送」の名称を「最強翌日配送」へ変更するとの発表があった。楽天が「最強配送」のユーザー調査を行った結果、「最短翌日」を選べることを評価するユーザーが多かったためという。「最強翌日配送」へ変更することでインパクトを強め、サービス認知度の向上につなげる。
24年11月からは名称をさらに「最強翌日配送」へと変更(出典:楽天)
認定のためには土日の出荷も避けられない「最強配送」
ただ、「楽天市場」において「最強配送」表示ラベルを獲得するには、ざっくりしただけでも下記のようにかなり厳しい条件がある。
1)「楽天SKU」への対応(商品の登録単位をアイテム単位からSKU単位に仕様変更)
2)お届け日表示への対応
3)店舗&商品基準への対応
・納期遵守率:96%以上
・6日以内のお届け件数比率:80%以上
・出荷件数:月に100件以上
・共通の送料込みライン「39ショップ」(送料無料ラインを3,980円以下に設定してい
るショップ)の導入
・午前の注文:365日いつでも「翌日お届け」可能
・午後の注文:365日いつでも「翌々日お届け」可能
・日付指定が可能
これら条件を満たすうえでの一番の課題となるのは、「365日いつでも」の項目だろう。年末年始などの例外はあるものの、クリアするには土日の出荷対応も避けられない。土日だけ委託先に外注するという選択肢もあるが、コスト面を考慮すると現実的ではなさそうだ。
では、苦労して「最強配送」ラベルを獲得するメリットとは、どのようなものか。
まずは商品に「最強配送」ラベルが付いていることで、ユーザーに早期到着をアピールできる。「楽天」の認定基準を満たしているとの証明になるため信頼性獲得にもつながり、クリック率が高まる可能性もある。
さらに楽天は、「最強配送」ラベルの有無は「検索順位決定要素の1つ」と発表していることから、商品検索順位が上がる可能性もある。
「最強配送」ラベルを表示した楽天市場の商品(出典:楽天)
「翌日配送」へとコマを進めたLINEヤフー
LINEヤフーは「Yahoo!ショッピング」の配送品質を向上するための取り組みとして、「安心・安全」「スピーディー」など一定の基準をクリアした商品を「優良配送」と認定。22年8月からは、注文日の当日〜翌々日までに届く商品についてはページ上に記載できる「優良配送」表示ラベルを付与していた。
さらに24年5月には新たな配送サービスとして、注文を受けた当日〜翌日までに商品が到着する場合に表示できる「翌日優良配送」を導入した。「優良配送」よりも納期を短くしたもので、対応が可能な場合は「翌日優良配送」表示ラベルを付与する。
「優良配送」商品は商品ページと検索結果に「優良配送」と記載されたトラックのアイコンが表示され、「翌日優良配送」には「翌日」と記載されたアイコンが表示される。
トラックのアイコンで「翌日優良配送」「優良配送」を表示(出典:LINEヤフー)
同社は「優良配送」の認定を受けたショップはアクセスが増加するとしているが、認定を獲得する条件は以下となる。
1)最短お届け日を「注文日+2日以内」に設定している(「注文日+1日以内」の場合は「翌日優良配送」の認定が可能)
2)出荷遅延率が5%未満(出荷遅延率=遅延対象となる注文数÷全注文数)。算出には過去数ヶ月間にわたる出荷実績が適用される
では、「優良配送」と認定された場合のメリットはどうか。
同社は、「優良配送」のアイコンが付いた商品は「Yahoo!ショッピング」内の検索順位で優遇すると公表している。優先的に「おすすめ順」の上位に表示されるよう設定され、「翌日優良配送」の場合は「優良配送」よりも上位に表示されるという。
そのほか、「 絞り込み検索の対象になる」「他店舗の商品ページに比較対象として表示される」などのメリットが挙がっている。「優良ショップ」とアピールできるため、必然的にユーザーからの信頼度も高まる。
柔軟な配送スキームが現場の負荷軽減に
アマゾンの「お急ぎ便」に加え、「楽天市場」と「Yahoo!ショッピング」が翌日から翌々日の配送を優良と認定したことで、EC市場の配送スピード競争感は一段と高まった。その一方で、物流の「2024年問題」を踏まえ、国やEC業界は日時指定や置き配、ゆっくり配送などを推進し、配送負荷軽減に取り組む。
一見すると真逆の施策に思えるが、無条件で翌日の届け日になっていた「あす楽」をユーザー都合で届け日を指定できる「最強配送」に変えるなど、必要に応じたフレキシブルな対応を取り入れたともいえる。急ぐ場合は翌日配送で届け、そうでない場合は多少余裕がある配送日を設定するという柔軟な配送スキームが当たり前になれば、配送現場の負荷軽減につながることになる。
獲得した「最強配送」や「優良配送」ラベルを商品に表示した明確な効果はモールから公表されていないが、ユーザーへの浸透期間も必要であり、効果が表れるにはそれなりの時間を要するといえよう。
まとめ
ショップ側にしてみれば、求められる「最強」や「優良」の配送基準を満たすには従来の出荷の仕組みを見直す必要があり、物流コストの増加は避けられない。一方で「最強」や「優良」ラベルを獲得しないと競合他社に負けてしまうのではないかという不安もあり、悩ましい思いを抱いていると察せられる。
ただ、認定基準のクリアはかなりハードルが高いため、あまり焦らず、自社の事業規模やコストパフォーマンスについて熟考しながら判断すべきだろう。必ずしもモールの全基準に合わせなくても、ユーザーから優良と評価されるためにショップが独自で取り組める施策もあるのではないか。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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