大手小売り企業が自社ECサイトを拡張し、他社商品も扱う自前の「マーケットプレイス」を立ち上げる動きが目立ち始めた。アマゾンや楽天のような巨大ECプラットフォーマーに挑戦するのではなく、自社が扱うカテゴリーや企業特性を生かした特化型のマーケットプレイス構築を目指す。プラットフォーム基盤を提供するユニコーン企業のサポートも追い風となっているが、果たして勝算はどうか。
集客力・商品力の増強やBtoB事業への誘引目指す
BtoC事業を展開する現在のEC市場は、アマゾンなど巨大ECプラットフォーマーによる寡占状態にあるともいえる。圧倒的な店舗数や商品力に加え、大きな強みである迅速な配送力に太刀打ちできず、自社ECサイトや実店舗を運営する小売企業は厳しい戦いを強いられてきた。
そこで、大手小売企業で新たな選択肢として浮上してきたのが、自社のECサイトを開放しプラットフォーム化するという動きだ。自社ブランド商品などを販売するECサイトに、外部企業が出品・販売できるマーケットプレイス機能を整備する。
独自のマーケットプレイスを構築することで集客力や商品力が増強し、事業領域が拡⼤。得意分野において顧客の訪問頻度を増やし、LTV(顧客生涯価値)向上やロイヤルカスタマー育成につなげる狙いもある。
さらに、出店者の購買・顧客データを収集できるうえ、フルフィルメントなど自社が持つBtoB事業にも誘引できるようになるなどメリットは大きい。
今年に入ってからは、2月にニトリがマーケットプレイス化を発表し、同じく9月にはアイリスグループが導入を明らかにした。さらに10月にはアダストリアが、22年から他社を招いて展開している既存プラットフォームの拡大・進化を宣言した。
アダストリアは既存プラットフォームの拡充を加速
実店舗とECで30以上のファッションブランドを展開するアダストリアは2024年10月、ECモール運営を軸とした事業を新設の子会社「アンドエスティ」に12月から承継すると発表。自社ECサイト「ドットエスティ」の名称も「アンドエスティ」に変更した。
新会社の設立は、22年より他社に開放している「アンドエスティ(旧ドットエスティ)プラットフォーム」の拡充を加速させることが狙い。今後、さらなる出店者の参画を募って外部ブランドの品ぞろえを強化し、ECモール運営を中心としたアンドエスティ事業を「ファッショントータルプラットフォーム」へと進化させる。
24年2月期における「アンドエスティ」の流通総額は約360億円、会員数は約1,800万人となる。外部企業向けへのオープン化後、自社ではカバーできないインナーやコスメ、ライフスタイルなどの商材を扱う企業を誘致し、ワコールやピーチジョン、ファンケル、Zoffなど17社22ブランドが参加している。今後はカテゴリーを広げ、食品や雑貨などより幅広い品ぞろえを目指す。
参加企業との連携強化を図るため、参加企業とアンドエスティのスタッフが共に出演するライブ配信も実施。参加企業が手がけるポップアップストアを、出店を加速させているOMO型店舗「アンドエスティストア」で展開することも計画しているという。
BtoB事業としては、データ連携や物流倉庫連携などマーケットプレイス機能を提供。店舗スタッフのコーディネート投稿ツール「スタッフボード」など、同社ならではのシステムツールも公開していく。
10月にはコスメ5ブランドの取り扱いがスタート(出典:アダストリア)
構築機能の提供を受けアイリスグループは12月に参入
家電など生活用品の企画・製造・販売を手がけるアイリスグループは24年9月、グループのアイリスプラザが運営するECサイト「アイリスプラザ」にプラットフォーム機能を導入すると発表した。出店企業の募集を開始し、12月初旬をメドにマーケットプレイス事業に参入する。
「アイリスプラザ」は、アイリスオーヤマ商品を中心に家電や食品、家具、ペット用品、日用品など50,000点以上の幅広い商品を取り扱っており、会員数は9月時点で400万人に達している。出店企業を積極的に誘致することにより事業領域を拡大し、新規顧客層の獲得を狙う。
「アイリスプラザ」では商品の購入に応じてサイト内で使えるポイントが貯まるが、出店企業の参加により品ぞろえが拡大し、ポイントの活用度も広がる。出店企業と連携したキャンペーンも計画するなど、使いやすく利便性が高いサイトを目指す。
今回のプラットフォーム化については、マーケットプレイスの構築機能を提供するフランス発ユニコーン企業のミラクル社のシステムを採用。同社はすでに世界中で400以上の企業型マーケットプレイスを提供し、新たなビジネスモデル構築に貢献している。
ミラクル社の構築基盤を採用(出典:アイリスグループ)
ニトリは「住まい」から「暮らし」の総合マーケットへ
アイリスグループと同様に、ミラクル社のプラットフォームを採用しマーケットプレイス事業に乗り出すのがニトリだ。「住まい」から「暮らし」の総合マーケットへの変身を目指しており、24年2月にマーケットプレイスへの参入を発表した。中⻑期ビジョンである「2032年 3,000店舗 3兆円」の達成に向けた経営戦略を掲げており、取り組みの⼀環として事業領域の拡⼤に踏み切る。
背景には近年の国内外におけるEコマース市場の伸びがあるとしており、中でも成長が著しいマーケットプレイスのプラットフォーム化を選択した。より幅広い品揃えが可能なことや、在庫と物流のコストが削減できるため収益性が⾒込めることなどから、ミラクル社の採⽤を決めたという。
品ぞろえの充実を図り、「暮らし」にフォーカスした目的特化型のプラットフォームを計画。家具やホームファッション、家電といった現在扱っているカテゴリーに加え、食材、製菓、消耗品、介護用品、ペットフード、美術品などを手がける企業の参加を促す。アマゾンなど巨大プラットフォーマーに対抗するのではなく、あくまでも「暮らし」に特化したポータルを目指す。
9月末のアプリ会員は2,115万人で、マーケットプレイス化により出店企業はこういった顧客基盤を活用できるようになる。顧客参加型のコミュニティなども立ち上げる予定で、このような場でも出店企業の商品が認知されていく可能性があるという。
もともと今年秋にECサイトのリニューアル計画があり、構想を検討する段階でマーケットプレイスの導入を決定。年内にリニューアルを行うが、マーケットプレイスのオープンは25年以降の見通しとしている。
アプリ会員数は年々増加している(出典:ニトリ)
まとめ
このように、大手小売企業が自前のマーケットプレイス構築に意欲を示す背景には、さまざまなメリットと可能性が存在する。ただ重要なのは、それぞれが自社のマーケットプレイスの専門性を高めることを忘れずに、巨大プラットフォームや他のマーケットプレイスにはない価値観を貫くことだ。
例えば商品群を拡大しすぎると、巨大プラットフォームに類似してしまい、元も子もない。また、自社と同様にマーケットプレイス化に踏み切った他の大手小売り企業と競合する可能性も無視できない。ユーザーが検索・購入しやすいプラットフォーム構築を意識するとともに、ある程度得意分野にフォーカスした戦略を立てていくことが必須となりそうだ。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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