2024年10月1日より郵便料金が値上げされた。個人への影響に加え、ECや通販を手がける企業やフリーマーケット出品者にとっては郵送コストの負担が増す可能性がある。こういった事業者への影響や、値上げへの対応策などについて考えてみたい。

レターパックやスマートレターも
値上げされるのは通常ハガキや定形郵便物をはじめ、定形外郵便物(規格内)、速達、特定記録郵便、料金受取人払い手数料、レターパック、スマートレターなど。ハガキは34.9%、25g以内の定型郵便物は30.9%、50g以内の定型外郵便物は16.6.%と、かなりの上げ幅となる。
レターパックは、レターパックプラスが520円から600円へと15.3%、レターパックライトが370円から430円へと16.2%、スマートレターは180円から210円へと16.6%アップする。
値上げ前のハガキやレターパック封筒、スマートレター封筒については、料金引上げ後は差額分の郵便切手を貼付するか、窓口で差額を支払えば利用できる。ただ、レターパック新料金の差額分となる60円切手や80円切手は販売されていないため、やや不便。既存の切手を数枚組み合わせて対応する必要がある。一方、スマートレターの差額分である30円切手はここ数年販売されていなかったが、料金改定を受けて10月から復活した。
新しい郵便ハガキやレターパック、スマートレターと交換することもできるが、10月1日以降はハガキ1枚につき6円、レターパックライトとレターパックプラスは封筒1枚につき55円の交換手数料(いずれも1回当たりの交換枚数が100枚未満の場合)が必要。スマートレターも55円の交換手数料が上乗せされることから、いずれも新料金の差額分と合わせるとかなりの金額となる。

25g以内の定型郵便物は3割以上アップする(出典:日本郵便)
値上げが進むクレジットカードや公共料金の明細書
値上げの理由には昨今のデジタル化進展などにより郵便物数が大幅減少していることが挙げられるが、郵便料金の値上げは他の業界にも影響を与えている。ここ数年は、進むペーパーレス&デジタル化の波に対応する形で、クレジットカードや公共料金の紙タイプ利用明細書の有料化が急増。今回の郵便料金値上げが追い打ちをかけ、手数料のさらなる値上げが相次いでいる。
2000年頃から始まったクレジットカードの利用明細有料化は、当初は1通あたり100円程度のケースが目立った。中にはプラチナカードやゴールドカードなど無料のケースもあるものの、一般的に昨今では値上げが進む。
「三井住友VISAカード」は24年10月請求分から1通あたり税込132円に、「三菱UFJニコスカード」は25年1月請求分から税込220円に、「JCBカード」も25年1月請求分から同165円にアップ。「セゾンカード」の場合は特に顕著で、24年12月請求分からはそれまでの同110円から同330円へと3倍に跳ね上がる。
公共料金についても、紙の検針票などの有料化がスタンダードになりつつある。
東京ガスはまさに今回の郵便料金値上げ時期に合わせた24年10月に、それまでメールボックスなどに投函していた紙の検針票(ご使用量のお知らせ)を終了。11月以降も紙の検針票を希望する場合は郵送となるため、発行手数料として税込165円が必要となる。
東京電力は20年5月分より検針票や領収証の投函を終了しており、検針票が必要な場合は検針票の郵送費用として税込110円を支払うシステム。今後、これら発送手数料が上がっていく可能性もある。
EC業界で予想される影響と対応策
では郵便料金の値上げにより、EC・通販業界はどのような影響を受けるだろうか。
今回値上げされた郵便料金の種類はある程度限られており、ゆうパケットやゆうパックなどは対象外。影響は軽微かもしれないが、出荷数が多い事業者や、アクセサリー・CD・化粧品・トレーディングカードなどの小物を扱う出品者にはやはり影響を及ぼしそうだ。小さくて軽く厚みがない商品を送る際に使う定型外郵便やスマートレター、レターパックを利用しているフリマ出品者には切実な問題といえる。

スマートレターは1㎏までの小物の発送に便利(出典:日本郵便)
そのため、小さなものを送るのに便利だった定形外郵便の利用などについても見直しが必要となる。例えばこれまでは150g以内の定形外郵便であれば210円で送れ、250円のゆうパケットよりも安かったが、値上げ後は270円といっきに60円アップ。厚さ1センチ以内のものならば、厚さに応じた料金設定であるゆうパケットの方が割安となる。
レターパックライトやレターパックプラスもかなり値上がりしたため、フリマ出品者は1㎏までの冊子などを送ることができるゆうメールや、メルカリや楽天ラクマの配送サービス「ゆうパケットプラス」の送料と比較したうえで、よりお得な方を選んで欲しい。
これまでも日本郵便やヤマト運輸の運賃改定に伴い、メルカリや楽天ラクマは配送料金の見直しを行ってきた。今回の郵便料金値上げは限定的でフリマサイトの配送サービスに直接影響はないものの、ゆうパケットやゆうパック料金が改定されればフリマ出品者が受ける打撃は大きい。

「ゆうパケットプラス」は各フリマで利用できる(出典:日本郵便)
ダイレクトメールも大幅なコスト増に
また、EC事業者やフリマ出品者にはほぼ無関係だが、紙タイプのダイレクトメールや冊子、カタログなどを定期的に顧客に送付している通販事業者が受ける影響は深刻だ。仮に25g以内のダイレクトメールを毎月1,000通送っているとすれば、年間で約31万円のコストアップとなる。
値上げ前と同額のコストを維持するためには通数を削減するしかないが、そのためには費用対効果が高いダイレクトメールを作成することが必要。クリエイティブを見直し訴求力の高い紙面作りをしたり、作業工程の効率化を図ったり、無駄なメールを送らないように宛先リストのチェックや更新を行なったりという施策が求められる。
郵便物の重量を減らしてコストダウンを図る場合は、ダイレクトメールなどの紙面にQRコードを入れ、動画やデジタル情報へと誘導することも有効といえよう。
さらに今回の値上げへの対応策として、企業などではこれまで紙で送っていた郵便物のデジタル化が進むだろう。見積書や請求書、納品書といった紙の帳票類が減っていくことは明らかだ。
業界団体にとっても大きな懸念材料
総務省は今回の値上げについて、昨今のデジタル化の進展などにより郵便物数が2001年度をピークに大きく減少したと説明。今後も右肩下がりが見込まれるうえ、人件費や燃料費などの上昇もあってやむを得ない措置としている。
日本通信販売協会(JADMA)は、総務省が23年12月に示した値上げの省令案に対し、24年1月にパブリックコメントを提出。郵便を使い事業展開している通販業界には年間数億円を投じている企業もあり、約3割という大幅なコスト増は事業継続に大きな影響が及ぶと指摘。通販企業が自助努力で対処できるコストの幅を超えており、負担があまりにも大きいとして引き上げ額の減縮を求めた。
さらに、値上げによりデジタル広告への移行が進み郵便需要がより減少するのに加え、製紙、印刷、発送代行など周辺の多業種にも悪影響が生じると懸念。日本郵便は管理職クラスの人件費削減といった合理化が不十分であり、経営合理化を実現したうえで郵便料金引き上げを検討すべきと要望している。
まとめ
ただ、このように通販・ECの業界団体が声を挙げても、郵便料金値上げの波は収まりそうもない。今回の値上げには含まれなかった他の郵便料金も、ヤマト運輸や佐川急便などが値上げを実施すれば、それに伴ってさらに料金改定されるだろう。
個人やフリマ出品者から大企業まで影響を受ける郵便料金の値上げだが、当面はサイズや重さ、発送方法などを工夫しながら対応していくしかない。さらには、郵送料や配送料が多少上がったとしても、その分を吸収し利益を確保できるような商品力や出品力を養っていくことが重要といえよう。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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