田村「通販は投資の幅が広がる一方、課題が複雑化してきている」
井上:お会いするのは久しぶりですが、田村社長から見て「ここ数年で通販業界は変わったな」と実感するようなことってありますか?
田村:「ザ・通販」のやり方がある程度固まってきていて、事業者の皆さんがある程度の型はできるようになってきたと思います。そんな中で、投資の幅が広くなっているなと感じますね。長期的な目で見て、商品を継続して購入してもらうことに寄与する要素はなんだろう、と考える企業さんもかなり増えてきました。一方で、転売や未払い、ブランド毀損リスクなど、課題の部分もかなり複雑化していると思います。
井上:継続購入の話が出てきましたが、継続にはどんな要素が必要だと考えられたりするのですか?
田村:基本的な継続の3要素に加え、最近は例えば、企業イメージについてロジスティック回帰分析をしたりします。キユーピーさんだったら、「研究開発に力を入れている」「体に優しい商品を作っている」「レガシーカンパニーである」とか。
井上:なるほど。先日、トウ・キユーピー製品の愛用者座談会を開催したのですが面白い傾向がありました。50代の参加者の方が多かったのですが「3食しっかり食べる」「家族にお弁当を作る」「なるべく自分で手料理を作る」といったトラディショナルな感覚をお持ちの方が多いなという印象でした。実はこれ、親会社のキユーピーのマヨネーズのお客さまのペルソナ像と非常に近いなと感じたんです。企業イメージが影響しているというのはありそうですね。
田村:「どういうイメージを持っていると継続しやすいのか」ということを分析するために、継続してくれているお客さんに直接ヒアリングしたりするケースもあります。あとは、「継続との相関性が高いのはどんな商品か?」などを分析したりもしますね。
井上:御社は、継続しなかったお客さんにも「なぜ継続しなかったのか」を聞いたりする取り組みもされているとか。
田村:はい。続けた人だけじゃなくてやめた人の座談会をやるようにしています。「なぜやめたのか」も商品やサービスのブラッシュアップに大事なポイントです。座談会は直接お会いできるので、例えば「どんな鞄を持っているのか」までわかります。そうすると、ペルソナ像の構築に役立ったりもします。
井上:「やめたお客さん」を集めるのはハードルが高いように思いますが、どうやって集めるのですか?
田村:ぜんぜん簡単ですよ(笑)。例えばAmazonギフト券を差し上げるなど、インセンティブを用意するケースが多いです。コンサルをしている企業の座談会に司会として参加したりもします。態度が悪い方もいらっしゃったりするので、やりがいがありますよ(笑)。
井上:それはプレッシャーですね(笑)。
井上「トレースできない商品はブランド毀損リスクが高い」
――トウ・キユーピーでは商品のリセール(再販・転売)対策にも力を入れていると聞いています。今回は、そのあたりについて伺いたいです。
井上:何人の手に商品が渡っているかわからないといった、トレースが不明な商品の流通はブランド毀損リスクが大きいです。仮に、劣化した商品が、消費者の手に渡ってしまい何かがあっては困ります。こうした観点から、正規じゃない販売ルートで、トウ・キユーピーの商品が出回らないよう、対策を取っています。当社の通販では、転売を規約で禁止しています。
――具体的にはどんな取り組みをしていますか?
井上:大きく分けて2つのケースがあります。1つは「Amazon.co.jp」や「楽天市場」といったECモールの出品者・出店者に販売されているケース。もう1つは「ヤフオク!」や「メルカリ」といったCtoC市場で出回っているケースです。どちらも正規ルートでの販売ではないので、販売を禁止しているのですが、特に対策を重視しているのがモール出品者・出店者による販売です。
「ヤフオク!」や「メルカリ」は、買う側が「売る側が個人である」ことを認識しています。もちろん、出品を見つけた際は警告を送るなどしていますが、最終的には買う側が自己責任ということをわかっていますので、徹底的に対策するということまではしていません。
ただ、Amazonや楽天で販売されているものは、買う側が「売る側が企業」といった安心感を持っていたりするんですよね。ですから、こちらについては厳しく対応しています。
――どのように警告しているのですか?
井上:「商品の転売は当社が禁じているが、何かあったときに責任はとれるのか」ということを、メールなどで強めに警告するようにしています。
――警告して取り下げる割合はどれくらいですか?
井上:大体8割方は警告を受けた段階で取り下げてくれます。ただ、取り下げてくれないところもあるので、その後の対応はケースバイケースです。自社で買い取り調査をするケースもあります。
商標保護の面から取り下げのアプローチをするケースもあります。モールによっては、知的財産保護のフォームに申請をすると、強制的に取り下げさせるものもありました。ただ、最近はこうしたテクニックも通用しにくくなってきています。転売対策も複雑化しているなと感じています。
モール側の商品規約も頻繁に変更されています。Amazonでは新品のコンディションガイドラインが昨年変更になって、転売は実質禁止というような内容になりました。ですが、実際に転売は減っていませんので、メーカーサイドの対応が重要なのだと思います。
田村:転売問題の本質的な部分である出元の対策はどうですか? 卸売販売をしている場合、2次卸や3次卸などと広がると出元の特定も困難です。
井上:1次卸であれば「特定のモールでの販売は禁止」などと契約で縛れますが、末端までは締め付けが難しいですよね。
当社のケースをお話しすると、卸は生協のみに絞っています。なので、出元は基本的に正規ルートからの購入となります。初回購入価格と通常価格の価格差を利用したものや、未払い商品の転売が出元になっていますね。
田村:転売商品は大体、価格差の中間くらいをとった値段で販売されていますよね。いろんな企業の話を聞くと、初回価格より本品価格の方が安くなる売り方をされている会社さんの方が転売でダメージを受けている印象があります。「結局それは卸じゃないか!」と言いたくなりますが(笑)。
井上:全くです(笑)。アフィリエイターに、セルフバック(アフィリエイター自身で商品を買い、成果報酬もらいながら転売していくこと)をやられているケースもありますよね。常態化している会社さんも少なくないように思います。
田村:セルフバックの禁止は当たり前ですが、初期のころは記事を書いてもらいたいがために、なかなか強くは言えないというような事情もありますから。これはこれで難しいところです。
ただ、こうした現場のことをわかってない会社も多いと思いますね。先日、通販の売上が年間100億円を超えている会社さんに「うちの商品が転売されているんだけどどうしたらいいか?」と相談を持ちかけられて調べてみたら、アフィリエイトのASPがポイントサイトに掲載していただけだったんですね。まぁ、それはそれで問題ですけど(笑)。
商品ページを見ると、ちゃんと自社の正規のLPにリンクしているという(笑)。自社の商品がどこで・どんなふうに広告されているのか把握していないのも問題ですよね。これもブランド毀損リスクを高めてしまうことになります。
井上:その通りだと思います。
田村「再販問題はロット管理で出元を特定する手段も」
――転売商品の出元を防ぐには、どのような対策がありますか?
田村:ロット番号管理である程度は制御できると思います。例えば、卸が2次や3次までなど、多岐にわたるとなかなか足がつかみにくくなります。そこで1次卸ごとにロットを分ければ、漏れた1つ目の出元は把握できます。1次卸に事情を聞いたり、1次卸への商品供給を止めるといった対策ができますよね
井上:なるほど、そういう手段もありますね。大変参考になります。メーカー側からすると、理想はシリアルナンバーの付与。手間やコストを考えるとなかなか難しいところだとは思いますが。
田村:完全にトレースできますからね。ご指摘の通り、手間やコストとの兼ね合いです。ただ、個人的に、究極の方法は「そもそも価格差をなくす」だと思っています。新規獲得や継続促進を考えると、なかなか実現は難しいとは思いますが(笑)。値下げして売るというのは楽なんですよね。キャンペーンも似た構造で、楽して獲得ができる。
井上:確かに、価格を下げるお試しキャンペーンは、やり始めるとやめにくくなってしまう感じがありますね。
田村:転売を防止するためには「転売禁止」を標榜しておくべきなのですが、テクニック論的にも法的拘束力の観点からも、「転売禁止」と言うだけでは正直、意味がないんですよね。焼け石に水のようなもので、転売の現場と言う「出口」と、不正注文という「入口」の規制・予防をするのが大事です。
井上:その通りですね。入口と出口、どちらも対策しなければ結果が出せません。出口となる転売先はそれぞれの売り場に対して対策を取らないと結果も出ないので、難しい部分でもあります。
田村:独自ドメインのECのみでやっていたある通販会社さんが、卸売を始めた途端、値段のコントロールができなくなったという事例があります。市場での値崩れが起きたんですね。じゃあ、卸をやめればいいかというと、そういうわけにもいかない。その会社さんの商品の認知経路を調べると、卸先からが3割を占めていました。例えば店舗は、商品を見るという行為が付加される。目的買いではないところで認知される、これはPRとしては大事な部分です。ですから、卸をやめればいいという単純な話ではない。
井上:店舗流通しているかどうか、が商品の権威性として価値が高いケースもありますから。実際に商品を海外で展開しようとすると、日本では店舗で流通しているかどうかを聞かれたりしますね。通販商品を店舗でも流通させるには、それぞれで販売する商品の仕様を分けるというやり方も1つのやり方なのかなと思います。
田村:大手通販会社なんかでは、通販と店舗で商品を分けている会社もあります。
1回目の督促でクレカ払いへのスイッチを推奨
――未払いの督促はどう対応していますか?
井上:督促のプロセスとしては、自社で一定期間をおいて3回督促を行い、4回目で債権回収会社に委託するという形にしています。
田村:当社では、クライアントさんの債権回収に関するアドバイスもしています。支払い方法別や、回収率のデータも持っています。実例としては、封筒の色を工夫して回収率を高めたケースもあります。
井上:督促の部分までカバーできるのですね。
田村:最近の当社のクライアント事例では、「後払い」の期限を過ぎてしまったお客さまに対して「クレジットカード決済に切り替えませんか?」というメール案内を出すという施策を行いました。具体的な数字は明らかにできないのですが、この方法でかなり回収ができました。「忘れちゃった」「コンビニに行くのが手間」という人は、ここで回収することができます。
井上:そういう手段もあるのですか。1回目の督促である程度回収できるのがベストですから、それはいいやり方ですね。
田村:LTVの高いクレカへの支払い方法スイッチもできて一石二鳥でしょ(笑)。
田村「通販会社は価格差のないビジネスを」
田村:繰り返しになりますけど、転売の課題を解消するためなのはもちろん、通販会社には価格差の少ないビジネスで勝負してほしいな、と感じます。精神論的な話になってしまいますが、通販会社はちゃんとお金を払って商品を買ってくれる人たちを一番優遇しなくちゃいけない。でも実際、それができていない。こうした状況はやるせないなと思ってしまう。初回価格を安価にする場合は、内容量を変えたりだとか工夫があってほしいなと思います。
ある通販会社さんでは、継続のお客さんのロイヤリティーを15段階に分けています。各ランクごとに割引率が異なり、ランクが高ければ高いほど一番安価に商品を購入できるという仕組みです。それ自体も姿勢としてはOKなんですけど、心理ロイヤリティを上げていけばさらに良くなりますよね。
――ご指摘の内容が最も理想的でお客さま目線の通販モデルですね。転売など課題の解決の一助にもなります。本日は、非常に参考になる内容をありがとうございました。
井上:田村社長のおっしゃる通りだと思います。弊社もまだまだできていないことや、できることがまだあると分かり、非常に勉強になりました。転売対策や未払い回収に関する内容で議論を交わせる人もなかなかいないので、貴重な機会でした。
田村:こちらこそ、ありがとうございました。
(古川 寛之)
<株式会社トウ・キユーピー 通信販売部 井上泰孝課長>
【プロフィール】
2004年、キユーピー株式会社入社。医薬品・食品原料の研究開発などを手掛け、機能性表示食品制度の発足時には、届出業務も担当。
2015年4月から、通販子会社である株式会社トウ・キユーピーに出向。同社の通販マーケティング全般の業務を担当。
■トウ・キユーピー
<株式会社ダイレクトマーケティングゼロ 代表取締役社長 田村雅樹 氏>
【プロフィール】
早稲田大学法学部卒業後、「株式会社ベネッセコーポレーション」、大手化粧品会社を経て、2009年に通販専門のコンサルティング会社「ダイレクトマーケティングゼロ」を設立。通販化粧品・健康食品企業を中心に計500社以上の顧問・コンサルティングを行う。「AMIDAS」や「通販7指標必勝方程式」などの独自理論を打ち立て、クライアントの売上を20倍上げた実績をもつ。「DMA国際エコー賞」「ケープルズ賞」をはじめ「全日本DM大賞」などダイレクトマーケティングに関する賞を国内外で通算37冠受賞。著書に『ゼロからはじめる通販アカデミー』(ダイヤモンド社)がある。講演・寄稿等多数。
■ダイレクトマーケティングゼロ