今回はリピート通販事業で企業が抱きがちな「10の誤解」に関して、『顧客に選ばれ続ける強いリピート通販事業の作り方』という書籍から抜粋してご紹介します。
これからリピート通販事業に参入しようとする企業や、すでに参入しているが成果が出ていないという企業が抱きがちな「10の誤解」を紹介します。これらを正しく認識しておくことで、事業の成功に一歩近づくことができます。
▽前回の記事
リピート通販事業に参入した企業が直面する「3つの壁」
「10の誤解」とは?
1. 「市場規模が大きい商材ならば、ある程度の売上が見込める」という誤解
健康産業新聞の調べによると、2021年度の青汁製品市場(グリーンスムージー含む)は1,076億円の市場規模と推計されています。青汁は、リピート通販において比較的大きな市場規模ですが、一方で参入企業が多く、商品の独自性を打ち出すのが難しい商材の1つです。
参入企業が多いということは、たとえばWEB広告の出稿において、少ない予算投下だと大手事業者に広告掲載の入札で勝てず、検索サイトでのキーワード検索において結果表示の上位に表示されないというリスクがあります。これは競合が多い商品で気をつけなければならない点の1つです。
では、市場規模の小さい商材ならどうでしょうか? 冬虫夏草という漢方の原料がありますが、このような商材は青汁とは異なり、一見すると参入メリットが小さいように感じるかもしれません。しかし、大きくない市場であっても、自社の売上目標が満たせるのであれば、参入をためらう必要はありません。
ほかにも、近年ブームを形成しつつあるまつ毛美容液はその市場規模が徐々に拡大し50億円程度にまで成長したと推計されていて、参入後にシェアを伸ばし着実に売上を拡大している企業もあります。ニッチ市場を開拓するという戦略は決して間違いではない、むしろ目指す事業規模によっては勝算のある打ち手だということができます。
2. 「自社商品の良さは、説明すれば消費者に十分伝わる」という誤解
消費者が目にする通販広告(レスポンス広告)では、一般に購入に至るまでの道筋が企業側で設定されています。そうした成果を最大化するためのノウハウやテクニックもありますが、なによりも注意すべきは、消費者は企業側が考える商品特性(USP:Unique Selling Proposition)を理解していない場合が往々にしてあるということです。
むしろ、たいていの場合、商品の良さは消費者に伝わらないというくらいの認識を持ち、「伝わらない」という出発点から発想を積み上げて、企業側の考えと消費者の考えのギャップを確認していくことが正しいアプローチといえます。
そして優良顧客に育成するプロセスの中でそのギャップを埋めていくことが、企業側がとるべき販売戦略の基本です。「商品の良さを伝えれば、きっと買ってもらえるはず」というのは、企業側の楽観的な思い込みであることを、あらためて認識する必要があります。
3. 「商品の品質やスペックを伝えれば、差別化できる」という誤解
商品の良さ、すなわち商品そのものの独自性はしっかり追求すべきですが、「有効成分などのスペックや産地情報さえ伝えれば、他社と差別化できる!」という発想は非常に危険です。
たとえば、サントリーウエルネスの主力商品である『セサミン』は、スペックで他社商品と比較するという方法を取らず、広告においてその特長であるセサミン成分の含有量も謳っていませんが、同ジャンルにおいてトップシェアの商品です。実際にこの『セサミン』よりもセサミン成分の含有量が多い商品はほかにも存在しますが、それでも消費者は『セサミン』を選んでいます。
消費者は細かなスペックを比較して買うのではなく、たとえば、身体の痛みが解消できるのかといった視点で商品を見極めるのです。
4. 「WEBサイトを作れば、低予算で効率よく新規顧客を獲得できる」という誤解
WEB広告はプリントメディアに比べると出稿しやすい媒体ですが、それは新規顧客獲得の効率とはまったく別の話です。近年、初期の広告予算が潤沢ではない場合など、成果報酬型のアフィリエイト広告を軸としたWEB広告のみで新規顧客獲得を始める企業が増えています。
アフィリエイト広告の大きなメリットとして、成果報酬額を出稿主側で設定できるという点があります。その一方で、効率を追求しようとしすぎて設定金額を抑えれば、アフィリエイターにとってのメリットが薄れ、結果的に獲得人数は減ることになります。
もちろん、デジタル化が進むこの時代ですから、消費者が生活のなかで、商品やブランドに興味を持った際の参照先としての受け皿になるウェブサイトの設置やWEB広告をやらないという選択肢は、もはやありえないでしょう。ただし、ターゲット層によってはオフライン広告のほうがCPOを低く抑えられるケースも少なからず存在します。必ずしもWEB広告に固執する必要はないのです。
5. 「口コミで広がるから、広告への投資はゼロでもよい」という誤解
広告戦略の1つとして、フォロワーを多数抱えるインフルエンサーに対して有償での情報発信を依頼する企業があります。特に新規参入する事業者に多いようですが、自然発生的な口コミから継続的な売上に繋げようとするのは、あまり現実的とはいえません。
なにかのきっかけでSNSなどによって急激に認知が拡大し、注文が急増することもありますが、「再現性」という観点からいえば、口コミでの広告効果は売上が安定せず、新規獲得数がコントロールしにくいということには注意が必要です。口コミによるブームは「継続的に売れ続ける仕組み」とは異なるものであり、過度に期待してリソースを傾注するのは、あまり得策とはいえません。
「広告費」として大きなコストをかけて著名なYouTuberを起用するケースも見られますが、一時的にバズらせることができたとしても、一時のブームでやってきた顧客は去るのも早いということは意識しておいたほうがいいでしょう。
6. 「通販と実店舗販売は競合しない」という誤解
リピート通販にかぎらず、原料メーカーや製造委託先と協力して商品を開発・製造する場合、類似商品は必ず存在するものです。
ドラッグストアの健康食品やサプリメント、化粧品や美容品の棚を見れば一目瞭然ですが、通販に向いている「説明が必要とされる商材」ですら、現在は実店舗で手に取ることができるという実情があります。
言い換えれば、リピート通販で勝ち残るためには、通販に向いている商材を見極めるだけではなく、既存の店舗販売商品を含めた市場でのシェア、独自性を追求しなければならないのです。
7. 「紙媒体などのオフライン広告への出稿は効率が悪い」という誤解
健康食品や美容品をはじめとするリピート通販のトップ企業の多くは、紙媒体やテレビといったオフライン広告への出稿を行なっています。
WEB広告はオフライン広告に比べて効率よく新規顧客を獲得できるという漠然とした先入観を持つ広告担当者に出会うことがありますが、もっとも優先すべきは、自社の商品のターゲット層に合った媒体を選ぶことです。紙媒体の効果的な出稿に関しては、ある種の「コツ」が存在するのですが、これについては第5章でくわしく解説しましょう。
8. 「メーカーとしての知名度や認知度、ブランド力があれば売れる」という誤解
ブランドは、リピート通販においても消費者の商品選択に対してプラスの影響を与えます。たとえば、同じ商品カテゴリー内で商品同士を比較する場合は有利に働くことがありますし、消費者がブランド名を頭の中で想起して直接インターネットで検索するような場合もあります。
一方、ナショナルブランドであることや有名メーカーとしての知名度や認知度だけで、商品が売れ続けることはありません。消費者がWEB広告で比較するのは、効果効能をはじめとする商品価値そのものです。そう考えれば、商品のクオリティを上げて顧客から支持されることによる自然発生的なブランド形成を目指すほうが、正しいアプローチ方法といえます。
9. 「投資コストは1年以内の回収が必須」という誤解
リピート通販ビジネスへの参入当初は、「できるだけ短期間で投資コストを回収したい!」と考えることでしょう。それは間違いではありませんが、目標とする売上規模に合った販売戦略があり、必ずしも事業開始1年以内での黒字化に固執する必要はありません。
たとえば、目標の売上規模によっては、数年後の黒字化を見越して、参入市場での販売シェアを早期に確保することを優先する場合もあります。
また、そもそも広告による新規獲得が難しくなっている現在では、新規顧客獲得にかかったコストを1年以内に回収できるのは、稀といえます。そうしたことを踏まえて、しかるべきタイミングでの黒字化を目指すほうがはるかに現実的です。
10. 「効率をとことん追求すれば成功できる」という誤解
最近では、さまざまな分析ツールを使うことで、獲得効率の良い施策を選択しやすい環境が整いつつあります。ただしリピート通販事業においては、拡大性(スケールメリット)を追求したり、累積で目標CPOをクリアするという考え方が不可欠です。
設定した目標CPOをクリアした媒体だけを同じ規模で実施し続けるだけでは、徐々に新規顧客の獲得数がシュリンクし、売上拡大が望めなくなるケースがあります。これについては、第3章「商品戦略」の節で詳述しましょう。
書籍紹介
D2C時代のリピート通販ビジネスを徹底解説。リピート通販市場の現状から、成功のポイント、商品戦略、事業計画、広告戦略、CRM戦略、データ分析、組織・プラットフォームの構築までを網羅。業界のプロが教える、強固なリピート顧客を獲得する手法を提供。
顧客に選ばれ続ける強いリピート通販事業の作り方
著者:梅田哲平/山崎雄司/中居隆
定価:1848円(1680円+税10%)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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