慎重にならざるを得ない新規成分の利用
今回の改正は、健康被害情報の報告やGMP管理の義務化が注目されたが、そのほかにも届出者にとって注意すべき施策が盛り込まれた。新規の機能性関与成分(新規成分)への対応もその1つだ。
健康食品に用いる原料の製造会社から、次々と新たに開発された成分が販売されている。一例を挙げれば、「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」は業界関係者の注目を集めると同時に、その効果をめぐり疑問が寄せられるなど話題をさらった。
機能性表示食品の機能性関与成分を見ると、毎週のように新規成分が登場している。多数の健康被害を出した小林製薬の製品では、新規成分の「米紅麹ポリケチド」を配合していた。紅麹原料の問題は、製造・品質管理の難しさも含めて新規成分が抱えるリスクを突き付けた。
日本は先進国の中で、新規成分の規制が極めて緩い。新規成分・食品を規制するため、EUではノーベルフーズ、米国では全ての食品を対象としたGRASとサプリメントを対象としたNDIの各制度を設けている。これに対し、日本は食品衛生法の規制がベースとなる。成分に着目した仕組みとして、指定成分等含有食品の枠組みを設けているが、対象の成分はわずか4種類にすぎない。
新規成分については食経験が乏しいため、各種の安全性試験を実施して安全性を評価する必要がある。しかし、機能性表示食品の届出資料を見ると、わずかな喫食実績や食経験を根拠に、「安全性を確認した」と報告しているケースが目につく。
本来ならば、十分な食経験があると言うために必要な期間を定めることが必要だが、今回の改正では、消費者庁が慎重に確認するという施策にとどめた。
改正により、新規成分による届出については、必要に応じて事前チェックの段階で、医学や薬学などの専門家に意見を求める仕組みを導入する。確認に時間を要することから、届出資料の提出期限を従来の販売前60日から120日に延ばす特例を設け、これを要件化する。
販売前60日が120日となるが、届出者が注意しなければならないのは“営業日”でカウントすることだ。これまで業界内では、60日とは暦どおりにほぼ2カ月を意味すると捉える傾向にあったが、食品表示基準の改正により、土日等を除く営業日ベースの60日であることを明確化した。
このため、届出を予定している通販会社では、届出から公表(公表されると販売を開始できる)までにかかる期間が従来の約1.5倍となることを想定し、事業計画を立てる必要がある。新規成分による届出で特例が適用される場合は、半年ほどかかる計算となる。
「製法の変更も新規成分」の声も
新たな施策の対象となる新規成分とは、届出の実績がない機能性関与成分を指す。消費者庁では、基原原料の由来の違いや、複数成分の組み合わせの扱いなどについて検討するとしている。さらに、業界関係者からは「製法を変更すれば新規成分となるはず」(大手メーカー)という声も聞かれる。
新規成分の定義が狭くなると、消費者庁の確認をすり抜ける事例が増えるのは必至。由来、製法、複数成分の組み合わせなどが異なる場合には新規成分と位置づけることが、健康被害を防ぐ上で必須になると考えられる。
新規成分に関する施策は来年4月1日に施行されるため、消費者庁ではそれまでに詳細を示す予定だ。
これまで、原料メーカーから「新規開発原料」「オリジナル成分」として新規成分を提案された通販会社では、差別化を狙って飛びつく傾向が見られた。しかし、今後はデメリットも踏まえて検討する必要がある。
新規成分は既存のものと比べて、健康被害を生じさせるリスクが高いこと、消費者庁による事前チェックが長期化すること、場合によっては注意喚起表示の追加が必要となることなどを考慮し、慎重に判断する姿勢が届出者に求められそうだ。
更新制の導入は届出者の意識を変える
改正の柱の1つに、届出者による順守事項の自己点検と報告も挙げられる。消費者庁は“更新”という言葉を用いていないが、更新制の導入に該当する。機能性表示食品を販売する通販会社にとって、極めて重要な施策となる。
対象となる順守事項は、(1)新たな科学的知見が得られた場合の消費者庁への報告、(2)サプリメントを対象としたGMP管理、(3)健康被害情報の収集・報告――など。これらの順守状況について届出者は自己点検し、消費者庁へ報告しなければならない。
最初の報告は、届出番号が付された日から1年後。それ以降は、前回の報告から1年ごとに報告する。
自己点検と報告が行われなかった場合は、順守事項を満たさないことになり、機能性をうたえなくなる。1年ごとの更新を機能性表示食品の要件とし、履行されない場合には消費者庁ウエブサイトから削除できるようにする。
業界関係者からは、「戦々恐々としている」「届出件数が多い企業にとっては負担が大きい」という声が聞かれる。このように届出者には不評だが、その一方で、届出自体が“ゴール”と考える風潮があり、いったん公表されると、その後は放置したままの届出者が多いという現状にある。
更新制の導入は、そうした届出者の意識を大きく変えることになる。また、届出者が“行方不明”であるにもかかわらず、消費者庁ウエブサイトで公表され続けている届出の削除が可能となる。これにより、一般消費者が最新情報のみを把握できるようになるというメリットも期待される。
(了)
(木村 祐作)
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