健康寿命が重視される中、スマートフォンを通じたシニア向け健康促進アプリの開発・活用に企業が乗り出している。ウォーキングによる歩数やカロリー消費量をはじめ、睡眠や血圧などを記録して健康管理につなげることが目的だ。目標達成で貯まったポイントは、買い物やイベントにも利用が可能。フレイル(健康な状態と要介護状態の中間の段階)予防を推奨する国や自治体も企業と組み、実証実験に乗り出している。
ポイントが貯まるサントリーウエルネスの会員アプリ
健康食品などを扱うサントリーウエルネスは、2023年9月に会員組織「サントリーウエルネスクラブ」を立ち上げ、シニア向け健康促進アプリ「Comado(コマド)」をリリースした。商品の定期購入をはじめ、アプリを開いたり、歩いたり、サプリ飲用日記をつけるなどの「健康行動」によりポイントが獲得できる。
貯まったポイントは1ポイント=1円として、サントリーグループが扱う健康食品やスキンケア商品などの購入に使える。
「Comado」は専門機関の監修のもと、「いつもより長く歩く」「朝食を食べる」といった、生活の中で簡単に取り組める健康行動の習慣化をサポート。プロのインストラクターによる簡単なフィットネスレッスンの配信や、健康に関するクイズや占いなどのコンテンツをそろえる。さまざまなイベントへの招待やプレゼント企画なども用意されている。
リリース1年後の24年8月末には、アプリのダウンロード数が60万人を突破。コンテンツや機能を拡充し、各種体験を通して“つながり”を提供するプラットフォームとしてさらなる進化を目指すという
新コンテンツとしては、23年12月に開催したユーザー参加型オンラインイベント「クリスマスパーティー」が好評だったことに着目。「ハロウィンパーティー」やサントリーホールでの「 クリスマスコンサート」など、ユーザー参加型企画を実施する。
さらに、人気音楽グループ「DREAMS COME TRUE(ドリカム)」とコラボしたプロジェクトを24年8月より開始。「ドリカム」が「Comado」の公式アンバサダーに就任し、ダンス動画の投稿などユーザー一人ひとりを応援するコンテンツを発信する。会員の投稿ダンス動画を「ドリカム」の全国ツアーのステージスクリーンで公開するなど、さまざまなコラボ企画を手がける。
10月からは、ユーザーの行動履歴に基づきおすすめのコンテンツを提案するレコメンド機能も導入する。
「Comado」のダウンロード数は1年間で60万人を突破(出典:サントリーウエルネス)
「楽天シニア」はウォーキングでポイント獲得
楽天モバイルは2019年6月から、歩数計算により健康を管理する健康生活応援アプリ「楽天シニア」の提供を開始。1日に4,000歩を達成し、薬局など加盟施設に置かれたチェックイン端末にスマホをかざすと「楽天ポイント」が貯まる「ウォーキングチェックイン機能」サービスを展開している。
アプリにはその後も健康管理機能(体重、睡眠時間、血圧、心拍数の記録)をはじめ、趣味や遊び、運動、音楽、健康講座など、多種多様なイベントに参加できる「イベント機能」などを追加してきた。
3周年を迎えた22年7月には、新機能の「毎日歩こうミッション」を導入。1日4,000歩以上でもらえるスタンプを7個集めると、施設にチェックインしなくても3ポイントの楽天ポイントを獲得できるようになった。徒歩圏内にチェックイン施設がないという利用者の声に対応したという。
23年9月には、ダンスクリエイターのSAMさんを「楽天シニア」のアンバサダーに起用。アプリ内でのコラボコンテンツの提供や、地方自治体、企業とのタイアップキャンペーンなどを手がける。また、新規の有料コンテンツとして、24年5月からはダンスやヨガのレッスンプログラムを学ぶ定額プランを開始している。
毎日歩くことで楽天ポイントが得られる(出典:楽天モバイル)
ソフトバンクの「うごくま」はシニア向けスマホに搭載
全国の自治体と連携し、高齢者のフレイル予防に向けた実証実験を始めた企業もある。ソフトバンクは、シニア向け「かんたんスマホ」シリーズに運動習慣サポートアプリを搭載しようと動き出した。
ウォーキングの習慣化を応援するシニア向けアプリ「うごくま」を開発し、22年8月から23年1月にかけて、埼玉県ふじみ野市および鳥取県江府町と共に実証実験を開始。各自治体に設けたスマホ教室の参加者に「うごくま」を一定期間利用してもらい、そこから集計した歩数データやフレイルチェックデータをもとに効果検証を行った。東京都東村山市も24年4月に実証実験を始め、8月からは第2期実証実験を開始している。
「うごくま」には歩数・歩行距離・消費カロリーの計測機能や、フレイルQ&Aなどを搭載。目標達成状況やフレイルチェックの結果などに応じてキャラクターの「うごくま」がコメントや励ましのコミュニケーションを行い、利用者の背中を後押しする。
「うごくま」アプリは機器メーカーではなく、ソフトバンクが主導して構築。自社で実施したスマートウオッチのモニターテストにおいて、シニアには細かい機能よりもアドバイスやコメント機能の方がはるかに好評だったため、機能は最低限に抑えた。代わりに数百種類の「うごくま」コメントを入れたという。
実証実験を経て、「うごくま」は23年3月にワイモバイルが発売した「かんたんスマホ3」に搭載。その後、24年7月発売の「シンプルスマホ7」でも利用できるようになった。
キャラクターがコメントで利用者の背中を押す(出典:ソフトバンク)
経済産業省の実証調査に参加した阪急阪神HD
阪急阪神ホールディングスはウェルビーイング阪急阪神、おいしい健康、日立製作所の各社と共に24年9月から、シニア層に向けて食事や運動を支援するサービスの実証調査を開始した。経済産業省が推進する「PHRを活用したユースケース創出に向けた実証調査」の事業者として採択された。
10月から12月にかけて、60歳以上を対象に、健康イベントやデイサービス、介護現場などにおいてPHR(健康・医療・介護に関する個人の情報)データを「PHRアプリ」経由で収集する。アプリは「献立・栄養管理支援アプリ」と「多職種情報連携サービスアプリ」の2種類。健康に不安を抱くシニアにイベントやデイサービスなどでアプリをダウンロードしてもらい、現場で使い方をサポートする。
利用対象は、運動や食事改善の必要性を感じている「働くシニア層」と、症状を悪化させて要介護にはなりたくない「フレイル予防・介護予防層」。アプリで収集したPHRデータをもとに、個人に合わせた体操やヨガなどのウェルネスプログラム、食材セットの宅配や料理教室、運動・食事支援といったサービスを提供する。
リアル及びオンラインで開催する健康イベントで管理栄養士や理学療法士などからのアドバイスを受けられるほか、必要があれば医師の診察を受けることもできる。デジタルとリアルを組み合わせたサービス展開により、シニアの健康につながる運動や食生活の継続化を図りたい考えだ。
最終的には、利用シニアのQOL(生活の質)や、事業者が提供するサービスへの反応、経済効果の創出力などを検証・評価する。
同社は実証事業を通じ、阪急・阪神沿線に住むシニア層の疾病予防や重症化予防をサポート。QOLやヘルスリテラシーの向上に加えて消費効果も生み出し、地域経済の活性化につなげる。25年度以降には、アプリやサービスを拡充するとともに健康維持・改善効果のエビデンスを蓄積し、関西から関東、さらに全国へのモデル展開を目指す。
まとめ
日本の医療・介護費は増え続け、2040年度には約94兆円に達する見込みという。費用の制御は社会保障制度を継続・充実させるうえで大きな課題であり、国は健康寿命延伸やフレイル予防を喫緊の課題としている。そのような背景の中、拡大が確実視されるシニア市場に商機を見出す企業は年々増加。行政や自治体と組むことにより、ビジネスチャンスはさらに広がると思われる。
今後もアプリなどデジタルを活用したシニア向け健康促進事業は増えていきそうだが、重要なのは対象となるシニア層の安全性と満足度を考慮することだ。提供サービスには食品やサプリメントの定期購入といった消費活動も含まれるため、企業は取引において利用者の意思確認を順守するなど十分な注意を払う必要がある。
執筆者/渡辺友絵
【記者紹介】
渡辺友絵
長年にわたり、流通系業界紙で記者や編集長として大手企業や官庁・団体などを取材し、 通信販売やECを軸とした記事を手がける。その後フリーとなり、通販・ECをはじめ、物 流・決済・金融・法律など業界周りの記事を紙媒体やWEBメディアに執筆している。現在 、日本ダイレクトマーケティング学会法務研究部会幹事、日本印刷技術協会客員研究員 、ECネットワーク客員研究員。
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