2024年は、紅麹問題を発端とした機能性表示食品制度の見直し、厚生労働省が所管していた食品衛生業務の消費者庁への移管など、食品分野の行政動向が目立った。これに加え、改正景品表示法の施行や、定形郵便の値上げなども行われた。通販事業者が押さえておきたい2024年の主な行政動向を振り返るとともに、2025年の動向予想を報告する。
10月から改正景表法が施行
今年の重要な動きの1つに、改正景品表示法が10月1日に施行されたことがある。改正の目玉は、確約手続の導入。確約手続は、法違反の疑いが持たれた事業者と行政が合意すれば、事業者が自主的に表示を是正するという取り組みだ。
確約手続が行われた場合、措置命令や課徴金納付命令は出されない。事業者にとってもメリットがあるが、行政にとっては迅速に不当表示が疑われる案件を処理することが可能となる。ただし、過去10年間に行政処分を受けた場合や、悪質な場合は対象外となる。
今回の法改正により、課徴金制度の見直しも行われた。売上額の推計規定を設けて、調査の迅速化を図った。中小企業などの場合、売上データの一部が抜け落ちていることがあり、調査の長期化を招いていた。このため、事実関係を把握できない期間の売上高を推計して、課徴金納付命令を出せるようにした。さらに、繰り返して違反した事業者を対象に、課徴金額を割り増す措置を設けた。課徴金の算定率は3%だが、10年以内に違反を繰り返した事業者には1.5倍の4.5%が適用される。
日本郵便、10月から定形郵便を値上げ
定形郵便の値上げも話題となった。総務省は6月13日、25g以下の定形郵便物の上限料金を引き上げるために省令を施行した。これを受けて、日本郵便は10月1日から、定形郵便物やレターパックなどの料金を値上げした。
定形郵便物は25g以内84円、50g以内94円がそれぞれ110円となった。定形外郵便物(規格内)は50g以内が120円から140円に、100g以内が140円から180円などに上昇。レターパックプラスは520円から600円となった。
また、通販業界では物流の2024年問題への対応に追われる1年となった。そうしたなか、国土交通省は10月から再配達率削減緊急対策事業を開始。消費者がネット通販の注文時に、「置き配」「宅配ロッカーの利用」「コンビニ受け取り」などを選択すると、ポイントが還元される。国は1回の配送につき、最大5円を支援する。
機能性表示食品制度を抜本改正
2024年の春先は、紅麹問題が社会的な関心を集めた。これを機に、機能性表示食品制度が抜本改正された。その第1弾として9月1日から、(1)健康被害情報の収集・報告の義務化、(2)GMPによる製造管理の要件化、(3)義務表示事項の表示方法・方式の見直し――が施行された。
今回、消費者庁は従来のガイドラインに基づく制度運用から、法令化へと大きく舵を切った。届出制を維持するものの、要件を満たさない場合には、機能性表示を禁止できるようにした。
紅麹問題によって目立たなかったものの、特定保健用食品(トクホ)制度でも重要な動きが見られた。消費者庁はトクホの復活を目指して、個別評価型・疾病リスク低減表示のトクホの活性化に注力。その第1号として、マルハニチロから「心血管疾患になるリスクを低減する可能性」を表示できるDHA・EPA入りフィッシュソーセージが登場した。さらに、9月20日には「特定保健用食品の表示許可等に関する部会」の初会合を開き、新たな申請品目の審査に入った。
CBDの新規制が12月12日施行
ヘルスケア分野では、大麻取締法と麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)の改正によるCBD(カンナビジオール)に関する規制の見直しも話題となった。2024年12月12日に施行される。
改正により、大麻取締法の部位規制(食品に使用できるのは「種子」と「成熟した茎」に限定)から、麻向法の成分規制へ転換する。これとともに、大麻草由来CBD製品のTHC(テトラヒドロカンナビノール)の残留限度値を設けた。限度値を超える量のTHCを含有する製品は「麻薬」に該当し、取り締まりの対象となる。
食品表示制度の見直し作業がスタート
2024年は、前述した機能性表示食品制度の見直しやトクホの新たな取り組みに加え、食品分野の取り組みが目立った1年となった。
4月1日、厚労省所管の食品衛生業務が消費者庁へ移管。これにより、食品添加物、残留農薬、器具・容器包装などの規格基準の設定や、培養肉や保健機能食品の調査研究などの業務は、消費者庁が行うこととなった。トクホの審議機能についても、内閣府の消費者委員会から消費者庁へ移管された。
食品表示制度の見直しも本格化してきた。消費者庁の食品表示懇談会は3月7日、食品表示の見直しの方向性を取りまとめ、国際ルールとの整合性を図る方向性を示した。具体的な検討は2つの分科会で行っている。
「個別品目ごとの表示ルール見直し分科会」が5月29日にスタートし、個々の食品ごとに設けている個別表示ルールを横断的ルールに統合する方向で検討を進めている。また、「食品表示へのデジタルツール活用検討分科会」を10月1日にスタートさせ、容器包装に表示すべき情報とデジタルツールで代替できる情報の整理などに乗り出した。
アレルギー表示制度の見直しも行われた。消費者庁は3月29日、表示推奨品目に「マカダミアナッツ」を追加するとともに、「マツタケ」を削除した。10月17日には、表示義務品目に「カシューナッツ」を追加する方針を公表した。
2025年10月、ふるさと納税のポイント付与禁止に
ここからは、2025年に予定されている主な行政動向を見ていく。通販業界にとって重要な動きとして、ふるさと納税制度の見直しがある。
総務省は2025年10月から、地方公共団体がポイントを付与するポータルサイトを通じて寄附を集めることを禁止する予定。これに対し、業界内では賛否が分かれている。楽天グループは、「ポイント付与禁止の告示は、民間原資のポイントまでも禁止し、地方自治体と民間の協力、連携体制を否定するもの」として反対し、署名活動を展開している。
カスタマーハラスメントをめぐる動きも、コールセンターを活用する通販業界にとって重要となる。全国の自治体の先陣を切って、東京都は2025年4月1日、カスハラ条例を施行する。罰則はないものの、企業がカスハラ対策に本腰を入れるきっかけとなりそうだ。
2025年6月以降、無許可の「経口補水液」表示が法違反に
ヘルスケア分野では、2025年4月1日に施行される機能性表示食品制度の改正“第2弾”が注目される。更新制の導入や新規成分への対応など、通販会社の実務や販売戦略に関わる新たな施策が待ち受ける。
特別用途食品については、病者用食品「経口補水液」の制度が2025年6月1日から本格的にスタートする。「経口補水液」とうたう場合は病者用食品の許可を得ることが必須で、これまでスポーツ飲料などで「経口補水液」と表示した商品が散見されてきたが、来年6月1日以降は健康増進法違反に問われる。
デジタル取引の被害防止へ法改正の動き
2025年には、通販業界に大きな影響を及ぼす動きが出てきそうだ。内閣府の消費者委員会は「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」で、デジタル取引をめぐる消費者トラブルへの対策を検討中。レコメンデーションやターゲティング広告といったアテンション・エコノミー、消費者を惑わすダークパターンへの対応などが重視されている。
消費者委員会は2025年の夏までに結論をまとめ、消費者庁へ答申する計画だ。これを受けて消費者庁では、消費者契約法や特定商取引法の改正、さらには新法も視野に入れつつ、対策を講じると予想される。
この動きと並行して、消費者庁も「デジタル社会における消費取引研究会」を設置し、デジタル技術を用いた悪質商法への対応を模索している。
(木村 祐作)
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