「楽天市場」がかつてないほどの大きな転換期を迎えている。宅配クライシスにより、ここ数年は年末年始に物流が麻痺する状況に陥った。物流を根本から見直さないと、これからの大きな成長が見込めない。こうした状況を打破するために、楽天(株)の三木谷浩史社長兼会長は1月に自社配送ネットワーク「ワンデリバリー」構想を掲げた。7月に開催された「楽天EXPO」では、ワンデリバリー構想の概容が明らかにされ、7月末には楽天市場の店舗に向けて「ワンデリバリー」への対応を含めた新たな機能変更の通知が出された。実行フェーズに突入した楽天市場最大級のイノベーションに迫った。
「ワンデリバリー」に向けた準備が着実に進行中
「配送」「販売」で大きな変革
楽天市場は、直販部門である「Rakuten Direct」などのサービスを除き、約4万5000の出店店舗で構成する大型ECモールだ。店舗のECサイトは、自社で自由にデザインでき、販売スタイルもモールの枠内で個性を出すことができる。これは店舗側のメリットだが、運営者側の楽天が枠組みを変更すると、全店舗側に対応が求められ、負担が大きくなるというデメリットもある。「楽天EXPO」で打ち出されたのは、配送と販売面の変更というかつてないほどの大きな改定で、楽天と店舗にとっては、これまでにない高いハードルが待ち受けているが、これを乗り越えれば、ECモールとして大きな成長が見込める。
楽天市場の試金石ともいえる今回の改正は、大きく分けて「配送」と「販売」、そしてそれらにともなう「料金改定」の3つに別れる。
配送の改正は、包括的な物流サービス「One Delivery(ワンデリバリー)」の実現に向けた取り組みだ。ワンデリバリーでは、注文から商品をユーザーに届けるまでを楽天側のシステムに取り込み、楽天が物流を一元管理する。
店舗の商品を楽天の倉庫で保管して物流を効率化し、注文からのスピード配送や、受取日時の指定・変更、置き場所指定・変更などにもリアルタイムで対応し、ユーザー側の利便性を向上する。
全商品の倉庫保管を「楽天スーパーロジ」で受託へ
ワンデリバリーの核となるのは、商品保管から発送までを代行する物流サービス「楽天スーパーロジスティクス」と、独自運営の配送サービス「Rakuten─EXPRESS」だ。
楽天では全店舗の商品を「楽天スーパーロジスティクス」で保管することを目指す。18年に千葉県流山市に、19年には大阪府枚方市に、新たな大規模物流センターを稼働させる。楽天コマースカンパニー マーケットプレイス事業 市場企画部の海老名雅貴氏は「全店舗の全商品を保管するには、どれだけのスペースが必要なのかという試算はできている。目標は全店舗の商品を受託すること。その上で、エリアでの需要予測によって荷物を最適に配置する」と話し、全店舗が「楽天スーパーロジスティクス」を利用できる体制を整えているとした。9月1日から同サービスの料金体系は新たなものとなり、店舗側にも価格メリットを提供する。
3PLと提携も
ただ、すでに自社で物流倉庫を持っている店舗や、3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)と自社の物流システムを構築している店舗などもあり、全店舗が「楽天スーパーロジスティクス」を利用するとなると、弊害が生まれてくる可能性もある。この点について海老名氏は「店舗によって状況は異なるため、個別に話をしたい。場合によっては3PLと提携する可能性もある」と話し、ワンデリバリーのシステムの枠組みのなかに、既存の物流システムを組み込み、対応するケースも想定していた。
また、大型家具や冷凍食品などの倉庫保管については、「現在は検討段階」としながら、「今後は是非、取り組んでいきたい」(海老名氏)と話し、将来的には冷凍食品や大型家具などの倉庫管理も「ワンデリバリー」に組み込まれる可能性もあるようだ。
今秋から楽天スーパーロジ利用店舗の荷物を楽天EXPRESSで配送へ
ワンデリバリーのラストワンマイルを担う独自配送システム「Rakuten─EXPRESS」は、現在「楽天ブックス」と「Rakuten Direct」の配送に限定されているが、18年秋ごろから「楽天スーパーロジスティクス」を利用する店舗の荷物も運ぶことになる。また、現在の対象地域は23区のみだが、年内には関西の主要都市に拡大し、将来的には全国での展開を目指す。
ワンデリバリーでは、配達の経過も把握できるようになる予定で、海老名氏は「現在でも、大手3キャリアの配送状況は把握できるようになっている」と話し、将来的にはこうした仕組みを「Rakuten─EXPRESS」にも反映させる
[embed]https://www.youtube.com/watch?time_continue=208&v=vDtvqOPEccA[/embed]
コミュニケーションの多様化とレコメンド機能強化へ
「R-Mail」→「R-Message」にシフト
販売面での改定は、大きく分けるとチャット機能などのコミュニケーション手段を多様化し、レコメンド機能を強化することの2つ。全店舗で「チャット機能」を標準設置するほか、これまでのメールマーケティングサービス「R-Mail」を、配信業務の負担を軽減するシナリオメールと、楽天側から自動でレコメンドメールを送信する「R-Message」にシフトする。
「R-Message」では、商品購入者へのお礼メールから、おすすめ商品の案内、購入後半年以上経過した人に向けた買い換えの案内など、簡単な設定でシナリオ通りにメールを送ることができる機能となる。またユーザーの関心に応じたレコメンドメールも、楽天から自動で送信される。レコメンドメールは楽天が配信するため、店舗独自で配信するに比べて、これまでリーチできないユーザーにもリーチが可能になる。
9月下旬から「R-Chat」を標準実装
チャット機能「R-Chat(アールチャット)」は、すでに100店舗が導入しており、9月下旬から全店舗に標準実装される。実店舗のように、ユーザーからの商品の問い合わせなどに、店舗がリアルタイムで対応する。
レコメンド機能の強化として、アフィリエイトの成果報酬体型を変更。これまではアフィリエイト広告を実施した場合、アフィリエイターへの成果報酬は一律で成約金額の1%だったが、商品ジャンルごとに成果報酬率が設定した。
「ジュエリー・アクセサリー」「食品」「ファッション」は8%、「医薬品」「ダイエット・健康」「美容・コスメ・香水」などは5%、「旅行・出張・チケット」「花・ガーデン・DIY」などは4%、「日用雑貨・文房具・手芸」「おもちゃ・ゲーム」「本・雑貨コミック」などは3%、「家電」「パソコン・周辺機器」「CD・DVD・楽器」などは2%に変更され、アフィリエイターにとってより大きな成果が見込めるようになった。
成果報酬率が上がった一方、成果認定の期間はこれまでの「クリックから購入まで30日間」から、「クリックから24時間以内に買い物かごに投入、かつ購入まで89日間」に変更され、レコメンドの精度が反映される体系になった。
大きな変化に店舗から悲鳴の声も
こうした物流と販売の改定以外にも、「楽天市場」商品画像登録ガイドラインの義務化や、店舗の決済手段を統一した決済プラットフォーム「楽天ペイ(楽天市場決済)」への移行など、店舗にはさまざまな新サービスへの対応が求められている。
さまざまな変化に対し、ある程度スムーズに対応できる店舗もあれば、対応が困難な店舗もある。一部の店舗からは、大きな変化に対する悲鳴の声も聞こえてくる。ただ、今回のさまざまな改定の背景には、社会環境の変化に楽天市場全体で対応し、トータル的に店舗にもメリットを提供することがある。めまぐるしく変化する社会環境に対応できなければ、待っているのは「衰退」の2文字。約4万5000店舗が入居する大規模ショッピングモールのリニューアルは、始まったばかりだ。
(山本 剛資)
▽関連記事
■楽天が物流でAmazon超える?自社配送網を2年以内に構築へ
■自社配送の仕組みを拡大、楽天「ワンデリバリー」構想が明らかに
■ECが構築すべき商品撮影環境とは?…売れる商品画像講座(3)
この続きは、通販通信ECMO会員の方のみお読みいただけます。(登録無料)
※「資料掲載企業アカウント」の会員情報では「通販通信ECMO会員」としてログイン出来ません。