ゴンウェブコンサルティングでは、7つの工程を経てECサイトのリニューアルを進める。このうち、現在のサイトの強みや弱みを把握したうえで、誰に、何をアピールしていくのか考える「2.戦略立案」が要になる。そのために、アクセスログの解析などで、現状のサイトを綿密に調べる「1.環境調査・サイト分析」が重要になる。
ターゲットや商品を見直す
ゴンウェブコンサルティングでは、Google Analyticsなどを使いながら、次のような順序で『近江牛.com』の環境調査・サイト分析を進めた。
《1》の「どんな検索キーワードで『近江牛.com』に来店したか」で検索キーワードを抽出したあと、《2》の「ユーザーをモデル化/グループ化」に進む。ユーザーのモデル化/グループ化とは、一言でいえば、“同じ興味を持つのユーザー”をまとめていく作業だ。『近江牛.com』のサイトリニューアルのディレクションを担当した村上佐央里さんはこう話す。 「『近江牛.com』へ来店してきた人たちが、〔近江牛〕、〔すき焼き〕、〔焼肉〕、〔国産牛〕、〔贈答品〕などさまざまな検索キーワードから、『近江牛.com』に来られています。もちろん、近江牛に限らず、〔松阪牛〕、〔神戸牛〕といったブランド牛を探している人もいます。このように、ユーザーがサイトに訪れる検索キーワードから目的を分析して、〔近江牛〕が目的のグループ、〔すき焼き〕のお肉が目的のグループ、〔贈答品〕が目的のグループなどに分けていきます」 続いて、グループ化したユーザーの市場規模と市場獲得率をチェックをする《3》の「ユーザーグループごとの市場規模と市場獲得率をチェック」は、〔近江牛〕が目的のグループ、〔すき焼き〕のお肉が目的のグループ、〔贈答品〕が目的なグループなど、それぞれのグループごとに市場規模と市場獲得率をチェックしていく。簡単にいえば、「〔近江牛〕よりも〔贈答品〕のほうが市場規模は大きいが、市場獲得率は低い」というようなことを分析する。そして、《4》「ニーズ(市場規模)ごとに、どのぐらいの購入見込みがあるかをチェック」へと進めていく。その調査結果は以下の図の通りだ。
将来性のある検索キーワード
さらに、松阪牛、神戸牛、山形牛など、近江牛以外のブランド牛を扱っているお店などを《5》の「『近江牛.com』と競合になるネットショップを比較分析」に含め、競合店よりも秀でた状況などを分析していく。 「『近江牛.com』の場合、〔近江牛〕という検索キーワードでアクセスした人は、現在のところ購入につながる人が多くいらっしゃいます。しかし、すでに市場占有率が高いため、このキーワードで集客し市場規模を広げていくには限界があることも意味しています」(村上さん) このように、グループ化した検索キーワードをひとつ、ひとつ精査して、今後、主力になるであろう検索キーワードを調査していく。現時点で“稼ぎ頭”の検索キーワードも、やがては成熟期を迎え、いずれは衰退していく。だからこそ、「今はまだお店に誘導しきれていないが、今後、購入見込みが十分にある検索キーワード」を、競合店の状況も確認しながら“先取り”しておかなければならないのだ。
『近江牛.com』の場合、松阪牛、神戸牛など「高級なお肉を探している人」のグループ向けのキーワードや、ギフト券、結婚式、二次会をはじめ「ギフト用のお肉を探している人」のグループ向けのキーワードなどが、今後、有力になるだろうという調査結果がまとまった。 「『ギフト用のお肉を贈るから、いつもより高級なお肉を選びたい』と思うユーザーを主力ターゲットにして、彼らに訴えかけるサイトを考えながら、リニューアルを企画・制作しました。ただし、ユーザーは、高級なお肉を探している人ばかりではありません。自宅用のお肉を買いたい人もいれば、すき焼き、しゃぶしゃぶなど商品ジャンル別からお肉を選びたい人もいます。こうした嗜好の人が訪れたときも、スムーズに買い物ができるサイトを目指しました」(村上さん) この基本方針を具現化したのが、リニューアルしたトップページだ。贈り物を連想させるイメージ写真の下には、「お試し近江牛」、「近江牛すき焼きセット」などが並んでいる。
戦略が売り上げに直結した
改めて、完成したサイトを見てほしい。 トップの最も目立つ上部に贈答用のお肉の写真を表示し、ギフト用、高級感などを演出している。ここで注目したいのは、「贈りたいおいしさをお求めやすく」というキャッチコピーだ。 「近江牛は高級なお肉です。けれど、松阪牛や神戸牛を探している人から見れば、競合店の調査から20~30%安いので割安感があるんです。それをキャッチコピーとして強調することで、ターゲットユーザーにとってのお手頃感を演出し、セールスポイントのひとつにしました」(村上さん) また、メニューバーを見ると、「ギフト用商品」と並列で、「ご自宅用商品」、「サカエヤのこだわり」などが並んでいるのが分かる。そのため、初めて来店した人でも、ギフト商品だけではなく自宅用のお肉も扱っていることや、何かしらのこだわりを持って販売しているお店なのだと、すぐに分かるようになっている。
デザイン自体は、リニューアル前のサイトに比べてかなりすっきりしたが、これは、最近のECショップの“王道”なのだという。 「今のサイトは一昔前よりも、余白を活かしたデザインになっています。『近江牛.com』なら、ページ上部の『お試し近江牛』というバナーは、他のバナーより余白を多めにとって強調しています。このように、メリハリをつけて見せれば、お客さまにとっても“お店の主張”が見えて、何からクリックすればいいのか即座に分かるメリットがあります」(村上さん) リニューアル後の平均売り上げは、前年比132%。しっかりとした調査分析により、誰に、何を売っていくのかという戦略の結果だ。新しいサイトについて、『近江牛.com』の店主・新保さんはこう話す。 「ゴンウェブコンサルティングは、修繕の必要だったボロ家を、基礎工事がしっかりした家(サイト)にしてくれました。大切なのはその後。建てた家に“ぬくもり”を吹き込むのは店主にしかできません。良いお店、成功しているお店ほど、商品力と人間力のバランスがいい。ぼくのお店も今まで以上にその両方を追求し、お客様とのつながりを大切にしたいと思います」
供給過剰な今こそ、新たな市場を開拓
2010年末現在、日本国内におけるインターネット利用率は約80%※と、高齢者と小さな子ども以外、ほぼすべての人がネットを使っている。現在、国内では、これ以上飛躍的なインターネット利用率の増加は望めない。 ※総務省「通信利用動向調査」より しかし、ECサイトの出店数そのものは、年々増加傾向にある。ネットの利用者は増えないのに、競合店はどんどん増えているのが現状なのだ。 「しかも、楽天市場では、1店舗あたりの売り上げは横ばいなのに、1回あたりの平均購入金額は2008年の7800円から、2011年の6900円と、11%も減少しているデータがあります。つまり、その分、出荷数が増え、忙しくなっているということです。この状況は、モールに限らず、独自ドメインのECサイトでも同様だと思います」(権さん) こんな供給過剰な時代に突入した今だからこそ、『近江牛.com』のリニューアルのように、今まで以上に、自社の強みを見極めたうえで、誰に、何を売っていくのか明確にして新しい市場を開拓していかなければならないのだ。 「右から左にモノを売る小売りは、ますます厳しくなっていくと思います。今後は、ECサイト=小売りという枠にとどまらず、ECサイトで見つけた新しいニーズを開拓したり、自分たちにしかできない新しい役割りを見い出すことが求められます。いうなれば、Web2.0ならぬECサイト2.0という段階にきていると思います」
※ ※ ※
プロの視点を取り入れてネットショップを分析すると、店主も気づかなかった強みや弱みを改めて確認でき、今後、誰に、何を訴えていけば良いのか明確になる。中長期的な販売戦略を立てる意味でも、リニューアルなどのタイミングでプロの力を借りるのは、プラスに働く可能性が高いといえるだろう。(完)
(出典:ASCII.jp - Web Professional) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
近江牛.com http://www.omi-gyu.com/ 運営会社:株式会社サカエヤ オープン:1997年(創業1988年) 年商:非公開 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
★成功ネットショップ:『近江牛.com』(1) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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