ECサイトが海外展開するきっかけは?
そもそも、海外展開するECサイトは増えているのか。2012年2月に経済産業省が公表した電子商取引に関する市場調査によると、中国の消費者が日米両国のECサイトから購入した額は2331億円(日本から1096億円、米国から1235億円)で、2011年の同時期の調査では、日米両国からの購入額が2177億円(日本から968億円、米国から1209億円)と増加している。
海外向け多言語ネットショップ「マルチリンガルカート」の提供をはじめ、ECマーケティング、リサーチ、多言語翻訳など企業の海外進出を多方面から支えるWIPジャパンの百瀬道子氏によると、「EC向けのオープンプラットフォーム・EC-CUBEが登場するなど、海外向けのECサイトを構築する環境が整ってきた」ことによるECサイト増加も要因のひとつと考えられる。 では、国内市場で勝負してきたECサイトが、海外も視野に入れる。そのきっかけは何だろうか。 「『日本語サイトだけを運営しているのに、海外からの引き合いがたびたびある』『すでに問い合わせフォームやメールを使って手作業で海外に小売りしていた』などがきっかけになり、本格的に海外展開を図ることがあります。少なからず海外からの需要に手応えを感じていたEC事業者の海外展開は、比較的うまくいっています」 反対にうまくいかないのは、「海外をターゲットにすれば、市場規模が大きくなるから儲かるだろう」という“感覚的”な理由で、海外で売れそうな商品を探して、とりあえず英語サイトを作って販売するケースだ。 「海外展開を考えているEC事業者の方に、必ずお尋ねするのが『どういった商品を、どの国に売りたいと思っていますか』ということです」 なぜその商品を、海外の、しかも、その国に売りたいのか。ターゲットを明確にして初めて、どんなサイトを作るべきか、どうアピールすべきかなど、次にやるべきことが見えてくるからだ。 「例えば、漢字をデザインしたTシャツは『日本の漢字は外国人ウケしそうだ』と思いつきで海外展開しても、苦戦を強いられると思います」
信頼してもらうのは、時間がかかる
百瀬氏が強調するのが、販売商品や販売しているECサイトに対する“信頼の醸成”だ。 例えば、国内でデジカメを買うとき、見たことも聞いたこともないメーカーではなく、デジカメや知名度の高いECサイトで買いたいと思うのは、その方が安心感があるからだ。同じことは、海外展開でもある。 「どんなに日本国内で有名、著名な商品でも、海外での認知度が低ければ、そう簡単に人の心は動かない。このことは、念頭に置いた方がいいと思います」 つまり、海外展開を図るうえで、日本の文化や情報を共有していない人に、ゼロから商品の良さを伝え、ECサイトの知名度を高めるためには、多くの人に“安心”や“信頼”という情報を共有してもらわなくてはならないのだ。そのための時間、いわば信頼の下積み期間が必要になるというわけだ。
商品に対する情熱で競争者に勝つ
“安心”や“信頼”を勝ち得るための道具として「言語」は必要だが、実ははたいした問題ではない。社内でその国の言葉を話せる人が数人いれば事足りるし、いなければ人員を確保する、あるいは、翻訳のプロと何度もやりとりをしながら内容を詰めていけば済む話だからだ。 それよりも大切なのは、販売商品に対する思い入れだ。国内サイトでも、同じ商品を売る場合に、商品カタログをそのままコピーした文言なのか、販売主の思い入れのある商品説明文なのかで売り上げが大きく変わることはよくあるが、海外サイトでもまったく同じなのだ。
「特に海外でモノを売る場合、その国の事業者だけでなく、世界各国の事業者が競争相手になります。中国、韓国、台湾から発信しているEC事業者を見ていると、日本のEC事業者よりも『なにがなんでも売る!』というやる気、情熱が旺盛です。彼らと渡り合う意味でも、商品に対する情熱をこれでもか!とアピールするぐらいでちょうどいいのではないかと思います」 「どうしても、自分が広めたい!」という商品に対する思い入れだけは、代わりになる人は誰もいない。だからこそ、その想いを時間をかけて伝えていく姿勢が必要で、それがあれば、国境を越えて共感してくれる人が現れ、いつの日か、大勢の人が支持してくれる可能性があるというわけだ。 こうした情熱を支えてくれるのが、海外展開をサポートするコンサルタント企業や、SEOなどのテクニックだが、それだけに頼る姿勢では、成功しないのである。
海外向けECサイト要件項目 | 海外向けEC |
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1.物流 | 日本国外へ配送。商品によっては海外配送が困難なものがある。また、住所の仕様が日本と異なる(郵便番号がない、住所が非常に長いなど)。日本国内ほど物流環境が整っていない国が多い |
2.税金 | 仕向け先により関税・消費税・その他の税金が発生。国により制度が異なる |
3.通貨為替 | 日本円以外の通貨圏へ販売。通貨をまたぐ取引の場合、売り手/買い手のどちらかに為替変動のリスクが発生する可能性がある |
4.決済 | 国によって主要な決済方法が異なる。銀行振込や代引きは国際間では対応が難しい。日本の決済サービスのほとんどは海外へ対応していない |
5.マーケティング | 日本の文化・情報を共有しないターゲットへ販売。リーチできるメディア、前提となる知識が異なる |
6.言語 | 英語、中国語など日本語でないケースが多い。サイトのデザイン・顧客対応などでターゲットの言語に配慮する必要がある |
7.法律(現地法) | 日本の法令に従う部分、現地法に従う部分の両方がある |
物流、送料や税金などの問題を考えよう
海外でモノを売るときは、実務的な障壁についても、あらかじめ考えておく必要がある。 「なんといっても物流の問題です。多くの場合、商品は日本からコンテナなどで送り、現地到着後は個別配送になります。到着まで日数もコストもかかります。しかも、多くの外国は、日本ほど国内の物流環境が整っていないので、遅い、届かない、破損するなどのリスクがつきまといます」 物流の制約は、商材の制約にも直結する。すなわち、海外展開においては、痛みやすい冷凍冷蔵品や、壊れやすい商材などはあきらめざるを得ない。だから洋服や雑貨など、たとえ乱暴に扱われても、遅配しても品質に影響がない商材が選ばれるケースが多くなる。ちなみに、国際輸送で最もよく使われる小口輸送は日本郵便のEMSだが、そもそもEMSは、規定で冷凍冷蔵品は輸送できない。 また、「商品代金以外にかかるお金」の障壁もある。国際輸送ゆえ送料は高く、現地の関税などの税金も発生する。為替の変動リスクもある。こうした“経費”を積み上げていくと、販売価格は割高になっていく。 「漢字のTシャツ1枚を2000円で販売していても、海外で販売する場合は、送料や税金、為替リスクなどを加えると5000円近くになることがあります。現地でも、作ろうと思えば漢字のTシャツは作れるわけですから、それら競合店に、『到着に何週間もかかるうえに、現地で買うより何倍も高い商品』が本当に勝負できるのか、しっかりと見極めておくべきでしょう」 物流の問題、コストの問題と実務的な問題は山積みだが、それをひとつひとつ解決していく粘り強さと、なにより、商品に対する情熱が海外展開を成功に導くのである。
(出典:ASCII.jp - Web Professional)
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