きっかけは『豊かな食生活を、できるだけ多くの人に』
オイシックス株式会社が、初の海外向けECサイト『オイシックス香港』をオープンしたのは、2009年12月だ。日本では有機野菜の宅配として知名度が高いが、香港では文字通りゼロからのスタートだった。2013年3月期の第二四半期の売り上げは約1350万円だったのが、2014年の同時期には約5420万円と、約400%という急成長をみせて黒字化を果たしている。
なぜ、海外を視野に入れたのか。同社海外事業部部長の高橋大就氏はこう話す。 「『豊かな食生活を、できるだけ多くの人に』というのが、当社の理念にあるからです」 “できるだけ多くの人”とは、国内に限った話ではなく、世界の人を指している。オイシックスが2000年に創業した当初は、国内を拠点に運営するのが精一杯だったが、業績が安定してきた頃から、“できるだけ多くの人”=海外へと目が向いてきたのだ。 オイシックス香港のメイン商品は、日本のオイシックス同様、生鮮品だ。日本ほど整っていない海外の物流環境を考えると、遅配すると致命的な生鮮品は回避し、まずは加工品からスタートして様子を見る選択肢もあるはずだが、なぜ、生鮮品にこだわるのか。 「当社のキラー商品で勝負したいからです。私たちが契約している生産農家さんの作る野菜や果物は、日本が世界に誇る商品だと自負しています。それを食べていただきたい思いが強いのです」 海外の中でも、香港からスタートしたのは明確な理由がある。規制の問題だ。国ごとの輸入規制や関税、ライセンスの問題などさまざまな規制がある。特に食産業は、自国の農業を守るため規制が厳しい国が多く、例えば中国で販売できる輸入生鮮品は、りんごと梨だけだ。 「香港は基本的に関税も消費税もかからず、かつ法的安定性も確保されています。イオンやそごうもあり、『大戸屋』や『一蘭』は行列ができるほど人気があります。親日的な地域で、日本食の人気も非常に高い。その意味でも、海外で挑戦する第一号として最適でした」
日本語が話せる香港人の採用
『オイシックス香港』のメインターゲットは、香港人だ。「香港に住んでいる日本人に向けて」ではない。そもそも、香港在住の日本人は、2008年のリーマンショック以降、減少しており、現在は1万2000〜3000人程度しかいない。 「香港在住の日本人に購入してもらうのも大歓迎ですが、そこがメインターゲットではありません。あくまでも香港の人にオイシックス香港の食品を届けたい。だから、はじめから広東語でサイトを作りました」
サイトの枠組みや仕様は、前回の記事で紹介したWIPジャパンに依頼し、海外向けの多言語対応ショッピングカート「マルチリンガルカート」を導入した。こだわりは、サイトのオープン当初から、自社内で広東語に翻訳していること。食品のおいしさを伝えるときのさまざまな表現は、現地出身者が翻訳して初めてお客様に伝わるからだ。 「海外サイトを作って的確なマーケティングをするためには、対象国のファーストランゲージを使う人が行うことが不可欠です。弊社は、オイシックス香港の展開が決まったと同時に、日本語もできる香港出身の方を採用し、現在では4名の香港出身者がいます」 合わせて、自社内でWebチームを作り、こまめに更新できる体制を整えた。
物流コストが大きな壁に
実際に、オイシックス香港が稼働して痛感したのは、「物流の問題」と高橋氏。輸送は航空便と船便を併用し、生鮮品は航空便、日持ちするドライ食品などは船便と使い分けた。現地では、ヤマト運輸が個配を請け負っている。生鮮品は温度管理が命なので、なおざりにできない分、コスト高になる。そのコストは企業が負担しきれず、顧客に転嫁せざるを得ないのが実情だ。 「そこで弊社では、お客様の負担増を少しでも減らしたいと思い、会員制の『プレミアム会員サービス』制度をはじめました。半年間の会費3680円で、合計4000円以上購入していただければ、送料が無料になるというサービスです。このサービスにより、継続購入のチャンスを広げたいという思いもあります」 海外展開の物流に関しては、現地の住宅事情も考えなくてはならない。香港は、エレベーターを途中で乗り継ぐような超高層ビルのマンションも多い。マンションに到着しても、そこから配達先に到着するまでに、数十分かかってしまう場合もある。 生鮮品を扱うオイシックス香港では、クーラーボックスが必須になるため、ヤマト運輸と協力して、従業員教育も念頭に置きながら配送体制を整えていった。こうした現地特有の住宅事情なども入念にリサーチする必要がある。 ECサイトが海外進出する場合、商品到着まで日数もかかり、税金などのコストもかさむ。そのうえ、日本ほど物流環境が整っていないため、届かない、破損するリスクも抱えてしまう。 こうした事情を念頭に置いて、まず、どの国に、何を売りたいのかを明確にして、現地の住宅事情や生活環境なども考慮しながら、勝機があるのか見極める。そのうえで、海外サイトをいかにつくるか、いかに物流コストを削減していくか考えていくべきだろう。 ECサイトの海外進出は、簡単なことではない。しかし、それゆえに、オイシックス香港で扱う生鮮食品のように、うまくいけば、その国で先行者利益を得られるチャンスも潜んでいるといえそうだ。
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