【特別対談】(株)ダイレクトマーケティングゼロ 田村雅樹社長
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カゴメ(株) マーケティング本部 通販事業部 販売企画グループ原浩晃主任
通販・EC業界では、新規獲得施策に加えLTVを向上させる施策が重視されてきている。しかし、その手法は確立されているとはいえず、各社が手探りで取り組んでいるのが現状だ。そこで今回、通販・EC業界におけるCRMの在り方や施策について、コールセンターを活用した独自のCRM施策を展開し成果を上げているカゴメ(株)のマーケティング本部 通販事業部 販売企画グループの原浩晃主任と、通販CRMのプロフェッショナル集団である(株)ダイレクトマーケティングゼロの田村雅樹社長の二人に語ってもらった。
※当記事は上・中・下の中編です
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CRM着手・実施・改善…それぞれの悩みと解決策を徹底討論
CRMの重要ポイントは「ターゲティング」「一貫性」「連続性」
――CRMに取り組むにあたって重要なポイントは何でしょうか。
田村:CRMを実施するにあたって、重要なのは「ターゲティング」「一貫性」「連続性」だと考えています。まずは顧客全員に対して同一のCRMを行うというのは間違いです。世界平和を願うコトと一緒です。複数のセグメントをターゲットにしても構いませんがどんな顧客に対してCRMを行うかを明確にしなければなりません。
CRMにおいて「一貫性」というのは非常に大事なのですが、多くの部署が関わっており、また設定するKPIも違うので、なかなか難しい部分でもあります。例えば、販促部内に限ってもお客さまに対する人格が分離してしまうこともありますよね。いつもはゴリゴリのプッシュをしているのに、急にていねいな態度になってみたり、ブランディングを意識してみたり、みたいな(笑)。
3つ目の「連続性」が一番重要なのですが、お客さまが通販会社を好きになってくれるといったような「感情ロイヤリティ」は積み上げ型のものですよね。少しずつロイヤリティを積みあげていくためには「連続性」が必要になってきます。
※ダイレクトマーケティングゼロの田村社長
この3つを実施し、きちんと検証できないと、本来的な意味の「おもてなし」にはなりえないと思うんです。さきほど、サービス提供のタイミングについてのお話にもありましたが、お客さまが望んでいないことまで「CRM施策」としてやりすぎてしまっては、まさに、恩の押し売りです。結局のところ、お客さんが見えている状態でなければCRMはうまくいかないと思います。
「感情ロイヤリティ」の部分の研究も重要です。方法としては「感情ロイヤリティ」を高めるための構成因子を分解して捉えるやり方があります。そして、継続と相関の高いものを意図的に提供していくという取り組みができると、感情ロイヤリティの向上、ひいてはLTVアップにつなげることができます。ロジカルに感情を動かしていくにはどうすればいいか、と言うスコアリングやロジスティック回帰分析を使った取り組みですね。
ファン行動をスコアリング、LTV相関行動を捕捉し施策設計
原:まさに当社もそういった取り組みを始めています。カゴメ通販の今進めている、CRMプロジェクトは大きく2点あり、「LTVアップ施策」と「ファンレベルアップ施策」に取り組んでいます。
後者のファンレベルアップについては、ファンを増やすことが収益につながるという考え方をベースに、「ファン度合い」と「事業収益」に高い相関性のある指標を導くための分析を進めています。
具体的にはファン度合いとLTVに相関性のある行動を特定して、バッジモデルを付与。顧客ごとにスコアリングして、顧客セグメントごとに打ち手を設計するものです。「ファン」になる人は、どういう行動をしているのか、それを分析し、行動をスコアリングしていくという枠組みづくりに取り組んでいます。
まだ分析の途中段階ですが、LTVの高いお客さまのファン行動傾向としては、「会報誌のお便りを書いてくれる」「トマトの苗プレゼント企画に応募している」「おすそ分け袋の希望を出している」などがあります。「おすそ分け袋」は、カゴメの野菜ジュースを他の人に勧めてくれる人向けに作っているノベルティです。ありがたいことに、LTVが高いお客さまほど周囲への推奨行動をしてくれるという傾向がありました。
※カゴメ 通販事業部の原主任
田村:素晴らしいですね。ファン度合いのスコアリングについて、次に出てくる課題は、相関因子の「母数が少ない」という悩みや、「動かしづらい」という悩みかなと思います。例えば、お便りを書てくれる人は全体数から見ると割合が少なかったりしますよね。
そこで行動因子とともに、マインドまでを因子にできれば、行動以前の認知やイメージでファン度合いを捉えられるようになります。具体的には、お客様に何かサインを出してもらう、というのが有効な手法だと思います。
そのためには、初期の段階で何らかの質問をお客様に投げかけて、なるべくたくさんの人の回答を得てヒントにするというやり方があると思います。
当社がコンサルティングを手掛けているなかでよく行う事例でいうと、会社や製品に対してどんなイメージを持っていることが継続因子につながるかを割り出して、意図的にそのイメージを持ってもらうための施策を行うといったものがあります。
ある健康食品では、訴求成分の由来物の認知が高まると、継続率アップに寄与するというケースがありました。このケースでは、由来物を認知してもらえるようなコンテンツを作るとか、タグラインを変えるという施策が有効でした。
初期に感動体験を与えるということも非常に重要な手段です。とはいえ、お客さまの期待値を超えるものを提供するというのは、実際には短期的なROIの外側にあるんですよね。かなりぶっ飛んだアドボカシー施策をする会社もありますが、そういった会社は意外とあまり計算してやってはいないんです(笑)。
当社の事例としては、ディセンシア様や、ドゥクラッセ様などのロイヤル施策をさせていただいた時も、似ているものがありました。そもそもロイヤリティを上げるためという感覚ではないんですね。
感動体験を提供し「感情ロイヤリティ」を向上へ
田村:感情ロイヤリティを高めるには、お客さまが「私のことを見てくれている・知ってくれている・(自分の〇〇を)把握してくれている」と実感してもらい、タイミングを最適化できれば感動体験に寄与できると思います。
繰り返しになりますが、実際の施策に落とし込んでいく際には、仮説を出した後の一貫性が大事です。そして、地道に続けているという連続性を維持することも大切です。
原:感情ロイヤリティという視点でいうと、当社の場合コールセンター経験なども評価指標になるのではないかと思っています。ただ、電話をかけてきた内容なのか、回数なのか、満足度なのかなど、試行錯誤をしているところです。
田村:ある会社の事例では、コールセンターでのコミュニケーションはどれくらい継続率への寄与度があるのかを分析していました。コミュニケーション内容を分解して、それぞれランクをつけて解析しているのです。例えば、お客さまから「ありがとう」と言われるかどうかを評価指標にするというのも1つの手かなと思います。
ただ、何かを分析するにあたっては網羅性がとても大事です。先ほどのたとえ話の部分で行くと、そもそも「ありがとう」と言ってくれるお客さまがあまりにも少ない場合、インパクトが薄くなってしまいますから。ですので、指標になりえるアクションの前の行動まで捕捉していくことも、網羅性では重要になってきます。
原:なるほど。確かにアクションだけじゃなく、お客さまのマインドを捉えていくことは重要ですね。そして、マインドが変化しているかどうかまで捕捉できればベストです。
(下に続く)
(古川寛之)
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カゴメ株式会社 マーケティング本部 通販事業部 原浩晃 主任
【プロフィール】
2002年カゴメ入社。営業部門で新規販路開拓をミッションに活動。備蓄ルート開拓にあたり、社内プロジェクトを立ち上げ、長期保存野菜ジュースの開発、販路開拓に成功。13年に通販事業部へ異動、ブランド担当兼、新規顧客獲得販促担当として、宣伝費が削減される環境下において、顧客獲得効率を3割改善しながら、獲得規模を1.4倍へ拡大する事に成功。17年1月よりフルフィルメント担当に異動し、コールセンターを中心としたCRM構築を推進中。
■カゴメ
株式会社ダイレクトマーケティングゼロ 代表取締役社長 田村雅樹 氏
【プロフィール】
早稲田大学法学部卒業後、「株式会社ベネッセコーポレーション」、大手化粧品会社を経て、2009年に通販専門のコンサルティング会社「ダイレクトマーケティングゼロ」を設立。通販化粧品・健康食品企業を中心に計500社以上の顧問・コンサルティングを行う。「AMIDAS」や「通販7指標必勝方程式」などの独自理論を打ち立て、クライアントの売上を20倍上げた実績をもつ。「DMA国際エコー賞」「ケープルズ賞」をはじめ「全日本DM大賞」などダイレクトマーケティングに関する賞を国内外で通算37冠受賞。著書に『ゼロからはじめる通販アカデミー』(ダイヤモンド社)がある。講演・寄稿等多数。
■ダイレクトマーケティングゼロ
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