楽天市場で3月18日から開始される購入総額3980円(税込)の送料無料ラインの設定ついて、楽天市場の店舗で構成されているという団体「楽天ユニオン」が22日、独占禁止法に抵触しているかどうかの調査開始と送料無料化の排除措置を求め、ネット上で収集した署名・意見書を公正取引委員会に提出した。楽天(株)も同日、楽天市場のこれまでの安心・安全な売り場を目指した取り組みや、送料無料ラインの統一に関するメディア向けの説明会を開催した。
楽天は説明責任を果たしているとの考え
楽天ユニオン側は送料無料ラインの設定が、独禁法で禁止する「優越的地位の乱用」に該当するとして反対を表明しているが、楽天(株)の執行役員・コマースカンパニーCOOの野原彰人氏は説明会で、送料無料ラインの統一についてはカンファレンスや全国での説明会、タウンミーティングなどで出店者に対して説明しているほか、楽天のECコンサルタントが直接コミュニケーションを図っており、プラットフォーム事業者として説明責任を果たしているという考え方を示した。
実際に楽天は、送料無料ライン設定の発表後、出店者の意見を取り入れ、家具などの大型商品や冷凍・冷蔵の商品を送料無料の対象外としたほか、酒類など他の商品と同じダンボールに梱包するのが困難な商品も対象外とした。また、沖縄・離島などが配送先となる場合には、送料無料ラインを9800円以上とし、沖縄・離島の出店者は送料無料ラインを自由に設定できるようにするなど、ガイドラインを再三改訂してきた。
楽天はこれまで、対話によって出店者の要望を取り入れているため、ユニオンに対しても話し合いによって解決策を模索する余地はあった。しかし、楽天とユニオンの対話は行われず、野原氏は「報道などで団体の存在は知っているが、現段階で直接コミュニケーションはしていない。楽天市場の店舗の団体なのかもわからない」と話し、ユニオン側は楽天に直接コンタクトをしていないことがわかった。「楽天による一方的な規約変更」だと主張するユニオンだが、楽天に要望を伝えて話し合いの機会を求めることなく、一方的に公取委に排除措置を要求していた。
送料無料ラインを一律3980円に設定で注文件数14%増も
説明会では、楽天(株)CEO戦略イノベーション室の川島辰吾氏が、すでに送料無料ラインを3980円に設定して成果を上げている店舗の事例や、対応に取り組んでいる事例を紹介した。アウトドアグッズを販売するA社は、これまで送料無料ラインを5500円以上に設定していたが、19年10月から大型の商品を含めて一律3980円に変更。同10月~12月の売上件数は14%アップした。
A社は「広告費で集客するか、商品に投資するか、いろいろな選択肢があるが、送料の投資で良い効果が得られている。小売業は変化対応業。お客様の変化に対応していかないといけない」とコメントしている。
店舗B社は全体の注文から影響を受ける注文を分析。影響を受ける注文と、影響を受けない注文を4つに分類し、影響を受ける注文分の送料コストを影響がない商品代金に調整して上乗せするなど、売値を調整しているという。
スポーツ用品を販売するC店は、これまで2600円で送料無料としていた表示を「2000円+送料別600円」という表示に変更し、「2つ以上の購入で送料無料」という表示を加えてまとめ買いを促進する方針を掲げた。そのほか、集客力がある商品は金額を変えず、売上比率が高い主力商品の売価を調整している事例や、保証期間の延長などの付加価値を加えて売値を調整したり、まとめ買い用にクーポンを発行する事例などが紹介された。
失敗なら「送料無料ライン」の見直しも示唆
また、3月18日以降に店舗がこれらの施策を実施して、売上が落ちたり、消費者からのクレームが起きた場合などについて、川島氏は改めて送料無料ラインの見直しを検討する方針も示した。
楽天ユニオンが公取委に調査を要求したことについて、楽天は広報を通じ、「意見書の提出は認識しておりますが、内容については、弊社へ直接いただいているものではありません。個別の団体のご意見だけでなく、直接多くの店舗の皆様からご意見を頂戴しております。今後も多様な店舗様のご意見に真摯に耳を傾け、いただいたお声を生かし、店舗様の中長期的な成長への寄与を目指してまいります」とコメントした。
送料を出店者負担と勘違い?
楽天市場は、ユーザー(消費者)・店舗・楽天の3者がメリットを享受して、持続的に成長できるプラットフォームの構築を目指しているが、時代によってユーザーのニーズが変化していることから、楽天市場も変化が求められる。楽天市場の注文金額の割合は、送料無料(送料込みの表示)が8割を超えている。
定価が4000円で送料980円という商品Aの価格を表示する場合、「4000円+送料980円」と「送料無料4980円」という2つのパターンがあり、8割のユーザーが「送料無料4980円」(送料込みの表示)を選ぶということだ。これは送料を含めた総額表示の方がわかりやすいことと、「送料無料」の方がお得感があるということだろう。勘違いしている人も多いが、今回の送料無料ラインの統一は、定価4000円の商品Aを販売する際、送料980円の負担を出店者に求めるものではない。
ただ、商品価格に送料を上乗せし、送料無料する表示については、景品表示法の有利誤認に該当するのでは?という指摘もある。この点について消費者庁の表示対策課に確認したところ、「ケースバイケースなので、個別の案件には答えられない」としながら、「一般論として、景品表示法の有利誤認に該当するかどうかは、販売されている価格表示が、実際の価格より著しく有利だと誤認するような表示」と回答。送料無料を必要以上に強調したり、これまで1万円で販売していた商品を2万円にして送料無料+50%オフなど、消費者に誤認を招きかねない表示でなければ、有利誤認に該当しないという見解を示した。
送料の上乗せで儲ける店舗も
楽天の調査でも送料のわかりにくさが課題になっている。楽天による調査では、送料が原因で購入をあきらめたことがある人は、ZOZOで40%、Amazonで57%だったのに対し、楽天市場は68%と突出していた。楽天市場の送料の不満は「安いと思ったら送料で高い」(56%)、「ショップによって送料が異なる」(45%)など、送料のわかりにくさによるものが多い。
送料表示に関するレビューでは、「300円以下の商品で送料1700円以上って詐欺まがいの送料」「大きなものならしょうがないが、この商品なら1000円以下で送れると思う」など、クレームに近いレビューが投稿されている。商品の価格を下げて表示し、送料の価格を商品の倍以上に設定して、送料で儲けている出店者が存在することも現実だ。
ユニオンによる送料無料ラインの排除措置要求は、独禁法という自由な経済活動を守る法律の視点で語られているが、一方で消費者に誤認を与えるような表示は、景品表示法により禁止されている。楽天はこれまで、法令順守体制を強化し、二重価格表示機能、不適切商品の通報機能、不正レビュー業者への訴訟などを実施し、不適切な表示や不正についての取り締まりを強化してきている。消費者目線の取り組みが排除されるのでは、これまでの取り組みが浮かばれない。
公取委に排除措置を求めるのであれば、ユニオンはまず、楽天側に対話を求めるのが筋だろう。楽天のほとんどの店舗が、そうしている。ユニオンは楽天を退店した元楽天店舗も参加している。参加店舗は337店(※1月23日時点)としているが、元店舗を除くとより少なくなると思われる。仮に337店舗だとしても、楽天市場の合計5万店舗の1%にも満たない。ごく一部の店舗のわがままなのかもしれないのに、「楽天ユニオン」といういかにも出店者をまとめている団体というネーミングに、多くのマスコミが飛びつき、送料無料ライン統一に反対する声が、楽天店舗の大半の声であるかのような報道が飛び交っている。楽天ユニオンはまず参加している全出店者名を公表し、対等な立場で楽天と意見交換することが先決だろう。送料無料ラインの統一は、まだ始まっていないのだから。(山本剛資)
※読者からの指摘を受け、商品価格に送料を上乗せした表示について追記しました。(追記時間は1月24日18時13分)
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