楽天の事業戦略を楽天市場の店舗に発表する「楽天新春カンファレンス2020」が29日、グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)で開催され、楽天(株)の三木谷浩史会長兼社長が、送料無料ライン統一について「何が何でも皆さんと一緒に成功させたい」と話し、出店店舗に協力を呼び掛けた。
2020年は重大発表なし、送料無料ライン統一への協力を呼びかけ
楽天新春カンファレンスでは、三木谷氏が2018年に自社配送網で商品を届ける「ワンデリバリー」構想や決済手法を全店舗で統一する「ワンペイメント」などの開始を宣言したほか、2019年には送料無料ラインを統一する方針を掲げるなど、ここ数年は出店者を巻き込んだ重大な取り組みが発表されていた。
今年の新春カンファレンスでは、新たな重要施策の発表があるのか業界や出店者の間で注目を集めていたが、今回は例年とは異なり、これまでの取り組みの成果報告や、社会的な関心を集めている送料無料ラインの統一について、改めてその必要性を説明し、出店者に協力を呼び掛ける内容となった。
これまでの取り組みの成果について三木谷氏は、違反点数制度によって偽物品や不正レビューなど規約違反店舗が73%削減したことや、楽天市場の全店舗の決済手段を統一する「ワンペイメント」導入で、クレジットカードを持たないライトユーザーの購入が拡大していること、ビッグデータを活用した広告配信機能によって、19年12月の広告の費用対効果は、17年12月との比較で2.1倍に拡大していることなどを説明した。
物流面では、2000億円を投資して自社物流網を整備し、1月には自社物流の人口カバー率が60%以上に上っているとした。
三木谷氏「十数パーセントは流通総額が拡大すると確信」
また、4月から正式なサービスがスタートする携帯キャリア事業については、「劇的な価格設定で提供できる。皆さまにもぜひ使ってほしい。そこで楽天スーパーポイントがたまれば楽天市場で利用できます」と話し、店舗でも楽天モバイルの利用を呼び掛けた。なぜ携帯電話のコストが安くなるのかについては、「いままでの携帯はハードウェアが必要。ネットではクラウド化が進んでいるが、携帯産業では発展していなかった。不可能と言われていた完全仮想化、アンテナの基地局から基地局まで全部をソフトウェア化することに世界で初めて成功した。これによってコストが下がる」話した。
送料無料ラインの統一に関しては、「一部の店舗が騒いでいるが、結局、皆さんのところで買わなくなったら何の意味もない。おそらく十数パーセントは、皆さんの流通総額が上がると確信している。何が何でも皆さんと一緒に成功させたい」と意気込んだ。
楽天SOY受賞店舗では、「送料無料ライン統一」の反対は少数か
送料無料ラインの統一については、新春カンファレンスの前日に行われた「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー2019」(楽天SOY2019)の受賞店舗から、さまざまな意見を聞くことができた。
楽天の発表によると、送料無料ラインの統一によって影響を受ける注文比率は約10%だという。商品のジャンルにもよるが、楽天SOY受賞店舗にも「クール便なので関係ない」「高単価商品を扱っているので、関係ない」「すべての商品が送料無料なので」と、今回の送料無料ラインに影響を受けない会社が多かった。また、「実際のところ、蓋を開けてみないとわからない」といった中立派や、送料無料ラインの統一で影響を受ける注文があったとしても、対策を前向きに検討していくという会社もあった。
受賞店舗のA社は「一部地域への発送については、3980円で送料無料になると厳しいが、我々は楽天さんにお世話になってここまで来ているので、その対応策をこれから模索していきたい」と話した。
明確に反対の姿勢を示す店舗は少なかったが、受賞店舗のB社は「店舗さんの売上など内部事情を知らずに、一律で送料無料ラインを決めてしまうのは、反対です。弊社は単価的にほぼ影響はないのですが、内政干渉しすぎな気がします」と話し、自社は影響がなくても反対の意向を示した。
「賛成の署名を集めたい」と話すショップも
送料無料ラインの統一について、賛成の声を紹介する報道はほとんどなかったのだが、楽天SOY受賞店舗からは、賛成の声も多く聞かれた。C社は「基本的に賛成。ショッピングモールならではの買いやすさ、利便性を追及していくなかで、送料の複雑さがお客様にとっては不便に感じてしまう。企業側としては、今までかけていた広告宣伝費などの販促費の使い方を考えなければならないが、送料無料を統一化するというのは、お客様としてはわかりやすくなるので妥当な判断だと思う。中長期的には、より運賃を安くするなど、リカバリー案を期待したい」と話した。
D社は「大賛成です。賛成の署名を集めたいくらい。楽天市場がネット掲示板で叩かれていますが、それは楽天市場のページがごちゃごちゃしているのと、送料がわかりにくいといいうことが理由。それが間違いなく解消されるので。賛成の人もいっぱいいる。反対の方が賛成より多かったら、さすがに楽天さんは実行しないと思いますよ」と話した。楽天ユニオンについては、「何であんなマイナスなことを、内側の店舗がやるのか。本当に勘弁してほしい。対抗して賛成の署名を集めたいくらいです。(反対派が)怖くてできませんが」と憤った。送料無料ライン統一に賛成の店舗については、自社がどれだけ影響を受けるかという視点よりも、ユーザーにとって何が求められているのかを重視する傾向があるようだった。
楽天SOY受賞店舗と状況に相違も
ただ、こうした賛成意見を出せるのは、楽天SOYを受賞するほど成功し、ゆとりがある店舗だから言えることでもある。
型番商品を利益が少ない低価格で販売しているショップにとっては、価格調整で送料込みの値段にすると、配送する地域によって送料が異なるため、それを見越した値付けが必要となる。そうなると、これまでの販売価格を大きく上回り、商品が売れなくなる可能性がある。
型番商品を低価格で購入したい楽天ユーザーにとっては、こうしたショップはありがたい存在で、楽天スーパーポイントを組み合わせれば、他のモールよりもかなり安く購入できる場合もある。楽天市場の価値を高めてきたとも言えるショップが、送料無料ラインの統一で経営を左右するほどの影響を受けてしまう可能性があるのであれば、救済措置が必要かもしれない。
店舗救済措置を開始か?
直接的な救済措置になるかはわからないが、新春カンファレンス戦略共有会後に行われたメディア向けセッションで、楽天の執行役員・コマースカンパニーCOOの野原彰人氏は、小規模店舗を支援する「優良店舗施策」を今年の上半期を目途に開始すると発表した。同施策は、楽天SOYの受賞歴などがない小規模店舗を対象に、楽天側の評価基準で優良な店舗運営をしているショップをレコメンドするものだ。この施策で優良店舗に認定されれば、広告などの販促費をカバーでき、送料負担の一部を解消することができるかもしれない。
また、楽天はすでに全国で開催済みの楽天タウンミーティングを47都道府県で再開し、野原氏らが改めて全国を行脚するという。
公正取引委員会は楽天ユニオンの調査要請を受け、今回の送料無料ラインの統一が独占禁止法の優越的な地位の乱用に該当するかどうかの調査を開始している。ユニオン側は27日、ツイッターに「私たちは楽天と対立構造は望んでいません」と投稿しているが、三木谷氏は29日に「公取やマスコミにリークをして、けん制をかけるやり方はあまりに時代錯誤でひどすぎる」とツイッターに投稿している。対立構造は、深まっているようにも見える。
(山本剛資)
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