政府の新型コロナウイルス感染対策の方針変更によって、3月13日からマスク着用が個人判断になり、5月8日以降は新型コロナの感染症法の位置づけがこれまでの2類から5類に格下げとなる。5類になるとコロナ患者の入院勧告や外出制限もなくなり、コロナの規制はほぼなくなる。いよいよ現実的となったコロナ後の世界に向け、EC・通販市場がどのように変化していくのか、多方面から考察する。
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外出機会の増加などで店舗の売上が回復傾向
EC・通販業界ではコロナ禍で「巣ごもり消費」による特需を受け、ECを活用した商習慣が定着する恩恵を受けたが、ここ最近ではその状況も変化している。新型コロナウイルスの影響が弱まったことで、22年からは店舗の売上が回復し、ECが苦戦する傾向が続いている。代表的な例を挙げると、(株)セブン&アイ・ホールディングスの直近の決算(2023年2月期)だ。「セブンネットショッピング」、イトーヨーカ堂の「ネット通販・ネットスーパー」、そごう・西武の「e.デパート」など、グループの主なEC売上は軒並み減少したが、コンビニやデパートなどの店舗系は好調で、グループ全体の売上高は国内の小売業で初となる10兆円を突破した。
また、(株)高島屋の直近の決算(23年2月期)では、中国以外のアジア圏からの訪日が増加したことで、高額品を中心にインバウンド売上が大幅に拡大。65億円の営業損失を計上していた百貨店事業は、184億円の営業利益を上げ、黒字に転換した。
そのほか、子供服を展開する(株)ナルミヤ・インターナショナル、(株)しまむら、(株)アイスタイル、(株)ファーストリテイリングなど、店舗とECを展開する企業の決算が好調だった。特にしまむらはEC売上も46%増と好調で、23年2月期決算で売上高・営業利益ともに過去最高を更新している。
店舗の売上が回復してきた背景には、日本人の外出機会の増加だけでなく、海外からのインバウンド拡大が大きく寄与している。日本政府観光局(JNTO)によると、3 月の訪⽇外客数は、前年同月比で26倍の181万7500 人だった。コロナ前の19年3月との比較では34%減となっているが、22年10月の個人旅行再開以降で過去最高の数値を記録した。
5類格下げで訪日外客数はさらに増加か
繁華街でも外国人観光客の多さを感じることも多く、欧・米・豪や中東地域からの観光客が、円安を背景に物が安い日本で高額商品を大量消費している様子が伺える。欧米中心にした「爆買い」ブームが起きつつある。日本はこれまで外国からの入国規制が厳しかったこともあり、日本への旅行や日本の高品質な商品の買い物を我慢していた観光客も多い。5月の5類格下げ以降、訪日外客数はさらに増加していくことが予測される。
オフラインでの消費行動が回復しているなか、EC事業者によるリアル店舗への出店も続出している。代表的な例でいえば、楽天グループ(株)の取り組みだ。同社は韓国関連商品の取引拡大を受け、22年12月に(株)シーズマーケットとともに常設のOMO店舗「Kulture Market(カルチャーマーケット)Supported by Rakuten」をラフォーレ原宿に開店。ターゲット層に確実にリーチするため、韓国好きが集まる場所に出店した。
そのほか、楽天は昨年12月にショッピングSNS「ROOM」のポップアップストアを新宿マルイ本館にオープンしたのを皮切りに、東京・足立区の北千住マルイに「楽天市場バレンタイン特集」、東京駅構内には「お買いものパンダ」「楽天市場スイーツ展」などを1週間~1カ月程度の期間で出店している。
また、「ZOZOTOWN」を運営する(株)ZOZOは22年12月に初のリアル店舗「niaulab by ZOZO」(『似合うラボ』)を、東京・表参道にオープン。自分の「似合う」が見つかる超パーソナルスタイリングサービスを提供し、同サービスには100人の枠に対して3日間で2万件の応募があるほど、注目を集めた。
最近では4月10日にはECモール「USAGI ONLINE」が東京ドームシティ内に常設の実店舗を、千趣会は3月にJR横浜駅に「ベルメゾン」のポップアップストア、ギフト通販のシャディは1月にオリジナルスイーツ専門店(銀座コア1階)をオープンしている。そのほか、グローバルファッションブランド「SHEIN(シーイン)」、ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)、健康食品・化粧品通販の(株)エックスワン、メルカリなどが、コロナ禍の直近の2年間で新たに常設店舗や期間限定のポップアップストアをオープンしている。
オムニチャネル施策に変化も、独自の戦略で店舗を出店
EC・通販企業の出店は、それぞれ店舗に集まる顧客層を考慮したり、季節イベントとのタイアップ、商品を手に触れる場所としての出店、対面でのパーソナルスタイリングサービスなど、各社の戦略によってこれまでの店舗出店とは異なる形で実店舗をオープンしている。
「オムニチャネル」や「OMO」施策というと、これまでは店舗網を持つメーカーが新たなチャネルとしてECを立ち上げ、顧客情報を統合するという目線で語られてきたが、現在はEC・通販企業が戦略的にリアル店舗を活用していくという視点が加わってきている。外出機会やインバンドはさらに増加していくことから、EC・通販企業による店舗の出店は今後も続くと見られる。
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(山本 剛資)
(つづく)
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