ドライバーの時間外労働が制限される2024年問題の影響で、これまでより配達日数がかかることが業界全体で懸念されるなか、Amazonはラストワンマイルの起点となる荷物の仕分け用拠点「デリバリーステーション」を2023年中に11カ所新設し、翌日配送の範囲を拡大する。アマゾンロジスティクス代表のアヴァニシュ・ナライン・シング氏は6日に開催された記者説明会で、2024年問題がAmazonに与える影響について、「配送スピードは譲れない」と話し、自社物流網の強化をはじめとする施策により、ドライバーの労働時間が規制されたとしても配送スピードは落とさないという決意を示した。
FCで梱包された商品がデリバリーステーションに運び込まれる様子
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DSの新設で3500以上の雇用を創出
デリバリーステーションの開設は、栃木・群馬・富山・山梨・静岡・奈良・岡山の7県では初となり、2023年中に稼働を開始し、700万点以上の商品が翌日配送できるようになるという。
Amazonでは、注文を受けてから全国にある物流倉庫「フルフィルメントセンター」(FC)で商品をピッキング・梱包した後、荷物は委託先の「配送パートナー(ヤマト運輸・日本郵便・佐川急便)」による配送と、Amazon独自の配送プログラム「アマゾンロジスティクス」による配送に振り分けられる。
「アマゾンロジスティクス」では、FCで梱包した荷物を仕分け拠点である全国の「デリバリーステーション」(DS)に配送し、DSから「Amazon
Flex」(業務委託契約を結んだ個人事業主による配送)、「Amazonデリバリーサービスパートナープログラム」(DSP/地域の配送事業者による配送)、「Amazon Hubデリバリー」(飲食店など街のビジネスオーナーによる配送)のいずれ振り分けられる。商品をユーザーに届けるラストワンマイルは、これらの地域に根付いた配送ネットワークが担う。
DSはアマゾンロジスティクスのラストワンマイルの起点となる。このため、全国11カ所に新たにDSが開設されることで、空いた時間で自由に働ける「Amazon Flex」のドライバーを含む3500以上の雇用が創出されるという。
Amazonシング氏「配送スピードは譲らない」
24年問題の対応についてシング氏は、フルフィルメントセンターで荷物の個数を減らしたり、パッケージのサイズを小さくして、より多くの荷物をトラックに積めるようにする取り組みや、DSPによる置き配、ドライバーがオートロックマンションの玄関をスマホによる認証で通過して置き配できる「Amazon Key for Business」、「Amazonロッカー」など4万拠点で商品受け取りができるようになっていることなどを挙げた。
2024年問題ではドライバーの時間外労働が制限され、配達日数がこれまでよりかかってしまうことや送料の値上げなどが業界で懸念されている。2024年問題がAmazonに与える影響についてシング氏は、「政府が定める労働時間は順守する。コストについては、お客様を第一に考える。お客様にとって利便性の高い配送スピードだけは犠牲にしたくない。配送スピードは譲らない」と決意を示した。
アマゾンロジスティクス代表のアヴァニシュ・ナライン・シング氏
2024年問題には「これまでと違う考え方で」対応
また、シング氏は「(2024年問題について)これまでとは違う考えでどうやって解決するか。オープンであることも必要」とし、「Amazon Hubデリバリー」の例を挙げた。「Amazon Hubデリバリー」は、従来のドライバーによる配達ではなく、店舗のオーナーが自転車や台車などで近所に配達する仕組みで、これまでの取り組みは順調に進んでいるという。
2024年問題ではドライバー不足が懸念されているが、「Amazon Hubデリバリー」は飲食店やお花屋さんなどがドライバーの代わりに商品を配達するため、ドライバーではない新たなラストワンマイルの担い手を増やすことに成功している。
所定の車を保有するなど一定の条件を満たせば、誰でもデリバリーパートナーに登録できる「Amazon
Flex」についても、休日など自由な時間で仕事をすることが可能で、簡単に個人で配送ドライバーを開始できる道を作った。
「Amazonデリバリーサービスパートナープログラム」(DSP)についても、あるDSPに参加する企業の1社によると、担当する荷物量が増えたことでドライバーを募集し、入社する人が増加しているという。地域に新たな雇用が生まれることで、新たな層の取り込みに成功している。
「Amazon Hubデリバリー」に参画する街の店舗オーナーが自転車で商品を届ける様子
2024年問題で配送スピードでは「Amazonが1人勝ち」の可能性も
Amazonのデリバリーステーション(DS)は、今回の11拠点の追加により、国内合計で50カ所以上となった。ヤマト運輸のDSに該当する「ベース」と呼ばれる仕分け拠点は、日本全国に75拠点あり、Amazonの配送拠点数がヤマト運輸に近づいてきている。
ヤマト運輸の運賃値上げに端を発した2017年の「宅配クライシス」以降、「置き配」の導入や「宅配ロッカー」の設置、コンビニや店舗受け取りの拡大など、業界全体で再配達削減や物流にかかる負担を軽減する取り組みが進められてきたが、通販・EC需要の拡大に伴う圧倒的な荷物量の増加に対しては、焼け石に水の状況だ。ドライバー不足が深刻化する現状で、すでに「翌日配送」の対象地域を「翌々日」に伸ばす宅配事業者が出てきていることからわかるように、2024年4月からは、多くの通販会社の荷物の到着がこれまでより遅くなることが避けられない。
宅配クライシスを契機に、大手宅配事業者に頼らない独自の配送網を築き上げてきたAmazon。2024年問題で業界全体の配送スピードの低下が予測されるなか、Amazonだけがこれまで通りの配送スピードを維持し、一気にシェアを拡大させる可能性も出てきた。2024年問題は「Amazon1人勝ち」の序章なのか、追随するECモールや通販会社はあるのか、またはラストワンマイルの担い手を増やす新サービスが出てくるのか、2024年問題をめぐる今後のEC事業者の動向に注目が集まる。
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