1.利益構造の把握と広告費比率の決定
弊社は「良質な経営の提供」という観点からサービス設計を行っているため、Web広告・自社ECサイトの運用代行などのご依頼に対しても経営観点から業務設計を行っています。まずは原価も含めた利益構造を把握させていただき、それを定点で観測するオペレーションから構築いたします。
弊社では限界利益 = 売上 - 原価 - 変動費(広告宣伝費・販売手数料・物流費用など)の現状と目標値を伺い、その上でどの程度の比率を広告宣伝費に投資できるのか伺った上で広告費用をどこに投下するかの戦略を立案して、実行の運用代行までを請け負っています。
原価率や手数料、物流費用に応じて投下できる広告予算は異なりますが、弊社では売上に対して10%〜20%程度の広告費比率をご提案することが多いです。
なぜならZOZOTOWNなどの委託型のECモールでは、概ね35%の販売手数料となっており、物流費が10%、決済手数料が5%、その他資材費もかかることを考慮し、広告費を10〜20%にすると、ECモールと同程度の収益水準が保てるというのが根拠となります。
もちろん投資フェーズなので限界利益ベースないし営業利益ベースで損が出ないのであれば成長スピードを重視するということで広告費の比率を高く設定するお取引先様もいるので、そこは当然整理しながら実施しています。
今回のA社についても、認知を獲得するためのフォロワー獲得広告 + コンバージョン広告の合計で15%を目安に運用することをお伝えしました。もちろん目安のため、広告運用の初期などはそれよりも高い比率になってしまったり、逆にEC側での施策がハマれば10%を切ることもあったりするため、トータルでコントロールすることをお伝えしています。
2.SNS運用・ECサイトの現状の把握
実際にお取引様への支援内容を検討する前には、SNS運用やECサイト運用の現状がどのようになっているのかも把握していきます。
弊社は、アパレル・ジュエリー・雑貨に特化してお付き合いさせていただいているのですが、実績値も溜まってきたため、ある程度横断的に他社様と比較して数字を見ながら、数字の良し悪しをお伝えできるようになってきています。
Instagram運用で重要な“4つの数値”
SNS運用に関しては、投稿頻度・内容の確認に加えて、Instagramであれば下記の数値を主に把握してアカウントの現状を把握します。
- ホーム率:ホームでの表示数 / フォロワー数
- プロフィールアクセス率:プロフィールアクセス数 / リーチ数
- フォロワー転換率:フォロワー増加数 / プロフィールアクセス数
- エンゲージメント率:(いいね数 + 保存数 + コメント数 + シェア数) / リーチ数
アカウント特性により、各種数値の上下は変わるので基準値を一概に示すわけではありませんが、各種数値の実力値を把握して、それぞれ低すぎる場合にはどのようにすれば高まるのか仮説を持って運用に落としていきます。
例えば、フォロワー転換率が低いケースであれば、プロフィール文章、ハイライト、直近のフィード投稿をそれぞれ改善点がないか見ていくような形で実施しています。
今回のA社の例でいくと、自力で5,000フォロワーまで増やせていたこともあり、クリエイティブには問題がない一方で、アパレルブランドにありがちなモデルが着用した商品の投稿がメインでした。
そのため、お客様とのやり取りが少なくなっており、ホーム率やエンゲージメント率などの数値が低いことが事前の把握で見えてきました。
その点を改善すべく、お客様から気軽に質問や感想を言えるような仕掛け・投稿を行い、ホーム率およびエンゲージメントをあげていくような施策を行っていきました。
ECサイト運用で重要な“3つの数値”
ECサイト運用では、新商品発売の頻度・サイクル、メルマガ・LINE配信の頻度、セール・イベントの頻度など運用面の確認をした上で、下記のオーソドックスな数値の確認をしていきます。
こちらは一般的な施策を見ており、特にコンバージョン率が0.1%前後など極端に低い場合は、流入チャネルや広告予算の投下先と広告手法を確認するようにします。
また、サイトのUIが極端に悪くないかの確認も行います。Shopifyなどある程度新しいカートシステムを使っていれば致命的なデザインの崩れなどは起きにくく、ECサイトのデザインがボトルネックとなっているケースは、これまでご支援させていただいたお取引先様の中にはありません。
今回のA社の例でいくと、基本的にはInstagramからの流入 + Meta広告での流入でしたが、CV率が高くなく、広告手法に問題がありそうだったため、広告キャンペーンの設計を後述のように変更しました。
3.CRM施策への動線見直し・インセンティブ付与
SNSの運用やサイトの数値を見ることで何となく改善点が見えてくるものの、いきなり広告運用の改善から動くのではなく、広告運用をする前にCRM施策と動線の見直し、インセンティブの設計を行います。
具体的にはLINE公式アカウントとメルマガ登録への導線設計と、友だち・メルマガ追加に伴うクーポンの発行などを検討して提案します。
最初にCRM施策から取り組むのは、サイトへの流入の一部がCRMに登録し、顧客資産が蓄積されるためです。広告を投下する前にお客様が離脱する前の網を細かくし、できるだけ接点をもてるように設計します。
上部に固定でバナーを表示したり、ZOZOTOWNのように左下に固定バナーとして表示したりと、興味を持ってサイトにおとずれてくれたユーザーがCRMツールに登録してくれるように促します。
※ZOZOTOWNのクーポン表示事例
当然、単に登録を促してもインセンティブがないとなかなか登録してはもらえないので、10%オフクーポンや1,000円オフクーポンなど、初回購入時に付与してもいい範囲のクーポンを提供するのが定石と言えます。
A社の場合、LINE・メルマガともに設定がなかったので、まずはメルマガからということでメールマガジンへの登録で10%オフクーポンを配布するという形で展開しました。
4.認知獲得、Instagramフォロワー獲得広告の実施
ここまでの準備を行った上で、認知獲得のためにInstagramフォロワー獲得広告を設計し、実施します。
広告費比率の合意がないままに広告費用をかけても、収益性が悪化してしまえば、本当にそのまま実施しても大丈夫なのか事業者側はたいへん不安になります。
また、SNS・サイトの現状を把握して改善点をある程度把握し、改善実施してからのほうがフォロワー獲得の効率があがります。
認知を獲得しても、サイトに訪問してくれたユーザーがCRMツールに登録してもらえる導線も整備しておかなければ、せっかくお金をかけて呼び込んでも、多くのお客様が離脱してしまいます。
基本的にECサイトのCV率は2〜5%で、95%以上のお客様が離脱するモデルとなっています。
特にSNSが発達した今では、
SNS上でなんとなく目に入ったECサイトに遷移
↓
パーッと商品を眺めて離脱、その後再度Instagramの広告で見かけて再訪問
↓
クーポンバナーがあったので登録まではするが離脱などを繰り返す
↓
お客様が欲しいと思ったタイミングでようやく決済してもらえる
というような認識を弊社ではしています。
お客様に少しでも覚えておいてもらうためにCRMツールへの登録導線を整備することで、思い出してもらえる確率をあげておくことが重要になります。
Instagramフォロワー獲得広告の基準値
上記の準備をした上で、Instagramフォロワー獲得広告を実施していきます。
昨今のInstagramのアルゴリズムだとオーガニックで全てを伸ばしていくのが難しくなってきており、ある程度広告を踏み込んだ方が効率よくファンとなるユーザーが獲得できるようになっていると感じます。
もちろん闇雲に、購買しないであろうフォロワーを増やしても意味がないため、地域・興味関心・年齢・性別から関心の高いであろうユーザー層に広告を配信するようにします。
特に興味関心では、自社が競合・ベンチマークしているナショナルブランドを個別に設定することで、自社の商品と相性のよいユーザーに配信するようにしています。
※カスタムオーディエンスの興味・関心の設定画面、自社と相性のよいと思われるブランドを設定する
対象とするターゲットの広さや商材によって基準値は異なりますが、アパレル・ジュエリー関連では下記の基準値をベンチマークに運用代行させていただいています。
- クリック単価:10円未満が優秀、20円未満が許容、20円以上の広告はストップ
- フォロワー獲得単価:100円未満が優秀、200円未満が許容、200円以上はストップ
クリエイティブの良し悪しは上記のクリック単価およびフォロワー獲得単価に基づき行い、基準に満たないクリエイティブは日次で毎日変更を行い、どのようなクリエイティブがファンを増やすのに効果的かのPDCAを回すようにします。
Instagramのフォロワー獲得広告については1広告300円程度から実施可能なため、500円×3投稿×30日=4.5万円分を広告にかけて運用して、1ヶ月の実績を見るようにしています。クリック単価もフォロワー獲得単価も安く、ファンへのリーチが順調な場合には予算を増やして、獲得できるフォロワーを増やすようにしています。
A社では、Instagramフォロワー獲得広告は未実施でしたが、クリエイティブが優れており、最初からクリック単価7〜10円のクリエイティブが多く、フォロワー獲得単価も60円前後と優秀だったため、早めに増額を行い、ファン層を拡大させて行くようにしました。
結果、支援4ヶ月で5,000フォロワー増えて1万フォロワーを達成しています。ポップアップストアで商品を販売した際も、最近Instagramをフォローしているなどお声がけいただいたとお話を伺い、効果を実感いただいているように思います。
5.Metaコンバージョン獲得広告
ここまでの整備をしている間に、Metaでのコンバージョン獲得広告の準備を行います。ECサイト・Instagramフォロワー獲得の準備が整い次第、コンバージョン獲得広告も実施できるように設定します。
コンバージョン獲得広告の予算の決め方
前述の「1.利益構造の把握と広告費比率の決定」にて、広告費比率を15%程度にするとお伝えした通り、基本的にはこの広告費比率15%の範囲内で成果が最大限出るように設計を行います。
もちろんInstagram獲得広告で最低限4.5万円使用しているため、売上が全く伸びないとなると50万円×15%=7.5万円で残り3万円しか使えないことになってしまいます。
売上が低く、Instagramのフォロワー獲得広告の比率が高くなってしまうケースでは、初期は広告投資を認めてもらい、売上に対する広告費の比率が高くなっても許容してもらって、運用することがあります。
今回のA社は、広告配信後のタイミングで、ギフティング施策・クーポン施策・メルマガ配信などの施策をかけあわせてすぐに効果が出たため、売上に対する広告費の比率をそこまで高くすることなく、1ヶ月目から15%以内に抑えた運用ができました。
コンバージョン獲得広告の基準値
コンバージョン獲得広告の基準値も広告配信対象、商材、顧客単価によってかなり異なり、またInstagramのフォロワー数・エンゲージメント率によっても大きく変わってしまいます。
これを前提として下記数値を意識し、あまりにもこの数値が悪い場合には、改善ポイントに対して仮説を持って変更を加えます。
- CPM:1,000円以内 ※CPMは1,000インプレッションあたりの広告単価
- CPC:30円以内
- カートに追加単価:1,000円以内
- CPA:3000円〜1万円以内
- ROAS:300%以上
CPMは悪いけど、ターゲットに効率よく配信できているためCPCはよい、CPM・CPCともに悪いが、効率よくお客様に購入してもらえているためCPAはよいなどのケースもあるので、個別の数値を見ながらどこがボトルネックとなっているのかを探っていくように日次・週次で細かく数字を見るようにしています。
一般的にROASを重視して運用される会社様も多いのですが、ROASを高くしようとすると、効率よく購入いただけるリタゲや新規のお客様に絞って、広告費用も抑えてROASを高めるといった運用になってしまうケースがあります。
コンバージョン獲得広告の設定内容
A社の例では、Metaでの広告は実施していたものの、キャンペーンの目的が「トラフィック」となっており、リンクのクリックに最適化されていたため、目的を「売上」に変更し、購買意欲の高いユーザーに対して広告配信を行うようにしました。
また、「売上」を目標にしながらもコンバージョンイベントには「購入」ではなく「カートに追加」を設定しました。理由は、広告実施前の売上が50万円と月間の販売件数も少なく、コンバージョンイベント「購入」では、Metaの機械学習が必要とする1週間に約50件というコンバージョンイベントの達成が難しかったためです。
次に、配信ターゲットを設定する広告セットでは下記の3つを設定しています。
- ターゲット:興味関心、地域、性別、年齢を設定したターゲットユーザー
- リターゲティング:過去180日間にウェブサイトを訪問したユーザー
- 類似2%:これまでの購入者データの類似2%
いずれの広告セットにおいても過去180日間に購入したユーザーは除外するようにしています。
さらに各広告セットには結果の単価目標を設定。結果の単価目標とは「購入」・「カートに追加」といったコンバージョンイベントを最大限増やしながら、1件あたりのコストを結果の単価目標で設定した金額に抑えるというものです。
例えば1万円の商材を販売しており、CPA2,500円で獲得したい場合には、コンバージョンイベントを「購入」、結果の単価目標を「2,500円」で設定すると、2,500円以内で最大限獲得するように広告配信をしてくれます。
一方で上限単価が厳しすぎる場合には広告がまったく配信されなくなるため、初期はある程度高めの結果の単価目標を設定して配信した上で、どの程度の結果の単価目標であれば獲得できるのかを日次・週次で確認しながら配信し続けることが重要になります。
広告クリエイティブ変更の運用フロー
その上で広告配信のクリエイティブに関しては、基本的には商品の「カタログ」をカルーセルで配信するものを基準に、お取引先様のキャンペーンに応じてクリエイティブを1広告セットにつき3〜5つ設定します。
Shopifyであればカタログ配信設定も容易で、ボタンをクリックしていくだけで設定が完了します。
カタログ配信ではMetaが各商品内容をみて、最も結果につながるユーザーに自動で、そのユーザーにあった商品をカルーセルで表示します。広告効果も高く、広告クリエイティブをわざわざ作成して変更する必要もないため、楽に高いパフォーマンスが期待できる広告です。
週次で各クリエイティブごとのCPM・CPC・カートに追加数・ROASを振り返り、各クリエイティブの良し悪しを判断したあとに悪いクリエイティブについては入れ替えるようにして常に広告効果が高くなるように配信しています。
6.当たり前の施策を積み重ねることが重要
長々と書いていますが、読んでいただいたらわかるとおり、ECサイトを長年運用してきた方にとっては、当たり前の施策を積み重ねているだけです。
一方で、この当たり前の施策を積み重ねて継続するということがハードルになって売上を伸ばすことが出来ていない企業様も多いのではないかと、この1年間支援させていただく中で感じていることでもあります。
A社のケースでは、すでに小売店様に高く評価されている商品であったこと、撮影のクリエイティブに関してもレベルが高かったことから、ちょっとした当たり前の施策を重ねることで売上・Instagramのフォロワーさんも大きく伸ばすことができました。
弊社でご支援させていただいている企業様はそのようなケースが多く、すでに魅力的な商品を展開しながらも、商品を広く認知・購入してもらう手段がわからないために依頼いただくことが多いです。
ただ、そもそもの商品の独自性・競争力・ポジショニングや、撮影クリエイティブに関して課題を感じている企業様もいらっしゃるかと思います。商品そのものがよくないと、いくら広告・マーケティングをしても売れることはありません。
上記の手法でマーケティングを行い、売上が伸びないケースについては、そもそもの商品・ブランドの強みやポジショニングを整理させていただき、撮影のディレクションを弊社チームでサポートさせていただくこともございます。
もし自社ECの運用で行き詰った場合は、本稿の各項目を見直してみてください。重要なのは当たり前の施策を積み重ねることです。
▽関連リンク
メールアドレス:info@bizgem.jp
著者プロフィール:
株式会社Bizgem 代表取締役 樋口幸太郎
慶應義塾大学法学部政治学科卒業。伊藤忠商事入社。就職活動生向けWebメディアを運営するUnistyle株式会社を創業し、創業5年で株式会社ネオキャリアにM&Aで売却
。子供服D2Cブランド「pairmanon」を運営する株式会社オープンアンドナチュラル取締役就任し、その後アダストリアグループの株式会社BUZZWITにM&Aで売却。