いわゆる”単品系”の代名詞である健康食品などのD2Cが厳しい市況だ。その背景には広告規制の激化などがあり新規獲得が難化の一途を辿っている。日々取材に回る中で「CPAは暴騰を続けており完全に消耗戦状態。商材変えてでもこの状況から脱け出したい…」と零すD2C企業も確実に増えてきている。一方で5年以上前に苦境からヘルスケアD2Cを脱し、物販サブスクで成功している企業もある。”歯ブラシ”のサブスク「GALLEIDO(ガレイド)」ブランドで事業成長を果たしたSIKI(株)だ。同社の大林浩社長と物販サブスクの歴史を振り返りながらECで売れる健康食品や化粧品以外の商品を開発するメソッドについて探った。
始祖ともいえるDollar Shave Clubとは?
「サブスクリプション」という言葉が台頭して久しい。現在は「サブスク」の略称で定着しており、主に動画や音楽など月額制でコンテンツ見放題・聞き放題のサービスを指して使われることが多いワードだ。また「サブスクリプション」という言葉自体は、定期購入・購読や継続購入を指す英単語でEC・通販業界からすると流行言葉としての「サブスク」が登場する遥か昔から存在しているビジネスモデルではある。
そんな「サブスク」だが、新しい言葉として業界内で注目が集まりだしたのは2015年ごろまで遡る。発端となったのは米国で男性向けの髭剃り用T字カミソリの定期便サービス「Dollar Shave Club(ダラーシェーブクラブ)」の台頭だ。同サービスは2010年代前半にスタートし、5年ほどで米国におけるオンラインのカミソリ市場シェアの過半数を占めるほどに成長し注目された。当時、現地ではカミソリ大手のジレットをも短期間に凌駕したといわれ米国内ではもちろん日本でも話題となったのだ。
なお、コンテンツ系の動静でいくと動画サブスクの「Netflix」は2015年に日本法人が立ち上がり、国内での配信は同9月からスタートした。音楽サブスク「AppleMusic」も同じ2015年6月からスタートした。「Dollar Shave Club」が米国内で圧倒的な存在感を示し始めたのも同時期で2015年頃がいわゆる”サブスク”の創世期と言えるかもしれない。
国内はDMMが先行、SIKIも追従
日本国内でこの動きを早い段階でキャッチアップしたのは(株)DMM.com(当時)だ。17年11月に「カミソリのサブスクリプション(定期購入)サービス」をスタートさせ、2023年現在も「ZEXT」のブランド名でサービスを継続している。
※「ZEXT」のローンチ時のキービジュアル
SIKIも19年11月に「GALLEIDO SHAVING CLUB」という名称でカミソリの物販サブスクを開始させている。同社の大林社長は当時をこう振り返る。「健康食品を扱ういわゆる単品通販を手掛けてきたが、様々な困難があり脱却したいという思いがあった。美容・健康ではなく誰もが日々使うような安価なものを主力とする事業を検討した。そんな中でWEB検索をする中で米国の『Dollar Shave Club』について知った。これを参考に様々な検討を行い、『GALLEIDO』ブランドの中でカミソリ・電動歯ブラシ・シャワーヘッド・ウォーターフロス・浄水ポット・電動モップ、と耐久財の家電系にまで商材を広げていった」と言う。
電動歯ブラシ商材に3年半で利用者7万人
SIKIは2020年4月に開始した電動歯ブラシのサブスク「GALLEIDO DENTAL MEMBER」で物販サブスクの成功を掴み取った。
同サブスクは電動歯ブラシの本体は無料、替え刃ブラシ1本税込308円/月相当・送料無料というモデルだ。健康機器や美容機器分野で耐久財は無料または超安価、消耗品を定期購入とするモデルは以前からあるが、日用必需品でヒットしたものは珍しい。「Dollar Shave Clubを参考にする中で大事にした部分は『日用必需品』『使用サイクルがあり安価』『荷姿がコンパクトで送料が嵩まない』『長期的な利用を前提とする』という部分です。カミソリの次に国内で受けそうな商材を考えたときに電動歯ブラシの替えブラシにチャンスがあると考えた」(大林社長)と話す。実際に約半年で利用者1万人、約1年で2万5000人、約1年半で4万人、2年弱で5万5000人まで到達。そして3年半で利用者7万人を突破と利用者は右肩上がりで推移した。「目論見通り、継続率は9割超などとなっておりLTVの最大化とチャーンレート(解約率)の低下も実現できた」(同)ともしている。
「GALLEIDO DENTAL MEMBER」はLPなどで上記のように訴求する
無料耐久財+サブスク消耗品モデル横展開
SIKIは電動歯ブラシを軸に、「GALLEIDO」ブランドで耐久商材+定期購入の消耗品を組み合わせたサブスクのラインアップを拡充した。「同梱割」という割引形態も設け、複数のラインを併用しやすいように設計している。また消耗品のサイクル想定にもこだわった。現在のプロダクトラインは下記の通りだ。
▽電動歯ブラシのサブスク「GALLEIDO DENTAL MEMBER」
└電動歯ブラシ本体:無料、替えブラシは120日サイクル想定のサブスク
▽シャワーヘッドのサブスク「GALLEIDO SHOWER MEMBER」
└シャワーヘッド本体:無料、カートリッジは120日サイクル想定のサブスク
▽ウォーターフロスのサブスク「GALLEIDO WATER FLOSS」
└ウォーターフロス本体:無料、替えノズルは120日サイクル想定のサブスク
▽浄水ポットのサブスク「GALLEIDO WATER MEMBER」
└浄水ポット本体:無料、カートリッジは1~2人使用で120日サイクル想定のサブスク
▽電動モップのサブスク「GALLEIDO CLEAN MEMBER」
└電動モップ本体:無料、替えモップは1人暮らしの場合120日4枚サイクル想定のサブスク
そのほかクロスセル商材としてフロスや、綿棒、舌ブラシも用意している。家電系を扱う関連性からガジェット商材として急速充電器とケーブルもラインアップしている。また消耗品飲みのサブスクもある。髭剃りも継続展開しており一カ月あたり550円~の消耗品のみのモデル。加えて完全栄養食のサブスク「SMART FOOD」も展開している。
「関連性を持たせた商材の横展開と、クロスセルの用意でLTVの最大化に貢献できている」(同)とする。クロスセルは例えば電動歯ブラシのサブスクの場合、初回購入時に「舌ブラシとフロスはいかがですか?」といった案内で追加購入を促している。
SIKIはBtoB領域へも進出
広がりはBtoB領域にも及ぶ。「2022年12月からは法人向け『GALLEIDO DENTAL OFFICE』をローンチしました。これはオフィスで働く従業員の方に電動歯ブラシを使っていただくというものです。近年注目を浴びる『健康経営』に資するサービスとして訴求」(同)している。そのほか物販サブスクでヒットを生み出した知見を生かし商品開発を支援する「D2C GLOBAL OEM(海外OEMサービス」も2023年初頭からスタートさせた。「これまでの電動歯ブラシやシャワーヘッド等の海外OEMでの経験や知見を活かし、お客様の新商品開発に携わり収益拡大に貢献することが目的」(同)だ。大林社長は「サブスクやクロスセル商材のラインアップは今後も拡充していきたい。もちろん法人向けサービスについても更なる横展開をしていければ」と未来についても語った。
ヒット物販サブスクは「WEB検索」から生まれた
以上がSIKIがいわゆる”単品系”から脱却し物販サブスクで成功を掴んだストーリーだ。成功を掴んだ第一歩は大林社長が何気なくした「WEBでの検索」だった。受け身で情報をとるのではなく、能動的に海外事例を探したことから同社のサクセスストーリーは幕を開けることになったのだ。消耗戦を脱するためのヒット商品を開発するヒントはWEB上にまだ転がっているかもしれない。
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