販売継続は景表法違反のリスクも
疑義が生じた88商品のすべてで撤回の申し出があったが、ここでいう“撤回の申し出”とは、近く撤回届出を提出するという意思表示にすぎない。これに対し、撤回届出を提出すると、機能性表示食品として販売できなくなる。
昨年6月30日の景表法違反事件で問題となった研究レビューと、同一の研究レビューを使用した他社商品についても景表法に違反する恐れがある。業界内からは「88商品のすべてで、一斉に措置命令を出してほしかった」という声も聞かれる。
「販売中」の約30商品について届出を撤回するかどうかは、各販売会社の判断に委ねられる。ただし、「販売中」のままだと、行政処分を受けるリスクが伴うことも覚悟しなければならない。法違反に問われた場合は、各販売会社の自己責任となる。
商品切り替えのタイミングまで引っ張る
「販売中」の約30商品の各販売会社にも、それぞれの事情があるようだ。
取材に対し、A社は「(昨年6月に行われた措置命令の)発表のタイミングで、当社ではその年に販売する分を製造していた。12月には販売を取りやめている」と話す。在庫がさばけたタイミングで、販売を中止したわけだ。
B社では「届出を撤回すると、その時点で機能性表示食品として売れなくなり、いわゆる健康食品となってしまう。商品には切り替えのタイミングがあり、3月ごろにはおおよそ変わるだろう」と説明する。
C社も「販売は23年12月ですでに止めている。次の商品発売の準備が終わり次第、届出撤回を完了させる」としている。
また、D社では「(景表法違反の)事案が発生後、速やかにお客様に販売停止の案内を行い、23年8月28日に終売した」と説明。同社では、その後に原料などの在庫情報を整理し、ほかの終売商品とともに今年度内に届出を撤回する方向で作業を進めている。今後については、一般的な健康食品として販売する計画という。
各社の話を通じて、既に販売を中止している商品も一定数に上るとみられる。消費者庁のホームページで「販売中」となっているのは、販売を停止した旨を報告していないためと考えられる。また、各社では在庫処分や商品戦略の観点から、撤回届出の提出を引き延ばしている様子もうかがえる。
一方、一般消費者にとっては、科学的根拠に疑義が生じた商品がいつまでも市場に出回っているのは、甚だ迷惑な話といえる。
“打つ手なし”の状況か
ここまで見てきたように、機能性表示食品制度は届出制を採用していることから、事業者が提出した届出資料に不備がなければ、機能性表示食品として販売することが可能。届出が公表された後に、疑義が出ても強制的に取り下げさせることは困難となる。
このため、消費者団体の間では制度に対する批判が強まっている。法曹界からは届出制に代わって、「登録制」の導入を求める声も聞かれる。
本来ならば業界団体を中心に、事業者のレベルアップなどの取り組みが求められる。だが、さらなる規制緩和を要求する姿勢ばかりが目に付き、“業界の襟を正す”ことに熱心でない。それ以前の問題として、健康食品分野では業界団体が乱立し、リーダーシップを取れる団体が見当たらないという深刻な状況が続いている。
消費者庁では昨年9月、届出ガイドラインを改正し、研究レビューの底上げに向けて国際指針「PRISMA声明(2020年)」への準拠を求めた。しかし、それに準拠して届け出された資料を見る限り、お寒い限りの内容であり、肩透かしを食らった格好だ。
対策として考えられるのは、機能性表示食品制度があくまで企業責任によるものである点を一般消費者に十分に伝えることくらいか。“打つ手なし”の状況にあるようだ。
(了)
(木村 祐作)
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