総点検を踏まえて制度を検証
自見はなこ消費者担当大臣は3月29日の記者会見で、機能性表示食品制度の見直しにつて、約7000件(1693社)の総点検を要請していることから、報告の締め切りとなる「4月12日をめどに物事を進めていきたい」と説明。
「今回の事案や点検の結果を踏まえて、まずは制度の検証を行うことが必要」とし、「食品の安全の根本の話で、機能性表示食品の手前の話も重要と思っている」との考えを述べた。
各メディアの報道によると、この日、政府は関係閣僚会議を開き、5月末までをめどに、機能性表示食品制度の見直しを消費者庁に指示した。
届出企業の13社が倒産、9社が休廃業・解散
消費者庁は機能性表示食品の約7000件を対象に総点検を実施するが、東京商工リサーチが3月29日発表した緊急調査の結果から、届出企業1671社のうち13社が倒産、9社が休廃業・解散していることがわかった。
また、消費者庁は情報の更新を求めているが、全商品の約15%が更新されていない状況も浮かび上がった。倒産企業に加え、大手企業の一部商品についても更新されないままデータベースに残っていた。
「我が世の春」に終止符か
機能性表示食品制度に対する批判は、今回の問題が発生する以前から強まっていた。
内閣府の消費者委員会では昨年11月、一部委員が、機能性表示食品の増加は健康被害発生が企業の知識の有無と良心に委ねられることを意味するとし、「これが消費者被害を生むのではないかと懸念している」と問題提起した。
また、日本弁護士連合会は今年1月18日、消費者担当大臣と消費者庁長官に、機能性表示食品制度の改善を求める意見書を提出。表示・広告については行政指導ではなく、積極的に景品表示法による措置命令を出すことを要請。事業者に対し、消費者への健康被害情報の公表を食品表示法上に義務づけることを求めた。
同連合会は、制度がスタートした2015年5月にも意見書を提出している。その中で、届出制ではなく登録制度に改正し、安全性・機能性の要件を満たさない場合は、国による登録の取り消しが可能な制度とすべきと提言。安全性については、事業者に安全性・品質確保体制、危害情報公表体制の整備を義務づけるように要望していた。
小林製薬の問題の発覚後には、各消費者団体も声を上げた。主婦連合会は、機能性表示食品制度について安全性を事業者任せとしている制度の在り方を抜本改正するよう要望した。食の安全・監視市民委員会も、事業者責任による機能性表示食品制度の運用では安全性を確保できないと主張。制度廃止を含め、抜本的な見直しを求めている。
同制度の開始当初から、健康食品に批判的な消費者団体の間では、「国が審査するトクホの方がまし」といった声が聞かれるなど、事業者の責任で機能性を表示できる仕組みに対し、不安がる声が出ていた。
今回の問題により、機能性表示食品制度の“包囲網”は一気に狭まった。同制度がスタートした2015年度からの9年間、健康食品業界は「我が世の春」を謳歌してきた。しかし、同制度に対する消費者の信頼が揺らぎ、規制強化も避けらず、そうした状況に終止符が打たれる可能性もある。
機能性の根拠も課題が山積
機能性表示食品制度をめぐっては、安全性だけでなく、有効性の根拠についても物議が絶えない。
昨年6月、機能性表示食品のサプリメントを販売する企業が、景品表示法違反で行政処分を受けた。行き過ぎた広告表現に加えて、消費者庁へ届け出た有効性の科学的根拠そのものが不適切とされた初の処分となった。
その際、同社と同じ科学的根拠(研究レビュー)を用いる他社の88商品についても疑義が生じ、届出を撤回するという事態に発展。研究レビューは、世界中の研究論文を収集して総合判断する手法。原料メーカーなどが用意した研究レビューを多数の販売会社が使い回していたため、他社の届出も問題視された。
88商品が一斉に届出撤回の方向となったため、業界からは「安心して届出ができるようにしてほしい」という声が噴出。そうした経緯も含めて、消費者庁では、国があらかじめ要件や表示内容を決める規格基準型の仕組みを同制度に導入する方針を示している。
メディアによる同制度の監視も強まっている。一部メディアでは、有効性の科学的根拠として消費者庁へ届け出された研究論文で、不適切な統計手法である「多重検定」が横行していると指摘した。
また、ヒト試験を実施する臨床試験受託機関の姿勢を問う報道も見られた。一部企業で「業界初 ヒト臨床試験 有意差 完全保証プラン」という宣伝が行われたためだ。試験を始める前から、機能性表示食品とプラセボ(偽食品)を摂取したグループ間で、有効性の有意差を約束するものと受け止められ、機能性表示食品の信頼性を損なうきっかけの1つとなった。
消費者庁は有効性の科学的根拠のレベルアップに向けて、研究レビューの国際指針「PRISMA声明(2020年)」への準拠を求めている。しかし、業界内では「単にフォーマットを変更するという動きがある」という声も聞かれるなど、課題が山積しているようだ。
(木村 祐作)
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