「食のワンダーランドをつくる」というビジョンを掲げる(有)九南サービスが運営する自然食品ECサイト「タマチャンショップ」。楽天市場のショップ・オブ・ザ・イヤー(SOY)や各種モールアワードの常連受賞店舗であることなどからモール運営に強いイメージを持つ読者も少なくないのではないだろうか。実は自社ECの売り上げも大きく、独自サイトならではの取り組みを大きく強化している。近時ではユーザー同士が交流できるコミュニティサイト「タマリバ」も設け、独自サイトを中心としたブランド作りとファンマーケティングを実現している。タマチャンショップの戦略に迫る。
自社EC強化のきっかけは「定期購入」の実現
「タマチャンショップ」はモール展開からECをスタート。楽天SOYなど数々のアワードを受賞するなど有力ECとして育っていった。一方で成長をしていく中でいくつかの課題にも直面し、その課題解決に向け自社ECの強化を開始した。「モール店の運営が軌道に乗っていく中で物流が追いつかなくなってしまうということがおきてしまった」(田中耕太郎社長)のだ。「当時はお客さまに都度お買い上げいただく想定の運営でしたので『定期購入』という仕組みを当社が持っていませんでした」(同)そのため「物流に負荷がかかってしまっていたのと、利便性の部分でお客さまから定期的に届くサービスのご要望もいただいていた」そうだ。「まずはこの課題解決に向けて定期購入の仕組みの導入を急ぎました。モールにも定期購入を可能にする仕組みはあったのですが当社のやりたいサービスを実現することは難しく、自社ECを立ち上げることにしました」(同)と話す。
田中社長は「物流以外にも課題はありました。モール店の運営は競合も増えていく中で99%オリジナル商品を扱う当社としては、商品のストーリーをいかに伝えていくかに注力していました。モールには商品ページなどにも制約がありますので、なかなか自分たちがお客さまに届けたい情報を届けきれない部分も悩んでいました。デザインにもこだわったサイト作りを心がけていますが、こちらの面でもなかなか制約に悩む部分がありました。そんな中、やりたいことを実現するためにも自社ECに注力していきました」と当時を振り返る。
「タマチャンショップ」は現在、(株)SUPER STUDIOが提供するEC構築システム「ecforce」で自社ECを構築している。「2020年ごろから『ecforce』を導入しています。導入の最大の決め手は当社のデザイナーが作りたいサイトデザインを実現できることでした」(田中社長)という。「またアップデートの頻度の高さ、各種機能の拡張性の高さ、当社スタッフにとっての使いやすさから決めました」(同)と話す。
▽「ecforce」参考資料
モールやリアル店舗も運営しながら作る“ブランド”
自社ECにも注力する中、タマチャンショップはモールの運営やリアル店舗の展開なども怠らない。田中社長は「当社の伝えたいコンテンツは自社ECに揃えていますし、定期購入などの商品ラインナップが一番充実しているのも自社ECです。ただ、必ずしも自社ECで買っていただきたいわけではありません。例えば、リアル店舗で当社や当社の商品を認知し、自社ECで情報を得てもらい、最終的にはモールでお買い上げいただくこともあると思います。ユーザーの消費行動も大きく変容を続ける中で当社の情報に触れていただける場、買い物ができる場の選択肢が多いに越したことはないと思います」と想いを語った。
「チャネルごとに特性や制約が違います。リアル店舗であれば試食いただけたり、実際に商品を手にとっていただけたりしますが、ECのようにいつでもどこでもアクセスすることは難しいですよね。反対にECはいつでもどこでもアクセスいただけますが味を直接伝えることは難しかったり、自社ECとモールでは表現できるコンテンツに違いや制約があったり、集客の仕方の違いもあるなどさまざまです。ですからお客さまとのタッチポイントをたくさん用意し、お客さまごとに心地の良いブランド体験をしていただくことを大事にしています」(田中社長)と話し、ブランド作りの重要性を説く。
「“ブランド”とはファンと共に作るもの」
ブランド作りの中で同社が重要視しているのが「ファンマーケティング」だ。田中社長は「“ブランド”は、企業が広告などを通して一方的に発信し、形成されるものではなくなったと思います。SNS全盛時代を迎える中で、企業とファンがさまざまなコミュニケーションから形成されるものになっていると当社は考えています」という。2022年からは「タマリバ」という交流サイトを設けた。
「当社のファン同士が交流できるコミュニティが必要だと考え『タマリバ』は生まれました。タマリバでは当社の商品を使ったレシピ投稿などをしていただいているのですが、その中で別商品との合わせ使いが話題に出るなど、ファン同士の交流の中で自然とクロスセルが発生する動きもあります」(同)と成果も出ている。ファンマーケティングを重視する背景として「広告ではない形で商品の魅力が自然と広がっていき、商品ありきの本質的な商売のモデルを実現できつつあるのではないかと思います。国内・世界の経済情勢や海外からの競合参入などがあるビジネス環境において、良い商品が適正な価格で売れるというのを実現するためにも、ファンと共にブランドを作り上げていく重要性は増していると思います」(同)と語った。
さらに強いブランド形成へ…アプリ化も視野に
今後の展望についても聞いた。「引き続きコンテンツの配信を強化していきます。自社ECにもまだまだ課題はあり、オンラインとオフラインの顧客情報の統合などに注力していきたいと考えています。また、将来的には当社の想いが込められた自社ECをアプリ化していきたい」(田中社長)と語る。チャネル戦略についても、リアル店舗の展開にも注目しているようだ。「昨今ポップアップストアの取り組みなどが他社でも増えていますが、当社も戦略的にリアル店舗をより活用していきます。やはり、商品の味などはオンライン上では伝えきれないですし、リアル店舗だからこそ実現できる1対1のコミュニケーションの密度はオンラインではなし得ません。その場で味を確かめてもらいながら反応をうかがうこともできるため、商品のテストマーケティングの面でもリアル店舗は強いと思います。今後、社会全体でAI活用が進んでいくと思いますが、リアルな1対1のコミュニケーションは何ものにも代えがたいと思っています」(同)とし、さらにブランド作りを強力に推進していく。
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