2019.03.29 コラム
写真にこだわるECに潜む事業リスクとは?…売れる商品画像講座(10)
「通販通信」読者のみなさん、こんにちは!商品画像自動作成ツール「ZenFotomatic(ゼンフォトマティック)」を提供するグラムス(株)の藤井です。
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当コラムでは、売れるための商品画像とそのオペレーション構築、というネットショップ運営の実践的な目線から商品撮影や画像加工処理について勉強してまいりました。
第十回目となる今回は、”誰でも”簡単に一定以上のクオリティーの商品撮影ができ、画像加工も驚くほど簡単になる効率的な撮影方法をご紹介します。
と、その前におさらいをしましょう!
まず前提として、本コラムで言う商品画像とは、イメージ画像ではありません。これまで9回に渡りお話ししてきた商品画像の定義については、是非本コラム第一回をご一読ください。
それでは行ってみましょう!
撮影の環境構築が9割!
結論から言うと、必要な撮影環境さえ整えられれば、あとはシャッターを押すだけです。商品画像として、一定以上のクオリティーが担保された写真を誰でも簡単に撮影できます。
機材やシステムは、人間と違い気分や体調も変わりません。ECの商品撮影では、クオリティーだけでなく作業のスピードやローコストオペレーションを要求されます。人間に技術や経験を求めるのではなく、目的に対して正しく構築された撮影環境を固定しましょう。人間がそれに合わせて撮影する方が圧倒的に早いからです。そうすれば、撮影した写真のバラツキも抑えられ、場所も取らず、人材採用や教育コストも抑えられるので事業の状況に合わせた拡張や縮小が可能になります。
とは言っても、何をどう揃えてどんな撮影環境を整えれば良いのか…
特に撮影の分野は、WEB検索しても答えに迷ってしまいやすいと思います。なぜなら、さまざまな立場の人が、各々の目的をベースにした視点から撮影に対する見解を示しているからです。
例えば、このコラムの読者の皆さまは、芸術写真やポスター向けの撮影をする訳ではありませんよね。撮影環境にプロのセットのように何十万円、何百万円もかける必要はないのです。
今回このコラムで紹介する内容は、効率・クオリティー・業務平準化を目的としたケースで、世界中の多くの有名ネットショップでも導入されている、EC商品撮影業務の「正解」です。
逆光で撮影?! 透過光撮影とは
商品撮影では被写体の色味に影響しない白の背景紙の利用が一般的です。ただ、白背景紙を用いた撮影にも弱点があります。特に商品の色が白や薄い色の場合や貴金属などの場合、ライティングに工夫が必要となり撮影自体の難易度が上がります。
この問題を簡単に解決できるのが「透過光撮影」です。
透過光撮影とは背景に紙ではなく、乳白色のアクリル板など光を通す素材を用いて商品・被写体の裏側からライトを照らし、あえて逆光の状態を作って被写体の輪郭を強調する撮影方法です。実際にプロの現場や有名ネットショップなどでも、多く採用されている撮影手法です。
透過光撮影は白背景紙のデメリットを解決する以下のようなメリットがあります。
- 商品・被写体の切り抜きが容易になる
- 誰でも簡単に立体的できれいな写真が撮れる
- 被写体の影が出にくいので、加工処理が汎用的になる
透過光撮影環境に必要な資材
・背景素材
透過光撮影は背景の後ろから光を当てることが重要なので、背景には光を通す素材を使います。ただ、薄い模造紙や布など自立しない素材は要注意です。背景にシワを作り、それが余計な影を発生させる場合もあるため、余計に撮影が難しくなります。乳白色のアクリル板を使用しましょう。
乳白色のアクリル板はホームセンターなどでも購入できますが、ここで3つポイントがあります。
- 表面が光沢仕上げではない、マット仕上げの物を仕入れましょう。
表面がツルツルしている仕上げのものは余計な反射が発生し、撮影が難しくなります。光を反射しないマット仕上げの物を探してください。 - 取扱商材の大きさを十二分にカバーできる大きさのものを仕入れましょう。
画像加工の際に被写体の周囲に十分なスペースがないと、撮影後に切り抜きや白背景化の作業に苦労します。例えば洋服を撮影する場合は横幅が120cm程度はあった方が良いでしょう。 - アクリル板の厚みは取扱商材の重量に応じて最適な厚みを選びましょう。
商品をアクリル板の上に置く場合、薄過ぎるとアクリル板が曲がって光にムラを生じさせます。逆に厚過ぎると光を通しづらくなるので、透過光撮影の意味がありません。
一例として、私が以前取り扱っていたバッグだと、3mmの厚みのアクリル板を使用していました。ジュエリーや時計などの場合は2mmでも良いでしょう。
・背後用ライト
アクリル板の後ろから照射する背後用ライトには、できるだけ大光量のライトを使いましょう。洋服やバッグなどの場合は、アクリル板のサイズも大きくなるので、アクリル板全体に光が回るよう、複数台のライトが必須となります。
プロの現場では光の種類を統一しますが、ECの商品撮影現場でそれは現実的ではありません。事務所内のさまざまな光源からの影響をできるだけ抑えるため、ワット数やルーメンと言われる光量数値の表示が大きく、且つ色温度を表す表示が5500K(ケルビン=色温度の単位)となっている定常光のLEDライトがおすすめです。
・正面用ライト
透過光撮影は逆光を利用した撮影です。ただし逆光だけだと被写体が暗くなるので、できれば正面から被写体に照射するライトも用意しましょう。背後用ほどの光量は必要ありませんができれば明るさの調節ができるライトが使いやすいでしょう。
正面用ライトが用意できない場合は、撮影場所の蛍光灯や、カメラの露出値の調整でも対応可能です。
それでは、次は透過光撮影の手法を用いた各商材ごとの撮影方法をご案内します。
バッグ・小物などの透過光撮影
バッグや小物の場合は、乳白色のアクリル板を椅子型に曲げた撮影台を作り、その撮影台の後ろと下からライトを照射します。(下図参照)
自らアクリル板を仕入れて作ることもできますが、Amazonなどで「撮影台 バックグラウンド」などと検索するといくつかの商品が存在します。
実際に市販の撮影台を使用し、簡単な撮影環境を作って撮影してみました。是非こちらの動画をご覧ください!
[embed]https://www.youtube.com/watch?v=MpPOK1__9f8&t=146s[/embed]
撮影時は被写体の背景となるアクリル板全体にできるだけ光が均等に当たっていることがポイントです。合わせて被写体には斜め45度くらいからライトを当てるのが良いでしょう。
この状態で一旦撮影してみて、どうしても商品が暗く写ってしまう場合は、カメラの露出補正で明るさを調整する方法が簡単です。
カメラの露出補正の設定については、コラム第六回で詳しく説明していますので、ぜひ復習してみてください。
この環境で撮影した写真が、以下のスニーカーの写真です。
靴のソール部分の白色と背景が同化することもなく綺麗に撮影できています。
これを商品画像の自動加工ツール、ZenFotomaticで加工すると…
ワンクリックで自動的に白背景加工、切り抜き処理ができました。
想像してみてください。
透過光撮影をして、数十数百枚の写真を自動的に一括画像加工処理するのが良いか。
白背景紙もしくはその他の環境で撮影し、苦労して1枚1枚画像処理する方が良いか。
洋服の透過光撮影
洋服については、上記したバッグや小物などと手法は同様ですが、アクリル板は立てて使用します。
実際に私が自社の商品撮影の際に製作した環境が下図のものです。
ホームセンターで手に入るパイプで箱のような形を組んで、表面に乳白色のアクリル板を立ててはめ込み、内部にLEDライトを設置しています。
ハンガーは上部から透明の釣り糸に引っ掛けて吊るしていますが、アクリル板の前にマネキンやトルソーを置いて撮影することも可能です。
この環境で撮影した写真がこちら。
こんなに薄いレース素材の被写体も、ZenFotomaticにアップロードすると自動で…
こうなります。
平置きで撮影したい場合は同様の環境を横に倒し、その上に商品を置いて、上から撮影しましょう。
ジュエリーや時計など貴金属の撮影方法
ジュエリーや時計などの貴金属の撮影は、これまでの商材よりも少し難しくなります。
しかし、こちらも環境次第で素人でも十分なクオリティーの写真をサクサク撮影することが可能です。
ジュエリーや時計などの撮影でも乳白色のアクリル板を用いて被写体の背後から光を当てます。机に白背景紙を敷いて透明な筒状の物を柱にし、その上に乳白色アクリル板を置きます。
背景紙とアクリル板の間の隙間にライトを照射します。
ここでは次のように卓上ライトを用いました。
貴金属の撮影で気をつけなければいけないポイントは、映り込みと直接光を避けることです。撮影者やライトは被写体に映り込むと、後から画像加工で消し込む為に画像処理ソフトの知識や技術が必要となってしまします。
貴金属に直接光を照射すると、余計な反射を起こしたり被写体が白く飛んでしまします。
そこで、次の様に白色で且つ被写体を光を通す素材で覆う事で、映り込みを防ぎ、関節光によって均等に光が充満した空間を作ることができます。
今回は100円ショップなどで手に入るポリプロピレン素材のサラダボールの底をくり抜き、天井が空いたドーム状の被せを作りました。
これをアクリル板に置いたジュエリーに被せます。ポイントは白色且つ、アクリル板同様光を通す素材であることです。
ライトは一灯がアクリル板を下から照らし、一灯は作成したドーム状の被せに照射します。
さらに一灯を敢えてドーム天井の穴の真上あたりにからジュエリー向けてに照射する事で、宝石部分に輝きを出します。ただし直接光となるので、ライトの向きや距離には注意して、金属部分にあまり影響がない様心がけましょう。
そして実際に撮影した写真がこちら。
これをZenFotomaticにアップロードすると自動で…
こうなります。
もう一つのポイントとして、ジュエリーや時計の撮影には被写体に近寄って撮影できる、マクロレンズ、又はマクロ撮影モードの設定ができるカメラを用いましょう。
マニュアルではなく、シンプルなルールで運用する
3種類の商材を例に透過光撮影についてお話ししましたが、もう一点全ての商品撮影業務フローに共通する重要なポイントがあります。
主に透過光撮影に必要な資材やそのセッティング、またライティングについて説明しましたが、せっかく環境構築しても、それらが撮影者が変わる度に位置や向きが変わっていては全く意味がありません。
そこで重要なのが、一旦環境構築した後は、撮影環境の場所、ライトの位置、ライト強さなどを変えない事です。いや、「変えられないようにする」と言った方が正解です。
ある2社の例をご紹介します。
双方とも、それぞれの環境に合った撮影環境とライトの設置などをしたのですが、数日後その2社で大きな違いが出ました。
1社はせっかく設置した被写体照射用のライトがいつの間にか被写体と反対方向を向いてしまっておりました。背後用のライトは電源が入っていないにも関わらず、作業者は何も考えずに、まるでシステムのバグのように黙々とエラーを実行していました。
細かくマニュアルを作っていたにもかかわらずです。
冗談に聞こえますが、実はこのようなケースはさほど稀でもありません…
もう1社は、特にマニュアルは無く「写真が暗いときはカメラの露出値を+/ーで調整してください。それ以外は一切触らないでください」の一文だけでした。
そのかわり、撮影台とライトを紐で繋ぎ移動しないように固定し、床に色テープでライトスタンドの位置をマーキングして仮に位置や向きがズレても誰でもすぐに元に戻せるようにしました。
さらに、ライトの強弱調整メモリは物理的に蓋をしてさわれないようにした上で、各商材ごとに撮影者の撮影位置を床に同じくカラーテープで色分けしてマーキングしたのです。
撮影者が個々の主観を挟む余地を徹底的に排除し、まさに誰でも撮影できる業務フローを構築しました。ちなみに、こちらのネットショップは、ユーズドファッションながら写真が綺麗で有名で、業界トップクラスの売上と利益率の会社です。
ECの商品撮影業務フローに必要なもう1つのポイントは、上記の例のように「これをあぁしてこうして…」という丁寧なマニュアルではなく、「これ以外一切触るな」というシンプルなルールと、それを可能にする徹底的な環境と仕組みの構築です。
属人的作業フローに潜む無視できない事業リスク
商品撮影に大切なのはカメラの操作よりもむしろ「ライティング」です。
しかし、ライティングこそ知識や経験が必要となり、撮影者によっても知識や手法が大きく異なります。
そのため、再現性や一貫性が必要なECの商品撮影や画像加工をスタッフそれぞれの技量に依存すると、一貫性どころかスタッフの退職時には最悪の場合業務が止まります。
当たり前ですが、ネットショップは商品が無いと売れません。商品が登録されるまでの期間は滞留在庫となり機会損失している状態です。そうした事態が属人的な業務フローが原因で起こり得るということは、明らかに事業リスクではないでしょうか?
だからこそ、目的に対して正しい撮影環境を最初に構築することで、作業者が思考しながら作業する余地を可能な限り無くし、誰が撮っても、誰が辞めても事業に悪影響が出ない平準化された業務フローを構築すべきなのです。
そうした非属人的オペレーションを構築しない限り、基本的に稼働業務である商品登録作業は必要に応じた拡大と縮小が早期にできません。なので、市況が良い時に機会損失し、事業環境が悪い時に出血が止まらないという負のサイクルから抜け出せなくなってしまいます。
今回ご紹介した撮影環境に必要な資材や機材、ソフトウェアなどの目先のコストなどは、上記の業務フローが確立されればすぐにペイできます。ここは直近ではなく、俯瞰的視野で投資しましょう。
一方で、人間が人間だからこそできる仕事にこそ、有限である時間とコストとリソースを使って、無限のクリエイティビティーを投入しましょう。
次回は・・・
「届いた商品の色が写真と違う!」
特にファッション系のECサイトではTOP3に入る返品理由ではないでしょうか?
次回は、商品の色を正しく写真で表現する方法についてご案内します。
お楽しみに!
著者:藤井 杏樹 | グラムス株式会社 ZenFotomaticサポート、フォトグラファー
シューズメーカーや高級ブランド品を販売する企業で商品撮影・画像加工・商品登録業務に従事し、2017年グラムスに参画。カスタマーサポートを中心にオンラインで商品撮影コンサルティングやコンテンツライティングを担当。フォトグラファーとしてもポートレートを中心に活躍中。
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