1サイトで年商2億円以上を売り上げる、食品ECのパイオニア「丹波篠山いのうえ黒豆農園」。1999年にECサイトを開設し成功に導いてきた井上敬介氏は、自らの経験やノウハウを他の事業者にも紹介するため、年間150〜200本の講演活動を行っている。また近年は、海外展開にも力を入れており、自社だけでなく他社の海外進出支援を手がける。毎月海外に行っているという井上氏に、国内の通販事業者が海外で成功するためのヒントを教えてもらった。
広告費は使わず、年商2億円超え
井上氏が家業である「丹波篠山いのうえ黒豆農園」の3代目として入社したのは、1998年。それまで人材派遣会社で働いていたが、25歳の時、家業を継ぐため入社を決めた。先代の父が用意したのは、「口下手なお前でもできるだろう」という理由で、通販事業の責任者だった。
準備期間を経て翌年1999年、ECサイト「丹波篠山いのうえ黒豆農園」を開設した。しかしそれまで会社として通販に取り組んだ経験はなく、全て独学で学ばなければいけなかった。他社の食品通販サイトを徹底的に研究したり、通販会社が集まる会合に参加し情報収集する日々。そうして徐々に売れるコツを身につけ、2002年には1,000万円を超えていなかった年商が、翌年には1億円、2004年にはついに2億円を突破した。 井上氏は限られた予算の中で多くの人にサイトの存在を知ってもらうため、広告は使わず注目を集める方法を実践している。例えば、人気商品の「黒豆のせっけん」。同社の主力商品は食用の黒豆だが、それを石けんに活用するという目新しさが各メディアの目に止まり、自然と商品が紹介される機会が増えて行った。また自社で所有している畑もどんどんPRし、テレビ取材への対応も続けている。2004年以降年商はほぼ横ばいで来ているが、豆の生産量には限界があるため、それ以上売上を伸ばすことができない。しかし先述した通り、広告宣伝はほとんど行っていないため、十分利益は確保できているという。 現在は独自に培ってきた運営ノウハウを他社にも伝えるため、年間150〜200本ほどの講演を行うなど、積極的に他社支援にも回っている。そんな井上氏が近年特に目をつけているのは、海外だという。アジア圏を中心に毎月海外へ行き、ビジネスを広げている。
まずは英語サイトを開設し、注文件数の多い国を見つける
毎月海外に行っている井上氏は、日本の通販事業者が海外で成功するためには何が必要だと考えているのだろうか? まず始めに、「英語サイトを作ること」だという。近年は楽天の英語対応(海外向けの商品ページを自動で英語翻訳するサービス)により、日本のサイトで商品を購入し、自国に取り寄せる外国人が増加している。商品への理解を深め購入してもらうためにも、英語サイトは必須だ。「独自ドメインサイトを運営しているけれど英語が苦手で翻訳ができないという方は、楽天に出店するなど、自動翻訳を提供している外部サービスを使ってみるのがいいだろう」(井上氏)。 井上氏の経験から、英語版サイトを開設しある程度注文が入ってくるようになると、「国が分かれてくるのだという。井上氏が運営するサイトの場合は、台湾からの注文が圧倒的に多い。どの国からの注文が多いかが分かれば英語版だけでなく、その国の言葉に対応したサイトを作り、国に適した商品開発を進めるなど、次の一手を打つ事ができる。「この国で売りたい」と目的ありきで始めるのも良いが、まずはどこの国で需要があるかを探ることで、より手堅く海外ビジネスをスタートできそうだ。
国によって事情は違う。現地視察は必須!
とはいえなかには、「どうしてもこの国に進出したい」と強い目的を持って海外展開を進める事業者もいることだろう。そこで井上氏に、これから海外進出するならどこの国を目指したらいいか聞いた。 まず世界最大の人口を誇る中国だが、井上氏は「よほど中国で売りたい商品が無い限り、中国を主戦場にするのはオススメできない」と指摘する。人口の多さに比例しインターネットユーザーやEC利用者も拡大しているので、巨大な市場は魅力的ではあるが、それだけライバルが多いという事でもあるからだ。アジア最大の仮想ショッピングモール「淘宝網(タオバオ)」一つとっても、出店数は500万店舗以上。数が多過ぎるため、日本人が出店したとしても埋もれかねない。 そこで注目したいのが、EC市場が徐々にできつつあるフィリピンだ。井上氏によると、「今のフィリピンは、日本の1999年〜2000年くらいの感覚」。つまりECはまだまだ発展途上で、伸びしろが大いにある市場というわけだ。 親日家が多いことで知られるベトナムも、オススメしたい国として挙った。ベトナムは、Facebookを利用したソーシャルコマースが発展しており、成功事例も多く出始めているという。ベトナム人を対象にするのであれば、Facebookの活用は必須となりそうだ。
その他、日本商品に関心があり、少し割高でも購入する人が多い香港も、日本人事業者がビジネスを始めるには適しているという。井上氏は香港にある日本食のスーパーで自社製品の黒豆を販売しているが、「富裕層の購入が目立つ」としている。商材にもよるが、日本ブランドを強く打ち出したい商品は特に、「日本製品が高いと思わない人を対象にできれば、勝機はある」(井上氏)。 外国の情報は国内にいても手に入れることはできるが、その情報にどれほど信憑性があり、新鮮なものなのかは、やはり実際に現地へ足を運んでみないと分からない。日本で、「この国でビジネスするには◯◯が必要だ」等とまかり取っている常識だったとしても、現地では全く違うこともある。商習慣の違いだけでなく、人々の関心事、またどれだけECの需要があるかなども現地に行き、「生の情報」に触れてこそ得られるもの。「ある程度国の目星が着いたら、必ず現地に行ってみてほしい」という。
外国では8割できていれば問題ナシ!100点を目指さず、まずは海外へ出てみる
上記に挙げた国で共通しているのは、「圧倒的にスマートフォンやタブレット端末での購入需要が多い事」と井上氏は指摘する。そのため日本であれば、まずはPCサイトからスタートし、スマートフォンに最適化したECサイトを別途用意するのが一般的だが、外国では事情が異なる。スマートフォンサイトでの購入率が圧倒的大多数を占めるため、まずはスマートフォンサイトを作った後に余力があればPCサイトも用意するとのことだ。 井上氏が海外進出を希望する事業者からよく受ける質問の一つに、「カスタマーサポートの問題」があるという。「英語サイトを作ったはいいが、英語で質問が来られても返せない」などの不安を持っている事業者は多いというが、「全く心配しなくていい」と井上氏は断言する。ユーザーから寄せられる質問は大半が同じような事なので、「考えられる回答をすべて事前に英語化し、サイトに掲載しておくだけで、ほとんどクリアできるだろう」というのがその理由だ。また定型文をいくつか用意しておけば、質問が来た時に内容を少し変えるだけで対応することも出来る。 日本人は、「到着時に箱が凹んでいた」など細かいクレームをつける顧客が多いが、海外の場合は、「ある程度のリスクを折込済みで注文しているので、些細なことは気にしない人が多い」のだという。「100点じゃなくても、8割OKだったらクレームを言ってくる人はいないし、そもそもクレーム自体ほとんどないので安心して海外へ出てほしい」(井上氏)。
井上氏は自らも各国でEC展開をしており、諸外国の事情についてはあらゆる知見を持っている。そうした情報は講演活動で惜しみなく披露されているので、より詳しく話を聞きたいという方は、ぜひ井上氏の講演に参加してみてほしい。
(取材と文 公文紫都)
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■会社名:株式会社井上商店 ■設立:昭和36年9月2日 ■ECサイト名:黒豆NAVI ■URL:http://www.kuromame.co.jp/ ======================================
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