年間660万人が利用する「絵本ナビ」は、4万タイトル以上の絵本を扱う国内最大規模の、絵本の情報・ECサイトだ。運営するのは、東京・代々木上原に本社を構える株式会社絵本ナビ。子どもの誕生を機に独立、起業したという同社の金柿秀幸社長に、絵本をテーマにしたビジネスを開始した理由、会社・サービスの現状、そしてこれからの展望について聞いた。
シンクタンク勤務を経て、子どもの誕生を機に独立。 「絵本情報」にニーズを感じ起業
金柿社長が、絵本ナビ(旧社名:有限会社ゴールデン・サン)を設立したのは、2001年10月。その前は銀行系のシンクタンクに勤務していたが、子どもの誕生を機に独立。2002年4月に絵本ナビをオープンさせた。 金柿社長は、2001年に退職する以前からインターネットビジネスに可能性を感じており、いくつもビジネスプランを考えていた。具体的にサービスに対する答えが見えたわけではなかったが、思い切って独立。「自分で考えて生み出したサービスを世に問いたい」という思いを実現すべく、一人の父親としてニーズを感じていた「子どもと絵本」をビジネスの主軸に置くことにした。 ところで、なぜ絵本だったのか。特に、絵本に慣れ親しんだ幼少期を送ってきたわけではなかったが、「子どもに絵本を読み聞かせると喜んでくれて。これはもしかすると広い世界があるのかもと思ったのです」。金柿社長は振り返る。また子どもが生まれる前から、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のミュージアムショップで、『はらぺこあおむし』のグッズや本がたくさん置かれているのを見て、「それまで子ども向けだと思っていた絵本に、別の世界があるのかもしれないと感じていた」ことも大きかったという。 絵本にビジネスの可能性を感じいろいろリサーチをしていくと、一つの興味深い答えに行き着いた。それは、子どもを持つ友人知人に好きな絵本を聞いて回ると、有名な『ぐりとぐら』以外、挙がったタイトルが全員異なったことだ。またそれらの作品を選んだ理由には、各家庭の幸せなエピソードがあり、金柿社長がこの情報をほかの友人知人に共有すると喜ばれた。「絵本情報に勝機があるかもしれない」。ヒントを得た瞬間だった。 そうして2002年、絵本ナビをスタートさせ、2005年には会社名をサービス名と同じ絵本ナビに切り替えた。
ロングセラーものが多い絵本。年間1,000タイトル以上出る新刊をいかに知ってもらうか
現在同社は、主に「インターネットメディア事業(広告売上)」と「eコマース事業(物販)」の2本柱で構成されている。メディアの収益源は、①ファミリー層向けの商品やサービスを所有しているクライアントによる広告出稿と、②出版社向け広告の2つ。eコマースは、主要製品である絵本を始め、キャラクターグッズなどの販売を行っている。絵本ナビ以外にも複数の関連メディアを展開しており、現在の売上高は、「1ケタ億の中ほどくらい」(金柿社長)だという。 注目したいのは、出版社向け広告だ。単発の広告だけでなく、出版社各社とパートナー契約を結び、絵本ナビをプロモーション用のプラットフォームとして活用できる広告枠を提供している。パートナー契約を結んだ出版社にIDを発行し、絵本ナビ内に自社ページを開設してもらう。契約している出版社は、自社ページ上で紹介している作品の閲覧回数、販売数、評価などのデータを得ることができ、それらをマーケティングに活用することができる。現在のところ、60社ほどと契約しているという。 こうした広告枠を提供している理由について、金柿社長は絵本業界を取り巻く独特の販売事情を挙げる。 「もともと絵本ナビの立ち上げのきっかけにもなっているのですが、絵本を買おうとしている親御さんは良い作品を欲しいと思いつつも、数ある作品の中から何を選んだらいいのか分からないと考えている人が多いのです。理由の一つに、オススメされる作品が定番化しやすいという背景があります。絵本はロングセラーものが多く、10年前、20年前と売れ筋ランキングがほとんど変わっていません。こうした根強いロングセラー作品の中では、新刊が発売されても注目されなければ埋もれてしまいがちです。新刊は年間1,000タイトル以上出ているのですが、これまではいかに書店に平置きしてもらえるかが売り上げを左右すると言われてきました。棚に入ってしまうと、それこそ全く売れないという状況になるわけです」。 こうした出版社・書店側の事情もさることながら、消費者側にも書店では買いにくい理由がある。 「実は、親御さんが小さいお子さんを連れて、本屋でゆっくり絵本を選ぶことは難しいと言えます。小さいお子さんはすぐ走り回りますし、お家に帰ろうよ! とじっとしていることがないからです。なので時間をかけて、欲しい絵本を吟味することができません。そうなると、選択基準が、『じゃあオススメって書いてあるからこれで良いか』となってしまうのです」。 「本当はもっと子どもに合う作品を選びたい」と願う母親、「うまくPRできず売れない」と嘆く出版社。このギャップを埋めることこそが、絵本ナビが目指すところなのである。
「全ページためしよみ」の導入で、13倍売れた絵本も
金柿社長は、絵本ナビを「購買意思決定支援メディア」だと説明する。これまで知ることのなかった絵本との出会いを創出し、購買までを後押しをするからだ。「購買意思決定支援」の大きな役割を果たしているのが、「ためしよみ」というサービスである。サイト上で全文読めるものと、一部だけ読めるものとに分かれており、書店で購入する前にぱらぱらと絵本をめくって試し読みするという体験がウェブ上でできるようになっている。 権利関係、出版社との交渉……数々の難関をクリアしても「ためしよみ」を実現したのには、いくつかの理由がある。 大人が書籍やCDを購入する場合には、「なんだか良さそうだ」という、いわゆる自分の感覚を頼りにした「ジャケ買い」によるところも多い。しかし対象が子どもとなると、そうはいかない。「うちの子が怖がる絵はないだろうか」「我が家の教育方針と合っているだろうか」「そもそも気に入るだろうか」。親でも計り知れない「子どもの感覚」がそこには存在するからだ。こうした懸念を払拭するため、通常は子どもと一緒に書店で試し読みをしてから購入することが多いが、前述した理由で、なかなか書店では「相性の良い新たな一冊」と巡り会うことができない。 そこで、一緒に自宅のパソコンで試し読みをし、気に入るか反応を伺うために、「ウェブ上でのためしよみ」が機能する。実用書や小説は一回読むと、なかなか繰り返し読むことは少ないが、絵本の場合は、一回読んだからもうおしまいということはなく、むしろ子どもは気に入った本を繰り返し読む傾向がある。そのためパソコンで試し読みをしたから興味を失うということは、滅多に無い。 金柿社長は、「『ためしよみ』には、必ず販促効果があるはずだ」と自信を持っていたが、はじめから出版社や作者から承諾を得られた訳ではなく、まずはトライアルとして31タイトルで可能性があるのか探った。1カ月のトライアル期間を経た結果は、平均4倍の売り上げアップ。なかには、トライアル実施前と比較して、販売数が4冊から52冊へと、13倍の売り上げを達成したものもある。合わせてユーザーからもヒアリングしたところ、1,000件を超える反響があり、現在では同社を支える主要なサービスとなった。
レコメンドサービス「絵本コンシェル」をリリース
絵本ナビは、レコメンドの質の高さ、数の多さにも特徴がある。現在27万件のレビューが集まっており、そこには絵本を通じた家族の幸せなエピソードが溢れているという。 こうした生の声は評価が高く、ユーザーの承諾を得られたレビューに関しては、「楽天ブックス」や「ツタヤオンライン」、「未来屋書店」など、ほかのネット書店やリアルの書店にも提供している。競合に情報を渡すのは不利になるのでは? と思いたくなるが、「まだまだ市場の小さい日本の絵本・児童書というジャンルを活性化していきたいから」と金柿社長は説明する。また自社では、「読むと幸せな気持ちになれる絵本100選」というテーマで、「幸せの絵本」という絵本ガイドブックを出しており、ここに一部のレビューを掲載している。 「現在パート3まで出しているのですが、大変好評で、累計6万部を発行しています。はじめは、レビューが本になることを嫌がるお客様もいるのではと心配していたのですが、逆にとても多くの方に喜んでいただき、もう一度レビューを書こうというモチベーションにつながっているようです」(金柿社長)。
2014年2月には、より最適な絵本をオススメできるよう、「絵本コンシェル」というスマートフォン・タブレット向けサービスをリリースした。年齢と、ユーザーが選んだお気に入りの3冊を分析し、オススメの1冊を紹介するというものだ。現在期間限定で、絵本コンシェルの無料提供をしている。これを足がかりに、「今後も楽しく絵本に接する機会を増やせるような新サービス、新機能」を提供していく予定だ。
(取材と文 公文紫都)
======================================
■会社名:絵本ナビ
■設立:2001年10月25日
■ECサイト名:EhonNavi
■URL:http://www.ehonnavi.net/
======================================
この続きは、通販通信ECMO会員の方のみお読みいただけます。(登録無料)
※「資料掲載企業アカウント」の会員情報では「通販通信ECMO会員」としてログイン出来ません。