楽天(株)が「楽天市場」のカスタマーサポートに5月から導入したAIを利用したチャットボットシステム「CS bot」が、大きな成果を上げていることがわかった。「CS bot」導入後はリアルタイムでの対応率が約8割に向上したほか、1カ月でオペレーターの5.2~8.1人分に相当する省人効果が確認されている。
「CS推進部」を新設してカスタマーサポートを強化
楽天では、ユーザーが楽天市場でストレスなくショッピングを楽しめる環境を提供するため、カスタマーサービス(CS)を強化。2016年12月からCall(電話対応)の営業時間を21時までに延長し、チャット対応を24時間にした。17年2月には、楽天のECカンパニー内に「CS推進部」を新設。
楽天のECカンパニーCS推進部の江尻容子シニアマネージャーは、「このCS改善アクションの流れのなかで、ユーザーの声を反映しながら、様々な改善策を進めてきた」と語る。例えば、ユーザーインタビューでは3割の人から「知らない人には質問したくない」との回答があったため、5月からユーザーからの問い合わせに自動対応するチャットボット「CS bot」を導入している。また、ユーザーにはスマホ利用者が多いほか、ネットに慣れていない層も存在することから、江尻氏は「『CS bot』では、なるべく質問を入力せずに、質問を選択して解答を導き出せるようにした」と話した。
楽天ECカンパニー CS推進部 江尻容子シニアマネージャー
8月の対応件数は前年同月比で約50%アップ
「CS bot」導入以降で、楽天スーパーセールの開始前の問い合わせ状況(6月前半と8月末)を比較すると、チャット・電話・メールを利用した有人対応件数が1日平均で10%減となった。1カ月に換算すると、5.2~8.1人分の省人効果が得られ、問い合わせ対応が効率化した。CS bot導入前の4月と8月の比較では、有人対応件数が同5%減、1カ月換算で2.6人~4.1人分の省人効果があった。
また、「CS bot」が入力された質問に正しい解答を提示した率は9割以上に上り、カスタマーサポートが質問に対応した8月の対応件数は、前年同月比で約50%アップした。Chatコミュニケーションの中でbotが対応したシェア率は、5月では約25%だったが、8月には約53%となり、件数も3倍になった。リアルタイムでの解答率は約77%に上る。
こうした成果について、江尻氏は「楽天市場の流通総額が拡大するとともに、問い合わせの件数も増えていた。これらの問い合わせに対し、できるだけ早く解決することを心がけ、営業時間の延長、リアルタイムのコミュニケーション(電話・チャット)の拡大、チャットボットの導入など、さまざまな改善策を実施した。特にその場で同時に大量の問い合わせに対応できる点で、チャットボットの効果は大きかった。問い合わせのキャパシティを拡げ、現在は問い合わせの約8割をリアルタイムで対応できるようになった」と話した。
データ連携でパーソナル化した解答も
楽天市場のカスタマーサポートに届く問い合わせは、ID、ポイントサービス、セールなど楽天市場のサービスに関するものだけでなく、配送状況や商品の情報など、出店店舗向けの質問も含まれる。日本最大の流通総額を誇るECモールだけに、問い合わせも多岐に渡る。また、ユーザーは20代から70代まで幅広く、世代に合わせた対応も必要だ。こうした多様な質問のなかから、「CS bot」はオペレーターがチャットやメール、電話で対応する必要がない質問を自動対応している。自動対応で解決できなかった質問には、オペレーターがチャットなどで対応する。
同社の「CS bot」は、IBM Watson(ワトソン)による自然言語処理、会話制御などのAPIと、楽天のAI関連技術やカスタマー対応に関するデータベースを活用して構築した社内システム。江尻氏は「現在、AIエンジニアは、楽天市場の開発と連携して取り組んでいる。楽天市場が保有するデータを連携させ、よりパーソナライズされた解答を出せるように解析を進めている」とし、カスタマーサポートのさらなる品質向上に取り組んでいる。
EC業界では、AIを活用したカスタマーサポートの導入が進んでいるが、問い合わせの件数が莫大なECモールこそ、その効力は大きいようだ。楽天の取り組みは、カスタマーサポートの今後の在り方を変えていくモデルケースになるかもしれない。
(山本剛資)
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