「定期購入」のあり方が問われてきている。17年12月には特定商取引法が改正され、定期購入通販では総額表示が義務付けられた。規制が強まってきている状況でこれまでの手法のままではたちいかなくなってきている。そこで通販通信では、単品通販のエキスパートでもある(株)ダイレクトマーケティングゼロ(以下、DM0)の田村雅樹社長と、(株)協和の社長室EC事業責任者の小原田剛氏に単品通販の未来について語り合ってもらった。
田村「契約でお客さまを縛るのが通販の本質じゃないはず」
——はじめに、従来型の定期購入のあり方の課題についてどう捉えているかをお聞かせください。
田村:まず思うことは、日に日にマーケティングのテクニック論を説く声が大きくなってきていて、通販の本質が見えにくくなってきているなと。本来、通販は「お客さまありき」「商品ありき」であるはずですが、オンライン・マーケティングのテクニック先行施策によりお客さまの満足が置き去りになっている。こうした風潮は「なんでもありの世界」になりつつあるのじゃないかなと思います。昨今のこうした流れはアドフラウド問題に加えて、EC/通販業界の寿命を10年くらい縮めていると思います。
本来、EC/通販企業はお客さんに「喜んで使い続けてもらう」べきです。お客さまを「契約」で縛って、定期購入してもらえたら「いっちょあがり」ではないはず。顧客目線不在のマーケ至上主義加熱の果てにあるのが、16年末のウェルク問題であり、17年末のグーグルの健康医療情報のアルゴリズム変更。改正特定商取引法によって定期購入通販が規制されたのも同じ流れだと思います。
ただ、残念なプレーヤーもまだまだいる一方で、商品の売りこみをせずに継続を促進するオンライン・オフライン施策といったアドボカシー・マーケティングを実施する企業も増えて来ているかなと感じています。
僕が以前在籍していたベネッセという会社は、「商品」と「サービス」の垣根がない会社でした。彼らのお客さまとのつながり方こそ、本来通販会社があるべき姿じゃないかと思っています。商品を理解してもらった上で、サービスでよりお客さまと繋がってもらおうという風土があったのですね。一例として、受講生の部活を応援するような取り組みであったり、引越先の受験情報をプレゼントしたりしていました。
小原田「従来型の定期購入のメリットが成立しなくなってきている」
———「単品通販脱却」と題したセミナーを開催するなど協和さんでは様々な取り組みをなされていらっしゃるようですが、小原田さんはどうお考えですか?
小原田;まず田村社長の指摘する現在の単品通販の現状の考察については同感です。特商法の改正についても、当然のことであり当社としても歓迎すべき内容だと思っています。その上で、今思っていることは、「良い商品だけじゃダメになった」のかな、ということ。ここ20年くらいでインターネットが爆発的に普及し情報社会になりました。スマートフォンも普及し、誰もがありとあらゆる情報にアクセスできる時代です。そんな中、お客さまにとっての「いい商品」は1つではなくなってきています。昔と違いたくさんの情報と接しているお客さまが「これだ!」と思ってくれるようなオンリーワンの商品の実現が難しくなってきているのです。こうした環境の中、今の「定期購入」のあり方は適していないのではないかと思います。
「定期購入」がそもそも持っていたメリットが、もう成立していないとも思います。定期購入のメリットは、その都度買うより安く購入できるなどといった「お得さ」と、一定のスパンで商品を届けてくれる「手軽さ」にありました。ただ、今は比較サイトを見れば安価な類似商品は山のように見つかります。「届けてくれる」手軽さも、アマゾンなどのサービスレベルが上がりすぎて、一介の通販会社では太刀打ちできないのが現状です。
「安さ」を深掘りすることはもちろん可能です。ただし、価格を抑えるのは限界があります。最終的に行き着くのは「製品を劣化させてコストを抑える」ことになってしまいかねません。
こうした中で通販会社は「定期」をやる意味について、根底から考え直さくちゃいけないのかなと思っています。そこで、重要になってくるのが「お客さまの目線」で物事を見るということじゃないかなと考えています。
商品のコアコンピタンスを見直し、お客さまのフェーズに合わせたコミュニケーションを
——今、通販企業が実践すべき”お客さま目線”の実践とはどういうものでしょうか。
小原田:何よりも大事なことは、商品のコアコンピタンスをもう一度見直すことでしょう。当たり前のことではありますけど、お客さまに選んでもらえるようないい商品をちゃんと作っていく。常に商品を改良し、最高な状態の商品を届けようという気概が必要ではないかと思います。
田村:大事なことは、「お客さまとどう時間を共有するか」、「どう仲良くなるか」にあると思います。お客さまのフェーズに合わせたコミュニケーションをとることが大切で、当然シナリオ作りが重要です。シナリオを考えるためには、お客さまの気持ちの変化を知り、お客さまの生活を知ることも必要になってきます。「お客さま目線」の実現には、ずっと探求し続けていくしかないかなと思います。
小原田:おっしゃる通りだと思います。お客さまを知るにはウェブ上の行動や、トークのログと言ったデータを見るよりも、実地でやるべきですよね。
田村:意外と通販会社さんは、お客さまと直接接触することを怖がる会社が多いんですよね。「失礼だったらどうしよう」とか、「やめちゃったらどうしよう」とか考えちゃう。また、オンラインでも純粋にお客さまのセグメント別のニーズやイメージ、満足度などの継続率に影響する因子を探る定量アンケートなどは意外と役に立ちます。やってない会社も多いですが(笑)
小原田:コト消費の世の中、などと言われてきていますが、お客さまとの関係性を考えるにあたって「モノ(商品)」でつながるのではなく、「コト(コミュニケーション)」で繋がっていくことが非常に重要ですよね。コミュニケーションでつながりを持つということは新たな購買のきっかけ作りになるわけですから。また、「買い物をする」という行為は「コト」なのですが、従来型の定期購入は買い物の楽しみが著しく欠落しているな、と思います。お客さまには、楽しんでもらえる買い物を提供したいですよね。当社としても、頑張らなくちゃいけない部分かなと思っているところです。
当社はメーカーですので、大手モールにはできない商品知識の深さやサービスを向上させ、強みにできると思います。例えば、Appleの製品は家電量販店でも購入できますが、Appleストアに行列ができますよね。こうしたことはメーカーが持つブランドの強みだったり、お客さまとのつながり方だったりが重要だととらえています。これに近い取り組みを当社でもできないかと考えているところです。
コミュニケーション施策というと、一例としてバースデイ施策があります。通販だけじゃなくあらゆるクーポンやセールの案内をするわけですけど、それって結局売り込みなんですよね。コトによるつながりって売り込みだけじゃないはずですよね。通販会社はその点をもっと掘り下げていく必要があるんじゃないかと思います。
田村:お客さまが思っている予測を上回るサプライズを提供する、のも大事ですよね。「期待を超える」というのは感動を生み出しますから。加えて「時間」や「手間」のかかるサプライズ施策に対してお客さまは「自分のことを見てくれているな、大事にしてくれているな」と感じてくれるんです。お客さまとつながるコミュニケーションっていうのは「喜び」を共有し合うことで関係性を強化していく、というのが大事なのかなと思います。
テクニック論に寄り過ぎてしまうと、データばっかり見てお客さんが数字に見えてしまう。ちゃんと、相手であるお客さまをしっかり見てあげることが大事です。
小原田:データばっかり見る、ということで思うのですが、お客さま目線を履き違えている通販会社さんは多い気がしますね。ECサイトのアイトラッキングの分野でいうところの「お客さま」の「目線」を追ってしまっているケースが多いような気がします。
田村:新規獲得ばかりに力を入れて、定期のお客さまを全くフォローしていないというケースもありますね。定期から離脱しそうになったときにやっと手を打つ、みたいな(笑)。通販ではないですが、携帯電話のキャリアなんかは離脱しそうになった時に、大きなポイントバックをするというような手法をやっていますね。お客さまを最初からちゃんと大事にすることが大切なのですが、実践できていない通販会社さんが多いなという印象です。
一人のお客さまに2度投資することでLTV向上ができるのではないか
——「脱・従来型定期購入」として、協和さんで取り組んでいることは何かありますか?
小原田:当社では「らく楽セレクト便」という、定額で毎月お客さまに欲しい商品を選んでいただくというサービスを展開しています。ただ、中には「選べない」というお客さまもいるのですね。そこは、当社から選んであげるという提案をする取り組みを推進しています。こうした仕組みの中にVOCやAIといった技術を入れ込んでいくことで、お客さまにとって満足度の高いサービスとして提供できるのではないかと。ただ、実装のハードルが高い分野ではあると思います。
田村:定期購入は1カ月に1商品ずつ届けるといったフローが通例ですが、お届けサイクルもお客さまにもっと寄り添うような仕組みが望ましいのかもしれないですね。レコメンドもたとえばお客さまの行動を察知して中身を変えるなど、従来とは全く違う提案の仕方が流行になりつつあるように思います。
小原田:先ほども発言したように「定期購入」は「買い物をする楽しみ」、が抜け落ちています。そんな中で、お客さまを退屈させないようにする施策を単品通販実施企業が従来型定期購入から抜け出していくには、新しいお客さまとの付き合い方を考えていかなくちゃいけない。LTVの考え方も変わっていくのかなと思います。
今思っていることに、1回購入してもらって継続して買ってもらっている中で、どこかでもう1回投資するとLTVが伸びるという2回目のCPOというものがあるんじゃないかと思っています。お客さまに購入を促すために1度投資をします、そののち回収しきれていない期間中にもう1回投資するとさらにLTVが上がるというような事象の指標化できないかと。当社では、まだ根拠、実績、データが足りないのでできていないんですが。
田村:当社では、LTVが高いお客さまセグメントの購入パターンのことを「ゴールデンルート」と呼んでいます。そして、お客さまの行動による分岐点を見つけるんですよね。その際に重要なのが分岐点ごとのLTV差であり、その分岐のアクションにかけられる限界CPOを算出して、施策を推進していくものです。この「ゴールデンルート」の考え方が今小原田さんがおっしゃった2回目のCPOという指標に近いのかもしれないですね。
小原田:なるほど。そういう考え方もすでにあるのですね。非常に勉強になります。
——本日はありがとうございました。
(了)
<株式会社ダイレクトマーケティングゼロ 代表取締役社長 田村雅樹 氏>
【プロフィール】
早稲田大学法学部卒業後、「株式会社ベネッセコーポレーション」、大手化粧品会社を経て、2009年に通販専門のコンサルティング会社「ダイレクトマーケティングゼロ」を設立。通販化粧品・健康食品企業を中心に計500社以上の顧問・コンサルティングを行う。「AMIDAS」や「通販7指標必勝方程式」などの独自理論を打ち立て、クライアントの売上を20倍上げた実績をもつ。「DMA国際エコー賞」「ケープルズ賞」をはじめ「全日本DM大賞」などダイレクトマーケティングに関する賞を国内外で通算37冠受賞。著書に『ゼロからはじめる通販アカデミー』(ダイヤモンド社)がある。講演・寄稿等多数。
https://www.dmzero.co.jp
<株式会社協和 社長室兼EC事業責任者 小原田剛 氏>
【プロフィール】
WEB広告代理店から、大手カタログ通販でのEC責任者や商品事業部の責任者を歴任。直近ではドクターシーラボのEC責任者を経て、現在は美容健康カテゴリーにおいてプラセンタ商品売り上げNo1(※)である株式会社協和の通販ブランド「フラコラ」の公式オンラインショップ責任者並びに通販基幹システムを担当している。自身をマーケッターではなく、オンライン美容部員と評し、お客さまとの近さにこだわって職務を行っている。
http://www.fracora.com
※H・Bフーズマーケティング便覧2014~2018 No.2 2012~2016年商品実績 (株)富士経済
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